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紅の魔女  作者: あかあかや
オーガン編
23/78

ゴブリン駆除開始

 この洞窟の構造は、最下層の空洞にある居住区を取り囲むように、土壁でできた通路が通っているものだった。そのため、この通路をぐるりと一周しなくては下へ行けない。敵の侵攻を遅らせて、その間に逃げるための工夫だろう。

 通路が長いので、やはりモンスターが出てきた。ただ、グリーンスライムや大グモなので、特に問題無く撃破していく。


 小銭にうるさいジャンクは、大グモを嫌ってグリーンスライムを好んでいる。

「グリーンスライムって、駆除金が多めなんだよな。ちょっとした小遣い稼ぎになるぜ。大グモやスライムはダメだ。金にならねえ」

 カリグラが何匹目かのグリーンスライムを駆除して、軽く同意した。モンスターが出てきたので、今は木の盾を左手に持っている。

「だよな。四匹駆除すれば、冒険者ギルドの安宿で一泊できる金になる。金に困ったらグリーンスライム狩りをすると良いって事だな」


 ただ、連中もモンスターなので容赦なく攻撃してくる。グリーンスライムは消化液を吹き出すという攻撃方法だ。主に膝下に攻撃を仕掛けてくるため、消化液攻撃を受けると靴などが溶かされてしまう。

 素足で歩くわけにはいかないので、頃合いを見計らってカリグラがライトワンズで治療と補修を行っていく。大グモも同じように膝から下に攻撃を集中するため、同じような処置をしている。


 たまにゴブリンの小隊が攻撃してくるが、カリグラが木の盾で攻撃を防ぎ、ジャンクが矢を射かけて駆除していく。この木の盾はウィルマからもらったものだが、前回、今回と大活躍をしている。

(ウィルマに感謝だな。皮の鎧服じゃ手槍を防げないし)


 ゴブリンは予想通り、短い手槍を突き出して攻撃してきた。しかし人間の子供くらいの背丈しかないので、手足もカリグラより短い。

 木の盾で手槍の切っ先を受け止めながら一歩踏み込めば、ナタ包丁の射程に入る。それでゴブリンの手首を斬りおとせば、無力化できる。

 そのため、二刀目でゴブリンの首を刎ね飛ばして駆除していくカリグラだ。さすがに脛骨を斬った衝撃は右手に感じているようで、グッと強くナタ包丁の柄を握りしめている。

 一方のジャンクは軽クロスボウで着実にゴブリンにヘッドショットを決めていた。もちろん即死だ。


 これまた何度目かのゴブリン小隊を撃破してから、カリグラがジャンクに振り向いて褒めた。

「俺の後ろから撃っているのに、ほとんど外していないな。なかなか良い腕だぞジャンクよ」


 ジャンクがゴブリンの頭に突き刺さっている矢を引き抜いて回収していく。ついでに何か盗めないか探っているようだ。

「シーフは大剣とか持てないからな。弓の技術を磨くもんさ。ハンターやエルフには負けるけどよ。クソ。こいつら何も持ってねえじゃねえか。この貧乏モンスターが」


 重い武器や防具を体力的に使えないという事情もあるのだが、やはり信仰する盗賊の神パッスルホップによる制限によるものが大きい。

 黒き狼団ではナダルとウィルマ、ガズがシーフ技能を有している。そのため、戦闘で使用できるのはナイフ程度だ。ロングソードのような武器は厳しい。

 実際、ナダルがロングソードを盗賊に投げた事があったが、命中しなかった。


 ちなみに『冒険者見習いのカリグラ』の神はバイシャで戦士と同じなのだが、『黒き狼』という職業による制限がかかっている。戦士が装備できる武器防具の一部は、使用を許されていない。

 例えば、十字架のクロスボウは使用できない状態だ。

 同じような制限はファビウスにもいえる。彼の場合も『クレリック』という職業による制限がある。

(まあ、その分だけ魔法が使えるから納得はしてるけどね。しかし……他の神様を信仰する事も一応は考えておくか)

