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決意する

ボーリング大会をきっかけにその後も何回かイベントが企画されて、あの子との距離は近づく一方。仕事中に目が合うと小さく手を振ってくれたり、笑顔で会釈してくれたりするのを楽しみにしていたり、今までは見られるだけだったのに、今ではこっちから探している自分がいてあきれてしまう。


枯葉が舞い散るころ、あの子がアルバイトに来ない時期があった。

最初の1週目。今までもシフトがずれて会わないこともあったからそんなもんかな、という感じだった。

2週目。さすがにこれだけ会わないことはなくて具合でも悪いんじゃないかと心配している自分がいた。

3週目。入院でもしたんじゃないかと本気で心配になり山田さんに聞いてみた。山田さんはニンマリと笑い、「実習です」といった。そういえばこれからは実習が続くのだといっていたことを思い出した。

4週目。今週が終わったら帰ってきますという山田さんの言葉に指折り数えている自分がいた。

・・・あの子に執着しそうだから連絡先は交換しない、と決めてたけど取り消そうかな、と思うほどあの子に会いたかった。オレの生活は想像以上にあの子に影響されていた。


そして、その週末。

「後藤さん、お疲れさまです」

さわやかな声と飛び切りの笑顔でオレは阿部さんに挨拶された。その笑顔に心底ホッとしている自分がいる。

「実習だったんだってね。大変だった?」

「もう、本当に大変でした。患者さんといるのは楽しかったんですけど、記録で死にそうになりました」

そういえば、少しやせて大人びた雰囲気になっている。

「・・・やせたんじゃない?」

「そうなんです・・・。私、不器用なのであんまり寝られなくって」

「久しぶりのバイトだからって無理しない方がいいよ」

そういうと阿部さんは本当に嬉しそうに笑った。心臓が跳ねる。ああ・・・これは重症だ。このままだと流される。

阿部さんを見送り、バックヤードで作業を続ける。流されるという選択肢もなくはなかった。でも、まっすぐなあの子の思いを受け止めるにはオレにはゆとりがなかった。例えばあの子が山田さんみたいにそこそこ恋愛経験があるのだとしたら。きっとオレは迷わず流されただろう。あとくされなく数カ月遊んでさよなら。今の欲望を埋められればそれでよかっただろう。でもあの子は結婚したいというオレについていくといってくれた。そんなあの子の真剣な気持ちに応えることはできなかった。


自宅に戻るとカバンから一枚の書類を取り出す。「異動希望届」。オレは異動希望にマルをつけた。


オレの異動が発表されたのはクリスマスから成人式にかけた繁忙期を終えたころだった。井上は怒った。中川は何か察した様子だった。加藤さんは「沙織ちゃんがかわいそうだ」と批難した。山田さんは「いいさよならをしてあげて」といった。そして、あの子は・・・。

「後藤さん、思い出作りに協力してもらえませんか」

と笑顔でいった。

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