戦士たちの墓場
墓場には『この先は戦士たちの墓場』という案内標識があった。
以前に話を交わした墓守爺さんが居たので、聞いてみる。
「こんにちは。騎士見習いのカリグラです。墓場に隠し通路ってありますか?」
続いて、タッ君の捜索をしている事を隠さずに話す。
すると、墓守爺さんが墓石の掃除を中断して、カリグラを見つめた。
「ほう。墓の隠し通路か。たしかに、それが作られた墓もある。墓に地下室を設けたためじゃな。まあ、故人の愛用の品などを共に葬るために作られたのじゃがな。それ以外の目的のものもあるが。
ところで騎士見習い様、何が目的で墓を調べておる? 本当に子供の捜索かね?」
カリグラが小首をかしげながらも、素直に答えた。
「? はい。行方不明の子供の捜索をしています。それ以外はラーラル警察から何も依頼されていませんよ」
墓守爺さんがカリグラの顔をじっと見つめてから、うなずいた。
「……よかろう。前回も墓参を申し出ておったしのう。裏は無さそうじゃ。騎士見習い様とその御一行、今から話す事、他言しないと誓えるか?」
カリグラが小首をかしげながらも、誓った。騎士見習いの証を手に持つ。
「? はい。騎士見習いの銘にかけて誓いますよ」
ジャンクとグルバーンが挙動不審な動きをしたが、ファビウスが抑え込む。
「私もバイシャ神官の名において誓います。ご安心ください」
墓守爺さんが、重い口調で答えた。小声になる。
「では、話すとしよう」
小さく咳払いをして、墓守爺さんが声をひそめて話し始めた。
「墓の地下室の目的は、さっきも話したように、主に故人の愛用の品などを共に葬るために作られたのじゃ。しかし、それ以外の目的のものもある。
偉大な死者が死後、あの世でも寂しい思いをしたり従者に困らぬように等身大の人形を入れたり、宝を埋めたりな。
そして、それを守るために迷宮化させる事もある。隠し通路というのは、これじゃろう。有名な所ではユノ様の墓じゃな」
カリグラが思い出して、うなずいた。
「実は、そのユノ様の墓へ行った事があります。管理している魔術ギルドの依頼で、墓の防犯機能を調査評価するためでした。
隠し通路はありませんでしたが、長い迷路になっていましたね」
墓守爺さんの口調が柔らかくなった。
「ほう。騎士見習い様はユノ様の墓で、お仕事をなさったのかね。今は王国政府によって管理されておるのでのう、気軽に墓参する事ができないのじゃよ。
そうかそうか。善い事をしておるのじゃな。
ユノ様の子孫は、今のラーラル城太守をなさっている修羅様じゃから、修羅様もお喜びになるじゃろう。おっと、話が逸れたのう。すまんすまん」
カリグラが修羅という名前を記憶した。
(でもまあ、俺のような新米騎士見習いには、とても目通りが叶うとは思えないけどね。オーガンの町で魔術ギルド総会議長をしてる、ディアトロス先生にも会えなかったしな)
「いえ。どうぞ、話を続けてください」
墓守爺さんが再び小さく咳払いをした。
「コホン。しかしここには、それとは違った意味で隠し通路と地下室が作られたのじゃ。
それはの……表向きは、これらの墓は内乱で死んだ、この国や、この国側についた部族の戦士たちの墓となっておる」
墓守爺さんが墓石を丁寧に拭いた。
「ところで、騎士見習い様も知っていると思うが、滅ぼされた部族でも生き残った民は、この王国の国民として、故郷からこの地へ集められておる。
そういった民にとって、内乱で討ち死にした部族長は決して暗君ではなかったのじゃよ。
じゃから、滅ぼされた部族の生き残りには、今でも部族長を供養したい気持ちがあるんじゃが……表立って、それはやりにくい」
墓守爺さんが軽く肩をすくめる。
「何せ、このラーラル地方の領主でありラーラル城の太守は、かつて我らが部族と敵対し、現在の国王側について部族を滅ぼした御仁じゃからの。言いがかりをつけられては、たまったものじゃない。
じゃから、我らは密かに墓の下に地下室を掘り、そこにかつての部族長らを奉っておるんじゃよ。
そしてこの墓は、かつてこの国の王や、今、この地を治めている修羅様と戦って戦死したライオウ様の墓じゃよ。森の北東部を支配しておられた部族長だ」
カリグラがつぶやく。
「北東部の部族長ライオウ……」
墓守爺さんが空を見上げた。
「ライオウ様は勇猛な戦士じゃった。そして、現在の領主、修羅様との激しい一騎討ちの後、敗れ、戦死なされたのじゃよ……」
そう述懐してから、カリグラをじっと見つめた。
「騎士見習い様が墓の中に入り、この一輪の花を手向けて下さるというのであれば、墓に入る事を許そう。どうじゃ、引き受けてくださるか?」
カリグラが大真面目な表情になって答えた。
