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紅の魔女  作者: あかあかや
黒き狼編
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生還

 次の瞬間。景色が変わって、見覚えのある門の前に転移した。黒き狼団の外壁にある正面門の前だ。

 爆風が発生したらしく、カリグラの周囲に居た商人や旅人が吹き飛ばされて転がっている。何人かは危うく堀に落ちそうになっているようだ。

 すぐに門番がカリグラに気がついて、大騒ぎしながら駆け寄ってきた。

「カ、カリグラ隊長じゃないですかっ! 行方不明で皆、心配していたんですよっ」


 すぐに一番隊の隊員が十数人も駆け寄ってカリグラに抱きついてきた。商人たちは訳が分からないまま、悲鳴を上げて逃げていく。

「カリグラ隊長、ご無事でしたか! 心配しましたぜ。ナダル様、ガズ様もお待ちです。ささ、本部へ参りましょう」

「ダーブル団長が亡くなった事は、ご存じですか? 葬儀はもう済ませています。後で巡礼の丘まで行ってください」


 ダーブルの最期を鮮明に思い出して、落ち込むカリグラであったが……ここは気丈に振る舞う事にしたようだ。

「分かった。オヤジの最期は俺も現場で看取ったから、知ってるよ。墓参りには後ですぐに向かう。その前に、皆に帰還の報告をしなきゃいけないな」


 黒き狼団本部に真っ直ぐ向かうと、本部前の前庭にある大きな石碑が目についた。いつもはあまり気にしない石碑だが、そこに刻まれている『軍団規約』を見つめる。


 一つ、無謀な戦いからは逃げろ

 一つ、なんとしても生き延びろ

 一つ、金はしっかりもらえ


 この三つの鉄則は、亡きダーブルが隊員に最初に教える心得だ。前回、今回と連続して二回も、カリグラは鉄則を守っていなかったと思い知らされる。


 守っていれば団長や前任の隊長たちが死なずに済んだという話にはならないが、後悔の気持ちが溢れ出る。さらにシュタルダーの言葉も、カリグラの心に改めて刻みつけられた。

 今の彼は一番隊の隊長だ。部下の命も守らなければならない。そのためにも、さらに強くならなくてはいけない。

 うっすらとカリグラの目に涙がにじむ。すぐにその涙を拭い、本部の中へ入った。



 ナダルがカリグラに気がついて駆け寄ってきた。心から安堵しているのが分かる。

「無事だったか。ダーブル団長のことは聞いた……ようだな。オマエと同じく、俺にもオヤジ代わりのかけがえのない人だった。残念だ。葬儀はもう済ませてあるから、後で巡礼の丘へ墓参してくれ。

 オマエが行方不明だった丸一日、気が気ではなかったぞ。盗賊の神パッスルホップに感謝を捧げておくよ」


 カリグラが簡単にダーブルの最期について話した。それを黙って聞くナダル。

「……そうか。オマエに看取られて召されたと聞いて、少しだけ気が楽になったよ。俺もその場に居たかったが……まあ、悔やんでも仕方がないな。

 しかし、またもやダークエルフか。その一族は、これでダーブル団長の仇にもなったな。俺も今は二番隊の隊長だ。仇の情報収集は念入りにする」

 ナダルが口調をいつも通りの冷静なものに戻した。

「だが、ダーブル団長でも歯が立たなかった奴らか……現状では、残念だが俺たちの戦力では仇を討つことは厳しいかもな。俺も力をつけて、さらに強くなるよ」


(確かに、その通りだ)と思うカリグラ。

 カリグラの攻撃が全く通用しない相手だった。今のままでは、再戦したとしても無駄に死ぬだけだ。シュタルダーまでとは言わないが、腕を磨いておかなくてはならない。


 ナダルがニヤリと笑って、カリグラを肘で小突く。

「だが、オマエの良さは、その無鉄砲さでもあるけれどな。運の良さも備えている。

 黒き狼団だが、戦死者と負傷者への対応で、今は傭兵業務が満足にできない有様だ。資金や装備も底をつく寸前だな。詳しい話はペンデ団長代理に聞いてくれ。ペンデ副団長が今は団長代理をしているから」