 罰当たりな考えをするカリグラである。


 カリグラが木の盾に付いた傷をライトワンズで修理した。先程のゴブリン小隊との戦いで受けた、手槍の突きによるものだ。木の盾の表面をガッサリと削った攻撃が一つある。

「ふむむ……槍の強みだな。鉄製のプレートメイルだったら、貫通していたかも。ウィルマに後で何か土産でも買っていくか」

 鉄製のプレートメイルよりも安い木の盾が役立ってるというのも、何か不思議な感じがするカリグラであった。

 樫の木で作られているため、かなりの強度がある。杉のような建築材だと、強度不足で真っ二つだろう。


 ゴブリンの死体を見て顔を青くしているグルバーンの横で、ファビウスがカリグラに提案した。

「では、カリグラさんも剣ではなくて槍を装備しますか? 今回の駆除を終えれば安い槍を買えると思いますよ」

 カリグラが少し考えてから首を振った。

「いや。槍は止めておくよファビウスさん。洞窟の中で槍は不便だ。小回りの利く片手剣にするよ。

 敵が鎧を着こんでいても、継ぎ目を狙えば対処できるからね。俺がゴブリンくらいの体格だったら、槍を選んだだろうけど」



 モンスターとゴブリン小隊を撃破しながら通路を進んでいくと、大きな格子扉があった。魔術ギルドの刻印が刻まれている。

 カリグラが格子に手をかけて揺すってみた。しっかりと鍵がかかっていて、「ガチャガチャ」と音が鳴るばかりで開かない。

「これが、魔術ギルドの施した封印か。この中にさっきのモンスターどもが居るんだな」


 またグリーンスライムがやって来たので、その狩りに専念するカリグラたちであった。

 ジャンクがニコニコしながら何か拾ってきた。

「へへ。落とし物があったぜ。治療薬だろ? これ」

 ファビウスが素直に驚いている。

「ほ、本当だ! 総合解毒薬と蘇生薬ですね。お手柄ですよ、ジャンクさん。これで誰か一回死んでも蘇生できます。あ。毒の中和もですね。どの冒険者も考える事は同じなのですね」

 正確には瀕死の者を回復させるのが蘇生薬だ。飲み薬なので、死んでいては飲めない。



 土壁の通路の最深部に到達すると、下り階段があった。足音を出さずに階段を下りたカリグラが周囲を見回す。

「ほう……ここも居住区か。でも小さそうだな。どうだジャンクよ。ゴブリンの気配はあるかい?」

 ジャンクが聞き耳を立てる事もせずにジト目になってカリグラを見る。

「居ないと思うか? けどよ、思ったよりも少ないな。十匹って所だ。これにボスが一匹だな」

 カリグラがうなずく。

「大きな群れになってないのは幸運だったな。よし。その数だったら一気に駆除できる。手前の部屋から突入していこう」


 しかし敵もカリグラたちの襲撃を察知していて、待ち構えていた。

 部屋の扉をカリグラが蹴り開けて中へ突入すると、三本の手槍が一斉に突き出されてきた。それを木の盾で受け止める。盾の表面がガッサリと削られて三本の溝が生じたが、見事に攻撃を受け止めた。

 手槍の切っ先が勢い余って部屋の土壁に突き刺さり、一瞬だけ身動きできなくなるゴブリン三匹。


 その一瞬の隙を見逃さず、カリグラが跳び込んだ。木の盾で一匹のゴブリンを押し飛ばし、一番右端のゴブリンの両腕をナタ包丁で斬り落とす。

 棒のような血が両腕から噴き出して絶叫するゴブリン。それに体当たりして突き飛ばし、左端に居たゴブリンからの手槍の突きをかわす。

(お。間合いが読めたぞ)

 ちょっと嬉しくなるカリグラであった。しかしまだ数センチメートルの距離で回避とはいかなかったが。今回は十センチメートルほどだった。


 そのゴブリンの頭に鉄の矢が突き刺さった。白目をむいて電池が切れたような動きで床に倒れ、断末魔の痙攣を始めるゴブリン。


 壁に叩きつけられた二匹のゴブリンが、窓を割って部屋の外に逃げようとしたが、その首を連続して後背から斬り飛ばすカリグラ。二本の血柱が首の斬り口から噴き出して、部屋の天井を真っ赤に染めていく。


 そんなゴブリン三匹の死体には目もくれずに、カリグラが床に落ちている三本の手槍を拾い上げた。

 同時にジャンクと目が合う。そのジャンクが入り口の方へ視線を流す。カリグラも同時に同じ方向へ注意を向けた。そして、ためらわずに三本の手槍を入り口に向けて投射する。

 ファビウスとグルバーンはジャンクに手を引かれて部屋の中へ引っ張り込まれていたので、入り口には誰も居ないはずだったが……絶叫が上がった。

 不意に三匹の手槍を構えたゴブリンの姿が現れた。そのうちの二匹の腹にカリグラの投げた手槍が突き刺さっている。


 カリグラが木の盾を構えて部屋の外へ跳び出していく。無事だった一匹のゴブリンが突き出した手槍を木の盾で受け止めて弾く。そして、ナタ包丁で入れ違い様に首を刎ね飛ばした。

