第二十三章 ~ 騎龍観音菩薩 ~
「は~・・・・。 」
龍は、大きなため息をついた。
「龍は、観音様に怒っているの? 」
「・・・・。 」
観音様は、少し悲しそうに、複雑な面持ちで微笑みながら、龍に言った。
「全ては、万事の為・・。 」
「・・・・。 」
「龍、ずっと怒ってたり、悲しんだりしていると、その負の力に自分自身が負けてしまうって、ばあちゃんが言ってた。 」
龍は、何故か何処か、悲しそうな、愛おしそうな表情で、キウを見た。
キウが、初めて見る龍の表情だった。
キウは、龍のその表情を見て驚いたが、敢えて、そのことには触れなかった。
何故かは、分からなかったが触れてはいけないことの様な気がした。
「観音様、どうすれば暗羽烏の磁場から魂を守れるんだ? 」
「行ったのか。 」
「うん。 瞑想中に。 ハスミの所に行った。 」
「・・・・。 」
「何を見たのだ? 」
「ハスミと、ハスミの友達。 そこは、暗羽烏の門の中で、台所で働く女の子が一杯居た。 そこでは、贄を上げるんだ。 動物だったり、ひとだったりって・・。 」
キウの心には、ハスミの所に行った時の情景が戻って来た。
キウは、話しながら、そこへ行った時の様に感情が高ぶり始めた。
観音様の目が、あんまり、鋭利に真剣だったので、キウの心は一瞬戸惑った。
キウは、一瞬、だまって観音様の目を見つめた。
観音様も、表情を変えずに、キウの目を見つめ返した。
観音様の目に、涙が浮かび上がった。
キウは、何も言えずに、ただただ、観音様の目を見つめた。
やがて、観音様の目の涙は、流れて下に落ちて、一瞬星の様に光って消えた。
そして、また、涙が落ちて、光って消えた。
観音様は、瞳を閉じた。
キウは、龍の方を見た。
龍は、川の流れを見ていた。
その目は、川では無く、ずっと遠い昔の記憶か、この世に存在しないものを見ている様だった。
その目には、多分、悲しい記憶が映っていた。
キウには、訳が分からない。
観音様は、胡坐座りをした。
座っていると言うよりも、そこに浮いていた。
しばらくすると、龍も瞳を閉じた。
まるで、観音様に同調している様だった。
観音様と龍は、閃光に包まれた。
すると、光から、美しい音楽が聞こえて来て、美しい色とりどりの光が、キラキラと揺れた。
すると、そこは、洞窟の中では無く、空と水平線が見えた。
そして、その境目に、龍の背中に乗った観音様が見えた。
龍と観音様は、水に触っていないのに、2人が良く先には、水しぶきが上がり、水が両脇に分かれて後ろに流れて行った。
龍の背中に乗ったまま、観音様は、キウの所に来た。
そして、キウの右手を握った。
観音様は、何も言わずに、その手を、キウの胸の高さまで持って来て、上を向けて開かせた。
その瞬間、観音様も、龍も、空と水平線も、全てが消えてしまった。
キウの目の前には、再び、洞窟の中の、石清水の流れる川が流れていた。
そして、キウの右手の上には、数珠が置いてあった。
提灯の蝋燭が、“じっ! ”と、音をたてた。