「そんなに厳しい状況に陥っているのか」と、カリグラが顔を曇らせる。ナダルが再び小突いた。

「そんな情けない顔をするなよ、一番隊隊長。部下の士気がさらに下がってしまうぞ」


 ダーブルが使用していた部屋には、今は団長代理となったペンデが居た。入室したカリグラの姿を見るや、駆け寄ってくる。

「よく無事だったな。オマエまでも失ってしまっては、亡くなった先代団長に申し開きもできないところだった。とにかく、まあ座れ」

 使用人も兼任しているコズンが紅茶を二つ急いで持ってきた。もう半分泣いているコズンの肩をそっと叩くカリグラ。

「心配かけたな、コズン」


 嗚咽を漏らしながら退室するコズンの背中を見送り、ペンデが紅茶を口に含んだ。

「今回のことは大変だった。まさか、ダーブル団長がやられてしまうとは……」

 カリグラも口を噛みしめてうつむく。その肩を叩いてカリグラの曲がった背筋を伸ばすペンデ。

「しかし、悔やんでも仕方がない。ダーブル団長もそのような事は望んでいないだろう。『黒き狼』は、まだ生きているのだからな。

 オマエが団長としてふさわしい実力を身につけるまで、オレが団長代理を務めよう」

 異存は無いカリグラである。


 ペンデが話を続けた。

「そこでだ。修行の一環として、オーガンの町に出向いてはどうだ。ダーブル団長も冒険者ギルドの依頼を請けていたわけだし。今の狼団は傭兵稼業をする状況ではないんだよ」

 彼の表情が曇っていく。

「ダークエルフが出没しているという事は、今後の傭兵仕事では魔法戦闘が必要になる場面もあるだろう。その訓練をする意味でも、冒険者ギルドの依頼をこなす事は役に立つはずだ」


 ちなみに、ダーブルがヘカテに関しての情報収集をナダルに命じていた件は、予想通りほとんど進展なしという状況だった。

「彼女も魔法を使う。現状では我々がヘカテを捕まえる事は困難だろう。報奨金は最高額だが、やはりここは諦めて、地道に稼いだ方が良かろうな」


 ダークエルフとの戦闘で、魔法の脅威は充分に体験している。魔法に詳しくなることは、今後のためにも必要だろう。ヘカテは魔法の専門家なので、ダークエルフよりも厄介だ。


「そうですね。俺もそう思っていました」

 カリグラの力強い返事に、満足そうに微笑んでうなずくペンデ。

「もっとも、何も傭兵団に囚われることは無いぞ。生きたい道があるなら、そちらに進むが良い。もうカリグラは立派なガルカになったのだからな。

 傭兵団ではいつでも隊長に復帰できるようにしておくから、安心してくれ」

 カリグラとは『小さなガルカ』という意味である。カリグラが感謝した。魔法戦闘を覚えるためには、狼団に残っては効率が悪い。


 事実、これまでカリグラは傭兵稼業を続けてきたが、魔法が使われる場面はほとんど見た事がなかった。

 傭兵稼業では野外での多人数による戦闘が多い。そこでは神々の規定によって『戦場』とみなされ、魔法の行使に大きな制限がかかる。魔法書も使用できない。


 魔法の行使が認められるのは、洞窟内や建物内部といった限定空間での戦闘だけだ。森の中も場合によっては戦場ではなくなる。これらの場所では敵が多数であっても、味方が少人数であれば魔法を使用できる。

