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紅の魔女  作者: あかあかや
オーガン編
52/78

冒険者認定試験 その三

 騎士が扉を開けて、試験会場の中へ入っていった。兵士がカリグラに笑顔を向ける。

「明日の朝まで時間がある。訓練をするとか、試験官に対する作戦を立てるとか、色々やっておけよ。ちなみに、試験官は三人で大剣を使うぞ」

 カリグラがうなずいた。

「あー……そうですね」

 仲間たち三人に振り返る。

「それじゃあ、作戦でも立てようか」


 いったん素掘りの洞窟へ戻り、モンスターの気配が無い事を確認して相談を始めた。

 カリグラが最初に、剣技ブラッククロウを仲間たち三人に初披露した。標的は洞窟内の大岩で、それがザックリと斬られてゴロゴロ転がっていく。

 といっても今のカリグラは魔力が尽きているため、本来の威力には至っていないが。バスターソードを鞘に収めたカリグラが少し恐縮した。

「とまあ、こんな感じの剣技だ。あんまり華麗じゃなくてすまんな。治療魔法を使わなければ、一日に三回まで使える」


 ジャンクがニヤニヤしながらも目を輝かせている。

「投げ飛ばすのと似たような効果だな。みっともねえけど、使える剣技じゃねーか。起き上がるのに時間がかかるから、オレたちの攻撃が当たりやすくなるな。

 オレはニトロっていう爆破の魔法書を二冊使う。転んでいれば避けられねえだろ。試験官をふっ飛ばしてやるよ」


 ファビウスも少しだけジャンクに同意している。

「そうですね。試験官が転んでひるんでいる隙に、私は一人の攻撃力を引き下げる『ウィークネス』という補助魔法を使いますよ。試験官は王国兵士ですが、かなりの攻撃力を有していると思います」

 グルバーンが不敵な笑みを浮かべた。

「そうか。試験官が転んでいるのか。であれば、俺も魔法攻撃できるな。てっきり、また見ているだけになるかと危惧していたのだよ。ファイヤーボールを使いまくってやろう」


 カリグラが意外そうな表情になっている。

「お、おお……思ったよりも好評なんだな。投げ技をもっと練習してみるか。グルバーンさんは、ファイヤーボールの合間に支援魔法を頼むよ。全員の攻撃力を底上げしてくれると助かる」

