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デートする

バレンタインが近いその日。オレは阿部さんと映画を見に来た。阿部さんはオレと二人で過ごすことにとても緊張していた。もちろん、オレも緊張していた。でも、経験値が少し高いオレがしっかりしなくては、と気を引き締める。


映画が始まるまで映画館が入るショッピングモールを探索する。

「私、ここはあまり来なくて・・・知らないお店ばかりです」

阿部さんは興味深そうにキョロキョロする。

「時間はあるし、気になる店は見ていこうよ」

と提案するとぱあっと表情を輝かせた。

「じゃあ、この店みていいですか?」

オレの趣味ではなかったけど、今日は阿部さんにあわせると決めていたので快諾する。

「さっき通った時、好きなキャラクターのグッズがあるの、気が付いたんです」

といって阿部さんはマスコットを手に取った。

「買ってあげるよ」

オレがいうと阿部さんは目を丸くする。

「だって、今日は思い出づくりでしょ」

そういうと阿部さんの表情が陰る。自分で思い出づくりと提案してきたのにへこんでしまう阿部さんがかわいく思える。

「これでいいの?」

と問うと

「後藤さんも、同じの買いましょうよ!私が買います。思い出、です」

といってきた。正直、全く興味がなかったのでお断りするとぶーと頬を膨らませる。しかたがないので、周辺を見渡し、妥協できる小さめのマスコットを手に取る。

「じゃあ、これを買ってください」

とお願いすると、阿部さんはいつもオレに見せる嬉しそうな笑顔でうなづいた。

「後藤さん、これはお守りになりますよ」

阿部さんは小さな袋に入ったマスコットを渡しながら、このキャラクターは守ってくれるんですとそういった。


映画の時間になり、スクリーンに向かうと阿部さんはまたキラキラした表情をしている。

「私、映画館で映画見るの、本当に久しぶりです!」

最後に見たのは中学生というから驚きだ。

「その時は父に連れてきてもらって。こんな立派な売店じゃなかった」

などといっている。

「じゃあ、ポップコーン食べようか」

子どものように無邪気な笑顔でポップコーンを眺めていた阿部さんだが、オレが二人の間にポップコーンを置くと急に固まった。

???

「あの、もし、手がぶつかったらごめんなさい・・・」

「ははは」

思わず笑ってしまう。

「ごめん、気が付かなかった。一人一個にすればよかったんだね」

「そういう意味ではないです」と恐縮する阿部さんに

「じゃあ、阿部さん食べな、といいたいけど、オレも食べたいから我慢してね」

と笑いかけると真っ赤になって小さくうなづいた。久しぶりに赤くなる阿部さんを見て本当に慣れたなあ、と思う。それがオレのせいだと思うとちょっと誇らしい気持ちになった。


映画が終わると阿部さんがいいにくそうに

「あの、後藤さん。トイレに行って来てもいいですか」

と聞く。いいよ、と答えて、オレも行くわ、とトイレの前で合流することにする。

トイレから出てくると不安そうな表情で立っていた阿部さんが満面の笑みで笑いかけた。ほぼ一緒に出てきた知らない男が自分に笑いかけられたと思ったのか「え」と戸惑うのがわかる。

オレだから。この笑顔が向けられてるのは。

「ごめんね。心配させた?」

とわざと声をかける。隣の男がちょっと恥ずかしそうに横をすり抜けていく。阿部さんは全くその男には目もむけず、まっすぐにオレを見つめてくる。また、流されそうになるのを踏みとどまる。

これは、思った以上に大変な一日になりそうだ・・・。

フーと息を吐くオレを阿部さんは首をかしげて見ていた。


ランチは散々考えて、マックになった。

「なんか、ごめん。デートのランチがマックだなんて」

とオレが肩を落とすと阿部さんは慌てて

「いいんです!マックの方が緊張しないで食べられますから!」

といった。確かに阿部さんの「緊張しないで食べられる」という一言でマックになったのだが・・・。

「次来るときは、いいところで食べられる彼氏を見つけなね」

とオレがいうと阿部さんは何ともいえない複雑な表情をして笑った。

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