第二十章 ~ 婆ちゃんの夢 ~
『龍は、何を言っているんだ・・。 婆ちゃんは、とっくの昔に死んだ・・。 』
キウは、心の中で思った。
しかし、言葉として口から、それは出て来なかった。
『防護膜を張るって・・、どうやって・・。 』
◇◆◇◆◇
気が付くと、キウは、敷布の所に戻っていた。
ジッ!
蝋燭が消えかける音がした。
キウは、新しい蝋燭に火を移して、蝋燭を入れ替えた。
『あれ? どうやって、戻って来たんだろう・・? 』
キウには、川から、歩いて帰って来た記憶が無い。
しかし、敷布の所に居ると言うことは、川から歩いて、帰って来たずであった。
「キウ、キウ! 」
懐かしい声が聞こえた。
しかし、それは聞こえるはずの無い声。
どんなに、聞きたくても、もう、二度と聞こえてくるはずの無い声・・。
「キウ、よ~い・・。 」
やっぱり、婆ちゃんの声だ。
キウは、辺りを見回した。
キウは、敷布の右の隅っこに、正座している、小さな人形のような、婆ちゃんを見つけた。
「・・婆ちゃん? 」
「そうじゃ。 やっと気が付いたのぅ・・。 」
「婆ちゃん、何でそんなに小さいんだ? 」
「何かえ? そん言い方は・・。 久しぶりなんじゃき、もっと言い方があるやろう。 小さいっち、そげ、小さいかのぅ? 」
「小せぇ! 」
キウは、大笑いした。
「それじゃ! 何か、悪いことが、あってん、どん詰まりなっちから、いけん! 前を、向いちょらんと! ・・・・落ち込んだら、そげ、笑ろうたら、良いんじゃ。 」
「笑えんかったら? 」
「それでも、無理やり笑うんじゃ! 腹抱えちから、腹ん底から、笑うんじゃ! 」
「婆ちゃん、今やから言うけど、婆ちゃんが言いよること、半分しか分からんかった・・。 」
婆ちゃんは、目をつむって自分のおでこを中指で、優しく突いた。
「これで良いか? わしが、何を言いよるか分かるか? 」
「うん・・。 」
「今は、辛いじゃろう。 心も、体も。 心は、ハスミの身を案じて、体は、暗羽烏の磁場に中てられて・・。 」
「・・・・。 」
「龍が、言ってたけど、どうやったら、防護膜を張れるの? 」
「鶯! 」
「鶯!? 」
「そうじゃ。 鶯になるんじゃ。 」
「???? 」
「ほ~ほけっきょう! 」
「・・・・。 」
「“ほけきょう”と、心の中で言いながら、目と目の間を薬指の先で触るんじゃ。 」
「それで良いの・・? 」
キウは、眉間にしわをよらせながら、少し投げやりに言った。
「本当じゃ! やってみれ! 」
「ほけきょう・・。 」
キウは、そう言いながら、目と目の間を薬指で触った。
それと、同時に、婆ちゃんが、キウのおでこを触った。
すると、辺り一面に、真っ白な光が広がって、何も見えなくなった・・・・。
ジッ!
提灯の蝋燭が、消えそうになる音に、キウは飛び起きた。
婆ちゃんの姿は、消えていた。