 経験則では戦闘に参加する人数が四人以下であれば、少人数という事になるようだ。五人であれば一人は戦闘に参加できない。

 面倒な規定だが、神々の勢力争いによって決められた事なので、人間としては守るしかない。戦闘や治療に優れた神が信者を増やすのを嫌う神々が多いため……だそうだ。

 神々の世界では合議制で物事が決まるので、こうなっている。人間世界と異なり、特定の神による独裁や専制政治ではない。


 それに加えて、騎士への興味を否定できない自身が居ることにも気がつく。

「冒険者か……確かに、その方が魔法戦闘を習熟できそうですね。ダークエルフを討つ事は優先事項ですし。分かりました。オーガンの町へ行ってみます」


 そんなカリグラの様子に何か思うところがあるのか、ペンデが執務机の引き出しを開けた。中からロウで封が施された一通の手紙を取り出し、それをカリグラに手渡す。

「黒き狼団からの公式な要望書だ。これをオーガンの冒険者ギルドマスターに渡せ。仕事を斡旋してくれるだろう」

 手紙を胸ポケットに入れるカリグラ。まだシュタルダーの所から戻ったばかりなので、普段着のままだ。ペンデがカリグラの肩を力強く叩いた。

「冒険者ギルドでの仕事をこなしていくのが、実力を上げる一番の近道だ。オレも若い頃はそのようにしてきた。

 仕事をこなしていけば、様々な道が見えてくるだろう。がんばれよ。そして、たまには顔を出しに来い」



 ペンデの部屋を退出して、自室に久しぶりに戻るカリグラ。きちんと掃除が行き届いていて、埃ひとつない。

 すぐにコズンが部屋にノックして入ってきた。まだ目元が赤いままだ。

「カリグラ隊長。おかえりなさい。ご無事で本当に良かったです」

 そして、衣装棚を開けて着替えを取り出した。シュタルダーや魔族の執事に治療してもらった際に、衣服も修復されたのだがヨレヨレになっている。


 それを受け取るカリグラ。

「ダークエルフとの戦いで、俺にはまだまだ実力が足りないと思い知らされたよ。そこで、明日にでもオーガンの町に向かうことにした。冒険者ギルドに入って腕を磨くつもりだよ。狼団の宣伝にもなるはずだ」


 カリグラの決意にショックを受けた様子のコズンだったが、すぐにニッコリと微笑んだ。

「……そうですか。カリグラ隊長の望むままにしてください。ボクはずっと、お帰りを待っています」

 そして、一人用のベッドのそばにある宝箱を指し示した。

「先代団長とペンデ団長代理からの隊長就任祝い金として、金貨百枚入っています。オーガンの町での諸費用に充ててください」


 感謝しているカリグラに、コズンが今度は申し訳なさそうな顔になって告げる。

「……武装ですが、武器倉庫をくまなく探してみたのですが……その、申し訳ありません。カリグラ隊長が使えそうな武器が残っていませんでした。

 どれもこれも錆びついていまして、研ぎが必要なものばかりでした。刃や目釘も欠けていましたので、使うとかえって危険かと」


 カリグラが気楽な表情になって、ナタ包丁を机の引き出しから取り出した。刃渡り三十センチメートルほどあるので、大きめの短剣として使えそうだ。剣というよりも、斧に近いか。

「料理人みたいになるけど、まあ、これでも充分だよ。じゃあ、これを収める皮製のケースか袋を見つけておいてくれないかな。孫シェフから包丁をもらったから、彼女がケースを持っているかも知れない」

「かしこまりました、カリグラ隊長。ええと……寸法を測定しますね」

 カリグラがナタ包丁をコズンに手渡した。

「現物があった方が便利だろう。コズンに預けておくよ」

 慎重にナタ包丁を受け取るコズン。

「はい。かしこまりました。孫シェフさまに聞いて、今日中にケースをご用意いたします」



 新しい服に着替えたカリグラが、自室を出てナダルにもう一度会った。そして、オーガンの町に行くことを話した。


 ナダルはこうなる事を予想していたようで、特に驚いた表情は見せていない。カリグラの肩を「ポン」と叩いて、目を細めた。

「そうか。狼団のことは俺に任せな。オマエの一番隊もまとめて面倒見てやるよ。現状ではオマエが居たところで、狼団は仕事ができる状況ではないからな」


 戦闘部隊の一番隊が動くには、その前に情報収集の二番隊が仕事をする必要がある。さらに実戦時には補給部隊の三番隊も加わる。今は、どちらも新隊長なので指揮が上手く機能していない状態だ。