 グルバーンがドヤ顔になって胸を張った。

「任せたまえ。ファイヤーボールを二連続行使してから、君たち全員に攻撃力向上の支援魔法、マスエンチャントをかけるとしよう」


 カリグラがジャンクに顔を向けた。

「試験官は複数人だろう。軽クロスボウだと接近戦で不利だ。小型盾のバックラーで防御しつつ、毒ナイフで攻撃できるか?」

 ジャンクが口元を緩めた。

「心でも読んだのかよ、リーダー。おうよ、そのつもりだぜ」


 ファビウスが提案する。

「では、予行演習を何度かやってみましょう。カリグラさんは魔力切れですから、剣技の真似だけしてください」

 カリグラが頭を軽くかいた。今はスーツアーマーを装備しているので兜を被っている。ジャンクは暑いのか皮製の兜を脱いでいるが。

「分かった。それじゃあ始めようか。テントを持ってきているから、野宿はしなくていいぞ」



 予行演習を何度か行い、携帯食を食べてテントに泊まり……そして翌朝になった。

 試験会場の扉前に立って警備している騎士と兵士は、あれから交代していた。


 騎士が試験会場内へ入り、すぐに戻ってきた。

「準備が整った。では、これより冒険者認定試験を始める。待たせたね、会場内に入りなさい」

「はい」


 カリグラたち四人が扉をくぐって試験会場に入った。背後で扉が閉まり、鍵がかけられる。

 前を向いたカリグラが険しい目つきになった。

「三人か。想定通りだな。それじゃあ、予行演習の通りに攻撃するぞ!」


 試験官は三人で、大剣を持って待ち構えている。セラミド鉱石製の全身鎧を装備していた。王国政府が支給している鎧では無いため、兵士の私物だろう。

 そのリーダーとおぼしき大男が、不敵に笑った。

「おう。来たか。それでは試験を始めるぞ。さあ、かかって来い!」


 カリグラの青い瞳が冷たい光を帯び、猛然と突撃した。無言である。呆れている三人の試験官。

「バカか、コイツは。真っすぐに突っ込んで来るヤツがいるか!」


 試験官たちの眼前に、爆破の魔法書が二冊飛んできた。「ドカン!」「ガオン!」と爆発が起きて、爆炎に試験官たちが包まれる。

 さらに、グルバーンが放ったファイヤーボールが襲い掛かった。「ゴオオオ!」と唸りを上げて、炎の柱が試験官たちの足元から立ち上がった。

 カリグラは囮だった。注意をカリグラに引き寄せて、ジャンクが死角から魔法書を投げたのだった。


「うおおおお! 冒険者見習いのクセに生意気な!」

 爆炎の中から三人の試験官が躍り出てきた。それを待ち受けるカリグラ。

「ブラッククロウ!」

 中央の試験官が派手に転び、続いて、全身鎧の関節部分が斬り飛ばされた。籠手に包まれた試験官の腕が一つ宙を舞う。

「な?」

 他の二人の試験官が驚く。その隙を見逃さずにカリグラがブラッククロウと通常の斬撃を連続して繰り出す。

 さらにもう一人の試験官が派手に転んだ。同時に腕が追加で斬り飛ばされていく。


「うおおおお! 卑劣な技を使うヤツめええっ」

 残る一人の試験官が吼えて、カリグラに襲い掛かっていく。

 そこへ今度はファビウスが魔法をかけた。

「ウィークネス!」「ウィークネス!」「ウィークネス!」「ええい、ウィークネス!」

 試験官がカリグラに大剣で斬りつけた。それをバイキングシールドで受け止める。

 ようやくニヤリと笑うカリグラ。大剣ごと試験官を押し飛ばす。

「弱いな!」


 バランスを崩してよろめいた試験官の肩にバスターソードを突き刺して、そして迷いなくひねった。

「ブシ!」

 試験官の右腕が肩から斬り飛ばされて宙を舞った。赤い棒のような血が噴き出す。

 そしてバスターソードを車に回して、流れるように剣技を放った。

「ブラッククロウ!」

 試験官が派手に転んで、その首にザックリとバスターソードが食い込んだ。鎧の隙間を通している。

「動脈、斬るぜ。すまんな」

 カリグラが無表情で告げ、試験官の首から赤い棒のような血が噴き出した。


 白目をむいて出血性ショックに陥った試験官から数歩離れ、カリグラが試験会場の奥で腰を抜かしている神官に指示する。

「急いで治療をしてくれ。間もなく死んでしまう」


 神官が慌てて駆けつけた。カリグラを叱りつける。

「このバカモン! 本当に瀕死ではないかっ」

 カリグラに人間らしい表情が戻った。

「あれ? いつも町の酒場で飲んでいる待祭様じゃないですか。お仕事ごくろうさまです。あ。腕を斬り飛ばしてましたね。すぐに拾ってきます。ちょっと待っててください」


 カリグラが試験官の腕を拾って戻ると、残り二人の試験官も三人の仲間たちによって撃破されていた。

 ファビウスによるウィークネス攻撃と、グルバーンによるマスエンチャント支援によるものだ。ジャンクが異様に強くなっていて、毒ナイフで滅多刺しして「ヒャッハー」している。

 試験官の大剣がジャンクに当たるのだが、かすり傷しかつけられていない。ほとんど一方的な虐待に近い有様だ。

 ジャンクが毒ナイフでサクサク刺しながら、朗らかに声をかける。

「心配すんな。急所は外してあるからよ。存分に毒でハイになってくれや! 羨ましいぜ、コノヤロウ」

 ファビウスとグルバーンが呆れ果てた顔をしている。カリグラも改めてジャンクの異常性を実感しているようだ。いや、カリグラ本人についても相当なものだろう。


 腕をくっつけて、二ヶ所からの動脈出血を止めた待祭が怒声を上げた。

「こらあああ! そんな大量の毒を体内に注入するでない! 治療が面倒になるだろうがっ」

 カリグラがバスターソードを鞘に収めて、ジャンクに指示する。

「ジャンクよ。そのくらいで許してやれ。もう充分に毒を味わったハズだ」


 かくして……三人の試験官たちが治療を終えた。まだ真っ青な顔をしたままで、ガクガク震えている。

 斬り飛ばされた腕も、今はちゃんとくっついている。その手で冷や汗を拭く試験官たちだ。

「き、貴様ら……殺しにきてただろ。これは試験なんだからな! バカ者!」


 カリグラが壁に手を当てて、反省した。

「……ですね。すみません。全力を出さないと勝てないと焦っていました」

 ファビウスも顔を赤くして反省している。

「申し訳ありませんでした。私も無我夢中でした」

 グルバーンは視線を逸らしているが、彼も同じように思っていたらしい。ジャンクだけはニヤニヤしている。試験官いじめを楽しんでいたようだ。


 試験官たち三人が回復して起き上がった。まだ少しフラフラしているが。交代で試験会場内へ入ってきた、次の試験官たちに手を振る。

「交代を頼む。ええと、黒き狼の使い……だったね。おめでとう。合格だ」

 待祭から『冒険者の証』を四つ受け取って、試験官の一人がカリグラたちに手渡した。何かの魔法が発動したのを感じる。

「受け取った瞬間に、持ち主登録が完了するんだよ。経験値などの情報も引き継がれる。これで君たちは『冒険者』だ。

 今は収納ポーチに入れておきなさい。奥のテレポート魔法陣に乗って冒険者ギルドへ戻り、そこで冒険者の証に切り替えなさい。

 この試験会場では、まだ冒険者見習いとして登録されているからね。冒険者に切り替えるとテレポート魔法陣が使えないんだよ」


 冒険者の証を受け取ったカリグラが、それを収納ポーチに入れた。仲間三人もそれぞれの収納ポーチに証を入れている。


 試験官たち三人がカリグラたち四人の健闘を称えて、先にテレポート魔法陣に乗った。

 彼らは兵団所属で、マルケルスの事もよく知っていた。仕事が終わったので、これからホテルのバーへ行って酒盛りを始めるそうだ。目がキラキラしている。

「冒険者になって、良かったな。今後も頑張ってくれ。ではな」

 そう言って、転移して消えた。


 カリグラたち四人が続いて魔法陣の上に乗る。待祭がテレポート先を冒険者ギルドへ設定していく。慣れている様子で、すぐに終えた。

「よーし。冒険者ギルドへの座標変更を終えた。では、合格報告をしてきなさい。テレポート!」


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