オーガンの町へ
オーガンの町から黒き狼団の砦を経由して港町モルガンまでは、石畳の街道になっている。そのため特に問題は起こらずに、順調に歩いて砦へ到着した。
門番に挨拶してから砦の外壁を見上げる。石壁に朝日が当たって赤く染まっていた。
「送別会をしてもらったのに、もう帰ってきちゃったな。ははは……」
ここから出発する馬車便も多いため、この早朝でも屋台が多く営業していた。そのうちの一つの屋台で軽く食事を済ませる。鶏肉の炭火焼きに香草を振りかけて、クレープで巻いた料理だ。
すぐに食べ終えて、紅茶を飲み干した。屋台のオヤジに代金を支払って、軽く背伸びをする。
「よし。それじゃあ行くか」
黒き狼団の本部へ直行して、まず最初に団長代理のペンデに一時帰還の報告をした。その彼が心配そうにしている。
「急激に治安が悪化しているんだよ。運の悪い時期にオーガンの町へ送り出してしまって、案じていたんだ。しかしそうか。冒険者見習いとして順調に仕事を請けているようで安堵したよ」
カリグラが申し訳なさそうに肩を軽くすくめる。
「まだ新人用の依頼ですけどね。早く名声を上げて、狼団の宣伝ができるように頑張ります」
本部にはコズンも居るので挨拶した。今の彼はナダルの手伝いをしているという事だったが、元気そうで安堵するカリグラ。
「すまないな、コズン。一番隊になったのに、二番隊の仕事をさせてしまって」
コズンが本部の掃除を一時中断して、明るく笑って答えた。
「今はナダル隊長の下で一番と二番隊が統合されているんですよ。安心してください、カリグラ隊長」
カリグラが小声になってコズンの肩を引き寄せる。
「……ガズは大丈夫なのか? 失敗ばかり重ねてないか?」
コズンが両目をいったん閉じてから、小声で報告した。
「実は……かなりの仕事をナダル隊長に取られてしまいました。暇になったので、今はあちこちを回って傭兵仕事を募っています」
予想通りの展開なので、カリグラは小さくため息をつくだけで済んだ。
「そうか……警備員とか、隊商の警護で仕事が見つかると良いな。港町モルガンでも何か募集があるかも知れない。折りを見て、俺も黒き狼団向けの仕事を探してみるよ」
その前に、厨房でせっせと仕事をしている大陸料理人の孫シェフに会いに行き、羊モンスターの肉を渡した。孫シェフは汁麺のスープを何種類か仕込んでいるようだ。乾麺も水にさらして戻している。
「羊肉ネ。それじゃ、今晩は覇料理の羊煮込みにするアル。大陸料理にもあるけど、ちょっと辛いアル。年寄りにはきついアル。ありがとアル」
思った以上に喜んでいるのを見て、安堵するカリグラ。
「良かった。夕食を楽しみにしているよ、孫シェフ」
大陸料理は、読者の世界では中華料理にかなり似ている。本場は覇王国の南にある旺王国だ。
孫シェフの故郷は旺王国の大江沿岸だそうで、水産物を使った料理が多い。多くは淡水魚の清蒸になるようだ。肉料理では酢豚や豚肉の油みそ煮込み、骨付き鶏肉の蒸し料理などがある。
旺王国の内陸部では羊肉の料理もあるようだ。孫シェフによると「ちょっと辛い」ようだが。
その晩は自室で寝る事にしたカリグラであった。覇料理の羊肉の煮込みには大いに満足した表情である。あんかけ料理なので腹持ちが良い事もあるだろう。ただ、羊モンスターの肉だが。
ビールを数杯ほど飲んだので、酔いが収まってから宝箱を開けた。彼の持ち物は全てこの宝箱の中へまとめて保管されていたので、確認してみる。
出立祝いの金貨九十八枚があったので安堵し、これにドーミツ騒動や駆除で得た報酬の金、レストラン・リルの食事券などを加えた。
収納ポーチには金貨数枚だけを残している。
(お金の有り難さは、痛感したばかりだしな。節約しながら使おうっと)
シーフギルドにある貸し金庫も考えたが、ジャンクの顔がなぜかよぎったので却下したカリグラであった。貸金庫の鍵をジャンクが盗むのは考えたくないが……彼の知り合いシーフが鍵を盗む恐れはあり得る。
翌日からはシュタルダーに教えてもらった剣術の稽古を、独りで黙々とこなした。黒き狼団へ戻ってみたものの、今のカリグラには特にこれといった仕事はなかったためだ。
(こんな事だったら、次からは休暇を短めにするかな)と思うカリグラ。
集合の前日になった。集合場所は前回と同じくオーガンの町の門にしている。本部に居ても仕事が無いので、早朝に黒き狼団の砦を出立する事にした。
(あの後は、羊料理ばかりだったなあ……美味しかったから良いけど。しかし覇王国の人って何でも、あんかけ料理にするのか?)
そんな事は無いのだが、確かにそういう料理が多い。
見送ってくれたのは従者のコズンだけだった。他は皆、泊りがけで方々に出張中だ。ガズも港町モルガンへ行ったきりになっていて、戻ってきていない。
コズンに挨拶をして、馬車便に乗り込んだ。
(さて。冒険者見習いに戻るぞ)
馬車便で二時間半かけてオーガンの町へ到着した。街道沿いの畑は、ほぼ全て小麦の収穫が終わって次作の土づくりが始まっている。そのため、風が吹くと多少の土埃が舞い上がっていた。
緑色なのは牧草地と果樹園、それと自家用のブドウ園くらいか。牧草地も刈り取りを済ませているので、今は芝生のような見た目だ。
その日は冒険者ギルド内の宿に泊まり、公園で剣術の稽古に励んだ。
翌朝。馬車便の発着場へ行くと、既にファビウスが先に来て待っていた。メイスを振って挨拶してくる。
「おはようございます、カリグラさん」
カリグラも挨拶した。
「おはようございます、ファビウスさん。治療魔法、よろしくお願いしますね」
間もなくして、グルバーンとジャンクが連れ立ってやって来た。
「おお。皆さん揃っておるな。では駆除に向かおうぞ」
グルバーンが気勢を上げている横で、ジャンクが悔しがっている。
「封印の鍵を保管している場所は突き止めたんだけどなあ、警備が厳重で盗めなかったぜ。くそが。絶対に高値で売れるヤツだぞ、アレは」
カリグラがジャンクの肩を「ポンポン」叩く。
「自制してくれて助かったよ、ジャンクよ」