「隊員の補充と訓練も必要だ。しばらくは仕事で暴れる機会はないさ。ちょうど良い機会だから、オーガンの町で一旗上げてくれ。

 ついでに宣伝もな。狼団が王国政府の仕事を請けるようになれば大いに助かる」



 黒き狼団本部の平屋建ての建物から外に出るカリグラ。隊員たちが次々にカリグラに挨拶をしていく。

 自身の体を今一度チェックする。腕や脚には全く異常がない。腹も切り裂かれたが違和感は無く、後遺症も残らずに元通りに回復している。傷跡も全く残っていない。

(……治療魔法、なのかな。シュタルダーさんや、魔族の執事さんに治してもらったけど。

 攻撃魔法以外にも治療魔法は必要だな。自分だけ完全回復してしまって、オヤジには申し訳ない)


 そんな事を思いながら、ちょうど狼団の軍団規約が刻まれている大きな石碑の前に差し掛かった。

 その時、ウィルマがカリグラを見つけて駆け寄ってきた。仕事中だったようで、何かの備品リストが記された書類を一抱えほど持っている。

「カリグラ隊長。無事に戻ってこれて良かった。ダーブル団長のことは、もう聞いたのよね。あたしにとっても、第二の親みたいな人だったから、残念でたまらない」

 努めて元気な口調で話しているのだが……次第に詰まり気味になり、彼女の青い両目に涙が浮かんできた。


 泣くのを堪えているウィルマの肩に手を添えたカリグラも、目から涙をこぼしていく。ようやく泣ける状態にまで回復したのだと実感した。

「オヤジを殺したダークエルフの顔と名前は覚えている。ジャトーだ。必ず仇を討つよ」

 ウィルマも声を出さずに泣きながら、顔を上げた。

「うん。あたしも手伝う」


 そんなウィルマの表情を見て、カリグラが最初の出会いを思い出した。彼女の村が山賊に襲われて、その救助と討伐でダーブルと一緒に向かったのだった。

 その数ヶ月後、ウィルマがオーガンの町へ出稼ぎに来たので、黒き狼団で採用している。

(あの時は、儚くて弱々しい印象の女の子だったけど……もうすっかり狼団の隊長だな)


 カリグラがウィルマにも、明日オーガンの町へ向かうことを話す。涙を拭いて黙って聞いていたウィルマだったが、ナダルと同じような反応をしてうなずいた。

「……そうね。寂しくなるけど、確かに今はカリグラ隊長の仕事は無いのよね。新隊員の募集や訓練は三番隊の仕事だし」


 カリグラが居心地悪そうにモジモジしているので、クスクスと微笑むウィルマ。

「傭兵の依頼が来たところで、資金や資材、補給物資もない現状では請けられないんだけどね。亡くなった隊員の家族への見舞金や援助物資で、倉庫が空っぽなのよ。

 前回と今回で魔法書も大量に消費しちゃったしね。当面はテレポートとかできない。治療用の魔法書や魔法薬もほとんど残ってないし。

 掛け払いしている物資も多いから、しばらくは動けないかな。国からの補助金も、すぐには期待できない」

 補給部隊の隊長が言っているので、その通りなのだろう。

「オーガンの町で仕事をするのは、あたしも賛成。どうせ、このままここに居てもカリグラ隊長は暇を持て余して、良からぬことを仕出かすでしょ」


 ウィルマの話を、少し感心して聞いているカリグラである。

「へえ。もう立派に三番隊の隊長の仕事をしているんだな。才能があるんじゃないか?」

 ウィルマが少しドヤ顔になった。さっきまで泣いていたのだが。泣いていたカラスが何とやら……だ。

「そう? ナダル隊長には負けるけど、これでもシーフ技能はあるつもり。二番隊の情報収集も手伝っているし、こういった補給や経理の仕事も楽しいかな」


 忙しそうなので、手短に話を終えてウィルマと別れた。彼女が書類を抱えて小走りで去っていく後ろ姿を見送って、軽く頭をかくカリグラ。

 皆、今やれる事を精一杯しているのを知り、気合を入れ直した。

「さて、最後にガズに会っておくか」



 ガズは狼団本部ではなく、近くにある上級隊員の宿舎に居る。ここも平屋建てだが、農家を改造した家だからか屋根が赤い瓦ぶきで、屋根裏が物置になっている。ちなみに一般隊員は、別の地下宿舎にまとまって住んでいる。

