魔術ギルドとシーフギルド
仲間とはバーで別れた。カリグラが独りでバーで軽食をとってから、冒険者ギルドの外へ出ていく。
(ちょっと飲んでしまったなあ。でも、ブラッククロウとかいう剣技の習得に励むとするか。公園が良いかな)
そんな事を考えながら公園へ向かっていると、背後からジャンクが声をかけてきた。不思議に思うカリグラ。
「どうしたんだジャンクよ。何か忘れ物でもしたのか?」
ジャンクが銀髪モヒカン頭をかいて、口元を緩めた。
「まあな。ちょいと買いてえブツがあるんだ。金くれ金」
冒険者ギルドから近い場所にシーフギルドがある。その地下階にシーフギルド会員向けの商店がある。裏ギルド商店と呼ばれているのだが、そこで新商品が発売されたらしい。
ジャンクがニヤニヤしながらチラシを見せた。古着シャツの切れ端を筆記用に再利用したものだ。
「これだー」
ジャンクから布片を受け取ったカリグラが、その売り出し商品の宣伝文を読む。彼の目が点になった。
「んん? 爆破魔法書の『ニトロ』? 何だいコレ。爆発効果を出す魔法書なのかな?
しかし、なんでシーフギルド内で売ってるんだよ。道具屋では見かけないぞ」
ジャンクが銀髪モヒカンを左右に揺らした。
「知るかよ、そんなの。裏ギルド商店だから、横流し品も時々入荷するんだ。それだろ」
釈然としないままのカリグラだったが……ジャンクに言われるままに金貨を渡した。カリグラは会員でないので、その商店を利用できない。
「横流し品か……それじゃあ、明日には売り切れて在庫が無くなるかもな。分かった。買ってくれ。いくつ買うつもりだい?」
ジャンクが両目を閉じて渋い表情になる。
「一人二冊までだ。クソが。おお、そうだ。他にも面白そうな武器が売ってたぜ。コレなんだが、どうよ?」
カリグラが新たに二枚の布片チラシを受け取って読んでみた。さらに怪訝な表情になっていく。
「おい……毒塗りの剣かよ。『アサシンソード』って……何という物騒な名前だ。ん? 片手用の小型盾『バックラー』もあるのか。
だけど、この二つは軽クロスボウと同時に使えないだろ? 武器を使い分けるのか?」
ジャンクが「当然」と言わんばかりにドヤ顔になった。
「普段は軽クロスボウで充分だけどな。敵によっては、剣と盾があった方が良いだろ。兄弟の戦い方を見てて、そう思った。
ただでさえ、オレの鎧は貧弱だしな。ちょっとでも補強しておいた方が良いだろ」
現状では、ジャンクの防具はセラミドスケイルメイルだけだ。盾は持っていない。ちなみにそのセラミドスケイルメイルだが、今は装備していない。
カリグラが納得した。
「そうだな。ファビウスさんの負担を減らす事は大切だよな。分かった。その二つも買ってくれ」
カリグラから追加の金貨を受け取ったジャンクが、小躍りする。早速、駆け去っていった。
「太っ腹なリーダーは好きだぜ。それじゃ、ちょいと行って買ってくる! 四日後に会おう」
見送ったカリグラが空を見あげた。太陽の位置からすると、ちょうど昼過ぎだ。証と冒険者辞典を使っても、おおよその時刻が分かるのだが。
「今から食堂へ行っても満席だろうな。ちょっと遅れて行くか。それまでの間、何をしよう……」
ジャンク関連で、王国刑法を勉強しに騎士団詰所へ向かったが……昼休みで閉鎖されていた。ガッカリする。
「仕方ない。また後日来るか」
軽く肩と首を回す。
(んー……ブラッククロウの練習をする前に、準備運動も兼ねてスリカンさんに会いに行くか)
そして、レストラン・リルの厨房へ勝手に入っていった。実に堂々としている。
レストラン警備をしている冒険者とも、すっかり知り合いになった様子だ。顔パスである。
魚部門の区画へ行き、厨房スタッフをタコ殴りしているスリカンに明るく声をかけた。
「こんにちは。手伝いに来ました」
カリグラを見るなり、激怒して顔を真っ赤に染めるスリカン。タコ殴りしていた厨房スタッフを床に投げ捨てて叫んだ。
「おう、来たか! このクソ怠け弟子があああっ。今日こそ俺様の鉄拳制裁を食らえ!」
問答無用で殴りかかってきたスリカン。
その拳を数センチメートルの間合いでヒョイヒョイ回避していくカリグラだ。キックも繰り出してきたが、これも余裕をもって回避している。
(おお……さらに攻撃が鋭くなってるなあ。格闘才能があるんじゃないの? スリカンさん。これで無信仰なんだよねえ)
厨房は狭い通路ばかりで、大勢の厨房スタッフが仕事をしている。そんな彼らの間をスルスルと通り抜けて、スリカンの攻撃を回避していくカリグラだ。
一方のスリカンも腕を上げていて、作業中の厨房スタッフを誤って攻撃していない。下手な仕事をしている者は、容赦なく殴り飛ばしているが。
スリカンの上達に感心したカリグラが、さらに数発のパンチを回避してスリカンに聞いてみた。
「スリカンさん。パンチやキックだけじゃなくて、刃物を使っても構わないよ。軽傷なら治療できるし」
スリカンが不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「フン。料理人がそんな事するわけないだろ。部門長の誇りがあるのだ。俺様はこの拳のみで貴様を打ち倒すと決めたのだ。とある武術家に教わっている。
うらうら! 食らって吹っ飛べ!」
カリグラがさらに数発のパンチとキックを回避して、軽いジト目になった。
「その情熱を料理仕事に向けたらどうですかね」
十数分後。ようやく疲れて動けなくなったスリカンに声をかけるカリグラ。今回、彼は一発もスリカンの攻撃を食らっていない。
「なかなか良い運動ができました。体も温まってきたので、今日はこのくらいで。また来ますね」
スリカンが酸欠気味になった青い顔で、歯ぎしりして悔しがっている。
「ぐぬぬ! おのれクソ弟子め! 次はぶっ飛ばす!」
とりあえず、レストラン厨房の仕事も軽くしておくカリグラであった。
他の部門長やシェフからは、「よくぞスリカンを無力化してくれた」と喜ばれているが。給仕長からも感謝されている。
マダムからも愛想良く手を振られて、さすがに苦笑するカリグラ。
「スリカンさん……どれだけ嫌われているんですか」