 残り二匹のゴブリンは、腹に突き刺さった手槍を引き抜こうとしていた。しかし、手槍がゴブリンの腹を貫いて背中に切っ先が出ているほどだったため、両手を使わざるを得ない。必然、その間はカリグラを攻撃できない。

 余裕をもって、カリグラが二匹のゴブリンの首を刎ねた。返り血を避ける余裕さえある。

「これで六匹。残り四匹とボス一匹か。いけそうだな」


 ナタ包丁の刃こぼれを確認して、部屋から出てきたジャンクたちに振り返った。

「しかしジャンクよ。前もって打ち合わせしていなかったのに、よく分かったな。おかげで楽に槍投げできたよ」

 ジャンクがドヤ顔になる。

「外で足音がしたからな。分かるぜ。でなきゃシーフなんか、やってられるかよ」

 そして、まだジワジワと出血しているゴブリンの死体を調べた。心臓が止まっているので、噴き出すような血の勢いはもう無い。

「透明になるマントを羽織ってたが……自壊しやがったか。クソ。高く売れるのによ」


 これについてはグルバーンが知っていた。血の池となった現場だが、今回は多少は慣れたのか目が泳いでいない。

「精霊魔法を帯びたマントだな。光を操作して姿を見えなくする魔法具だ。エルフやダークエルフが得意とするものだ。

 ただ、有効時間はかなり短いのが欠点だがな。使うとこうして消滅する。魔法具ではなくて、精霊魔法を使って姿を消す方法もあるそうだ」

 カリグラが軽く腕組みをして、眉をひそめた。

「姿を消されるのは厄介だな。まあ、足音までは消されていないから、今回のように対処できるけど」


 他の部屋はジャンクが聞き耳を立てて調べ、誰も居ない事を確認した。

「まあ、十匹しか居ないって分かってるけどな。念のためってヤツだ」


 そして、中央の一番大きな部屋の前に来た。見るからにボスの部屋だ。

「予想ではボス一匹と子分四匹か。一気に駆除するぞ」



 カリグラが扉を蹴り開けて突入した。同時に部屋の中から五本の手槍が突き出されてきた。それを木の盾で受け止めてから天井方向へ流して、部屋の中へ駆け入る。

(ち! 予想よりも一匹多かったか)

 瞬時に敵の配置を読んだカリグラが、仲間のゴブリン一匹もろともに一刀両断してきたボスゴブリンの切っ先を数センチメートルでかわす。

(よし。今度は良い見切りができたぞ)

 全力で山刀を振り下ろしてきたボスゴブリンが、切っ先を勢い余って床に食い込ませてしまった。

 とっさに左右のゴブリンが身を挺してボスゴブリンを守ろうとしたが、容赦なく首を刎ね飛ばすカリグラ。


 二匹のゴブリンが首の斬り口から棒のような血柱を噴き上げる。その血柱を突っ切ってジャンクの放った鉄の矢が飛び、床から山刀を引き抜いたばかりのボスゴブリンの右目に突き刺さった。