 宿舎は入ってすぐに大きなロビーになっている。ロビーにはソファーやテーブルがあり、隊長の補佐をする上級隊員たちが思い思いに寛いでいた。カリグラが来たので、一斉に起立して挨拶をする。


「任務ごくろう。私用で来たので、そのまま寛いでいて構わないよ」

 カリグラがそう言ったのだが、皆、仕事をしにロビーから出て行ってしまった。

 頭をかくカリグラ。と、そこへ奥の部屋からひょっこりと顔を出したガズが、何事か喚きながら駆け寄ってきた。すでに大泣きである。

「た、たたたた、隊長おおおっ。良かったああ、生きてたあああ。うわあああああん」

 ガズに抱きつかれて困惑気味のカリグラだ。従者のコズンよりも、ガズが子供っぽく見えてしまう。

「こ、こら、ガズおちつけ」


 ガズの取り乱しように、ちょっと話すのを戸惑ったのだが……やはり彼にもきちんと話しておくことにする。

 しかしカリグラの予想に反して、ガズの顔に喜色が浮かんだ。

「へ? そうなんすか? だったら、オイラが隊長代理ってことですかねっ」

 カリグラがガズを引きはがして、心配そうにうなずく。

「そうだよ。俺が留守の間、頼むよ、本当に。実質は、ペンデ団長代理と二番隊隊長ナダルが指揮をする事になるはずだ。仕事は……残念ながら無さそうだけど、訓練だけはしっかりやってくれよな」


 ガズが大喜びで、薄い胸板を「べシン」と叩いて胸を張った。

「がってんでさあっ」


(不安だなあ……でも、まあ、ナダルがうまくやってくれるだろう。訓練ならウィルマの得意分野だし)

 カリグラがそんな事を思っているとは全く知らない様子のガズが、ニヘラニヘラと締まらない顔で笑っている。しかし、何か情報を思い出したようだ。真面目な顔に戻った。

「そうだ、カリグラ隊長。最近になって、近くにまたゴブリンとコボルドの巣ができたようですぜ。近いうちに、駆除の依頼が冒険者ギルドにも来るかも知れないっすね。ウチに依頼がくるかもしれないっすけど」

 カリグラが不敵に微笑んだ。

「そうか。じゃあ、もしかすると駆除仕事の競争相手になるかも知れないな。俺に遠慮は無用だから、どんどん依頼を請けて実力を高めてくれよ、ガズ。俺も頑張る」



 ガズと別れて、独りで黒き狼団の正門から外へ出るカリグラ。そう言えば今は武器といえばナイフしか持っていないのだが……まあ、何とかなるだろう。

 この飛王国では長らく内乱が続いていたので、村や町は全て外壁や堀によって厳重に囲われている構造になっている。いわゆる城塞都市である。農家ですら頑丈な木柵で囲まれた造りだ。

 黒き狼団の本拠地も例外ではなく、高さ五メートル弱の石造りの外壁で囲まれている。外壁の上では隊員が巡回しており、投石器や石弓などが配置されているのが下からでも見える。砦と呼ぶにふさわしい構えだ。


 巡礼の丘は砦の近郊にあり、歩いて一時間半ほどかかる。山の裾野にあり、頂上に慰霊碑が設けられている。

 モンスターは一匹も出ず、予想通り何事もなく丘の頂上までやって来た。

 慰霊碑には、これまで戦死や病没した隊員の名前が刻まれている。その中に新しく『ダーブル団長』の名前が刻まれているのを見つけるカリグラであった。そのまま両膝をつき、慰霊碑に向かって祈りを捧げる。

「オヤジ……見守っていてくれ。きっと仇を討つから」


以上で黒き狼編の終了です。

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