「分かりました。墓参いたします。墓前で祈りを捧げましょう」
墓守爺さんがカリグラに一輪の花を託す。嬉しそうな表情だ。
「では、頼みましたぞ」
墓に触れると、地下室への通路が現れた。カリグラが墓守爺さんに軽く会釈する。
「では、行って参ります」
この隠し通路を通って地下を進むと、行き止まりの壁があった。
ジャンクが壁を調べて、呆れた顔をする。
「何だよ、コレ。隠し通路になってねえぞオイ。押せば良いだけじゃねーか。子供にだって分かる仕掛けだぞ」
ジャンクが指摘した通り、押すと行き止まりの壁が動いた。隠し扉が現れて、その中に入っていく。
グルバーンが隠し扉の仕掛けを魔法で調べてから、ジャンクに同意した。
「うむ。実に単純な仕掛けだな。これなら、園児でも突破できるだろう」
一応、カリグラがジャンクとグルバーンに釘を刺しておく。
「そういう話は墓守しているお爺さんに言うなよ。心労が増えて倒れかねない」
ファビウスが同意する。
「そうですね。ここに埋葬されているのはライオウという部族長です。領地を有していたハズですので、墓守をしているお爺さんのような部族民が残っているでしょう。
その有力者に後日会って、さりげなく伝えておけば良いかと。あ。あれがそうですね」
隠し扉の先にも通路があり、それを進むと墓標があった。ちょっとした墳墓のような見た目になっている。
上り階段があったので、カリグラが墓の頂上に出た。一番高い場所に大きな墓標が立っている。
ここには灯りが無いため真っ暗なのだが、冒険者の暗視技能が働いているおかげて墓碑を読む事ができた。
カリグラが収納ポーチから花を取り出して、墓標の花瓶に挿す。
「ええと……『ラーラル北東の部族長 偉大なる闘士ライオウここに眠る』と書かれてあるね。
あなたも内戦の犠牲者なのですね。どうして人は争い奪い合わねばならないのだろう。まあ、戦や争いで飯を食ってる、傭兵の俺が考えるべき事ではないのかも知れないけど」
カリグラたち四人が墓前に膝をついて祈りを捧げた。
その後、墓の周囲を探索すると、奥に細い通路があった。カリグラが赤みがかった茶髪をかく。
「これはとても大人では通れそうにないなあ。子供なら何とかなるか……
という事は、タッ君はここから別の場所へ通り抜けたのかな。こことは別に地下室のある墓があり、そちらに抜けられるのかも。とにかく一度外に出て、墓守のお爺さんに聞いてみるか」
ジャンクが挙動不審な動きをしていたので注意を与えた。
「ジャンクよ。さすがにここでは盗みをするなよ」
ジャンクが銀髪モヒカンを揺らしてジト目になっている。
「盗むも何も、売れそうなモノなんか一つもねーよ。さっさと地上へ戻ろうぜ、兄弟」
グルバーンが墓地を見回して、素直にうなずいた。
「そうだな。ムーンの村と同じく、ここも土葬だが……副葬品は無いな。売れそうなモノは王国政府が没収したか、それか今の部族の有力者がまとめて管理しているのだろう」
カリグラが驚いている。
「え? ここって土葬なのか? 死臭はしないぞ」
ファビウスがグルバーンの代わりに答えた。
「内乱時のご遺体ですからね。残っているのは骨だけでしょう。
ですが、かすかに死臭を感じますね。アンデッドに注意してください。墓守のお爺さんの態度を見る限り、居ないとは思いますが」
カリグラが了解した。
「そうか。アンデッドと遭遇する恐れがあるんだね。戦闘できる準備をしておく必要がありそうだな」
墓を歩いてみたが、結局アンデッドは発生していなかった。ほっとしつつ、地上へ戻るカリグラたち四人である。
地上で墓地の草抜き作業をしていた墓守爺さんに、カリグラが声をかけた。
「墓参をしてきました。タッ君は居ませんでしたよ。立派なお墓ですね」
墓守爺さんが笑顔を浮かべ、草抜き作業を中断して立ち上がった。
「そうじゃろう、そうじゃろう。墓参をしてもらい感謝する。そして、この事は他言無用でお願いしますぞ」
カリグラが小声で聞いてみる。
「地下の隠し墓の奥に、細い通路がありました。その先に、別の墓があるのですか?」
墓守爺さんが微妙な表情になった。
「うむ、ある。しかし、わしの口からは言えぬ。その墓を管理している、別の部族から許可を取らねばならぬからな」
カリグラが困って、頭をかいた。
「別の部族ですか……しかし、それはいったいどこに?」
墓守の爺さんが「ポン」と両手を合わせて、カリグラに助言する。
「そうじゃ。シーフギルドへ行きなされ。そこにその墓を管理している者がおる。わしからの紹介じゃと言えば、ギルドも入れてくれるじゃろう」
カリグラが内心で面倒がったが、顔には出さずに明るく答えた。
「分かりました。シーフギルドを訪ねてみます」




