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女王陛下の提案


 わたくしが言った言葉の意味がよくわからなかったのか、英雄殿はきょとんとした表情をしている。


 「女王陛下はどう言った意味で自分を欲しいとおっしゃったのですか?首を差し出せと言う事でしょうか?」


 何か多大なる誤解をしてるみたいね。


 「わたくしが欲しいのは純粋に英雄殿自身。わたくしの王配として、ですわ」


 「…王配」


 王配。つまりわたくしの夫になれと言われた彼は困惑顔。


 「何故、自分なのでしょう?女王陛下の王配となれば、もっと…」


 「相応しい相手がいる、と?」


 「はい」


 彼の疑問は最もだと、わたくしもそう思うわ。でも、わたくしにはわたくしの思いも考えもあるの。


 「わたくし、即位してもうすぐ一年になるところなんですの」


 「はい」


 「そして、前王の喪が明ける頃でもあるのですわ。そうなるとわたくしが何をしなければいけないか、英雄殿は御解りになります?」


 「結婚、でしょうか?」


 「その通りでしてよ」


 今はまだ、喪中と言う事もあって、縁談を持ってくる輩はいないけれど、喪が明ければ山のように縁談が持ち込まれるのは火を見るより明らか。


 前王の子供はわたくし一人。だからわたくしの結婚は義務。それは仕方のない事だけれど、伴侶となる人はわたくし自身が選びたい。


 「英雄殿。わたくしは結婚相手に財産も権力も求めてはいませんの」


 そんな物にわたくしはちっとも魅力を感じないもの。


 「では、女王陛下が結婚相手に望む物はなんでしょうか?」


 「わたくしの邪魔をしない事ですわ」


 それがわたくしの求める第一条件。


 「邪魔、ですか」


 「そうです。わたくしはこの国の王として国民と国を守る義務があります。他国による内部からの乗っ取り工作や国内の貴族達の権力争いに悩まされる事なくわたくしの仕事をしたいのです」


 英雄殿はまさにうってつけの人物。彼の父親や兄は他国への乗っ取り工作を画策するような御仁ではないし、何より彼自身が誠実で真面目な人柄で、先のグランハルとの小競り合いで『セレストの英雄』として活躍ぶりがシルベーヌにも伝わり、我が国内でも姿絵が出回るくらい人気がある。おまけに、まだ国内の貴族達が互いに牽制しあっているこのタイミングでシルベーヌを訪れてくれた事に快哉を叫びたい気分でしてよ!


 「女王陛下、自分も他国の王子ですよ。乗っ取りを企むかもしれませんよ」


 英雄殿は精一杯わたくしを脅しているつもりなのでしょうね。でも、わたくしはまったく怖くないわ。


 「駄目ですね、英雄殿。そんなの脅しにはなりませんわ。本物の詐欺師は笑顔で人を裏切れるのですよ。英雄殿のそれは正直過ぎて、可愛いらしい」


 年下の女の子に可愛いと言われたのは初めてだったのかしら?英雄殿は顔を真っ赤にしている。


 「そんな正直な貴方だからわたくしは貴方がいいと言ったのですわ」


 武人としての腕前ももちろん素晴らしいけど、彼の一番の魅力はその人柄にあると、わたくしは思っている。結婚すればきっといい夫になってくれると、わたくしは確信しているのよ。


 「英雄殿、これは売買契約なのです。貴方はわたくしと結婚すれば同盟が強固になるだけでなく資金援助以外にも更に追加で食糧を得る事ができます。そしてわたくしは貴方を王配に据える事で他国からの乗っ取りや国内の権力争いに煩わされる事なく義務を果たせます」


 わたくしの言葉に英雄殿が真剣にわたくしの顔を見つめてくる。


 「小麦畑が焼かれた際に、何人か負傷者が出たと聞き及んでいます。よろしければ、医師や薬の手配も致しましょうか?」


 わたくし、自分で言っていて流石に少し酷いかしらと思ってしまったわ。国民の為に頭を下げる事のできる英雄殿がわたくしのこの申し出を断る事なんてできる訳がないのだもの。


 「…女王陛下の御申し出、有難く御受け致します」


 ソファーから立ち上がった英雄殿は、わたくしの前に片膝をつくと深く頭を下げた。


 「契約成立ですわね。貴方がわたくしにとってよき夫である限り、神の御名とわたくしの誇りにかけてセレストを援助致します」


 先程、神の御名と自身の剣にかけて誓ってくれた英雄殿にわたくしも神の御名と自身の誇りにかけて誓う。


 これで、わたくしと英雄殿は同盟者。


 「これから、どうぞよろしくお願いしますね。英雄殿」


 彼はこれから、きっと心強い味方になってくれる。それだけで、わたくしは心の底から偽りのない満面の笑みを浮かべる事ができた。

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