 絶叫を上げて再び動きが鈍るボスゴブリンの首を、的確に斬り飛ばすカリグラ。


 そのカリグラに左右から手槍が突き出された。ナタ包丁の鎬面で手槍の切っ先を受け流す。しかし、もう一方の手槍は木の盾で受け損なってしまった。左腕に激痛が走る。

 その二匹のゴブリンが、ファビウスのメイスによって叩きのめされ、グルバーンのマジックミサイルで貫かれた。

 しかし刺さった場所が悪かったようだ。マジックミサイルで仕留めきれなかった一匹が、手槍を放り出して部屋から逃げ出そうとした。

 その後頭部に鉄の矢が突き刺さった。悲鳴を上げる事もできず白目をむいて床に倒れ、ゴロゴロと転がっていく。


「ふう……駆除完了だな。お疲れさま」

 カリグラが自身の傷をライトワンズで治療しながら、三人の仲間を労う。これでカリグラが使用できるライトワンズは全て使い切った。

「しょせんはゴブリンだな。大した被害にならなくて良かったよ」



 ジャンクが手槍などを集めて回っているのを見ながら、カリグラが居住区を調べていく。すぐに確認を終えて、ほっとした表情になった。

「この居住区と、地下の封印場所とはつながっていないな。ここへ来る事態はなさそうだ」


 ファビウスもカリグラに続いて調査を終えて同意している。

「そうですね」

 グルバーンもすっかり落ち着いた表情だ。


 ジャンクがホクホクした笑みを浮かべて戻ってきたので、カリグラが皆に告げた。

「では、戻ろう。ゴブリンの残党が残っていると思うから、気を抜かないようにな」

 実際、洞窟の外に出るまでに数回ほどゴブリン小隊との遭遇戦をする事になった。


 カリグラが木の盾で手槍を受け止めながら、ゴブリンの首をポンポン刎ね飛ばしていく。間合いの読みが次第にできるようになってきた様子で、時々は盾を使っての防御をせずにカウンターで斬っている。



 洞窟の外に出ると、もう夕方になっていた。口をへの字に曲げて、赤みがかった髪をかくカリグラ。

「むう……今から農家へ戻っても夜になってしまうか。おばあさんを起こすのは気が引ける。今晩は、この洞窟内で夜を明かそう」

 特に異論は無い三人である。ここから養鶏農家までは歩いて四時間かかる。


 軽く背伸びをしたカリグラが、自身を含めた四人全員にライトワンズをかけるようファビウスに頼んだ。これで傷ついた衣服や武器も元通りだ。

 ナタ包丁と木の盾についていた傷が消えた事をカリグラが確認して、感想を述べた。

「やはりコボルドよりは強いかな、ゴブリンって。しかし、ファビウスさんとグルバーンさんも戦闘に慣れ始めてきたね。この調子で頼みます」



 翌朝。夜明け頃に洞窟を出て、土埃が舞う荒地を歩いていく。次第に土地が肥え始めて牧草地になり、次いで一面の畑になった。

 すでに種まきの準備を終えている。この世界では季節が長いため、続いて小麦を連作する事が一般的だ。


 雑談を交わしながら歩き、養鶏農家にたどり着いた。ちょうど老婆の農夫が朝の餌やりを終えた場面だったので、カリグラが声をかける。

「おはようございます。ゴブリンの駆除を終えましたよ」

 老婆もいつもの事の様子で、淡々とした表情で聞いている。

「そうかい。ご苦労さん。一服していきなされ」


 そう言って、老婆が使用人に命じて陶器のツボを一つ持ってこさせた。ツボのフタを開けるとワインの香りが漂ってくる。

 木の柄杓ひしゃくで陶器製の大きなコップに赤ワインを注いで、カリグラたち四人に渡した。

「去年の秋に仕込んだ自家製ワインじゃよ。駆除のお礼に飲んでいっておくれ」

 その赤ワインを飲んだカリグラが、目を輝かせた。

「おお。あまり酸っぱくないですね。ブドウの香りがして美味しいですよ」


 この地域ではセミヨンやソーヴィニヨン・ブラン品種のブドウで仕込んだ白ワインが一般的だ。ただ、往々にしてワイン酢になってしまう事が多い。

 この農家では赤ワインをつくっている。トロリンガー品種で、日常ワインとして人気だ。


 カリグラが傭兵時代に飲んでいたワインは、大半が酢になりかけの状態だった。香りも酢酸のソレになる。

 なので、ここの養鶏農家のマトモな赤ワインに驚いているのだろう。他の三人もカリグラと同じような反応をしている。


 得意満面になり上機嫌の老婆に、カリグラが聞いてみた。

「まだ噂の段階なのですが、ここの洞窟が封印内部を含めて完全討伐されるかも知れません。そうなると、ここは平和になりますね」

 老婆が養鶏場の作業員にいくつか指示を飛ばしてから、気楽な口調で答えてくれた。

「じゃろうな。若鶏の飼育規模も増やしたいのでな。平和になるのは大歓迎じゃよ」

 この養鶏農家の南には綿花畑があるそうで、鶏と綿花の規模拡大という考えらしい。今の時期は綿花の花が咲いていないので、見た目はただの潅木林だ。

「本音としては、綿花よりも桑を植えたいのう。養蚕の廃棄物として蚕のサナギが出るんじゃよ。鶏の餌になる」

 桑栽培するには少し寒い気候だ。北にある山の影響だろう。


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