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第九話

 

「アーク、もう出発の時間か?」


 眠そうに眼をこすっているグルドに俺はうなずく。

 小屋に戻るとグルドが戻ってきていた。


「……ああ、色々世話になったよ。今度戻ってくるときは土産でも持ってくる」

「そうか。ま、次に戻ってくるときは楽しい話を聞かせてくれよ」


 グルドがにやりと笑った。……初めてあったときは、何も楽しい話はできなかったな。


「ああ、わかってる」

「そんじゃ、お嬢ちゃんよろしくな。襲われそうになったら、言ってくれ。ぶっ飛ばしてやるからさ」

「ええ、お願いするわ」

「しねぇよ、んなこと」


 俺がきっと否定すると、シーアは目元に手をやり、ぐすぐすと泣いてみせた。


「あたしに魅力がないということかしら」

「ああ、まったく興味ねぇよ」


 そういいながらも俺は心で泣いていた。

 シーアが小さくため息をつき、馬車のほうに歩き出す。リーシェル家に仕えている護衛の騎士たちもいる。


「なんだぁ? 珍しく元気ねぇな」

「……べつにそんなことねぇだろ」

「そうかそうか。ま、体には気をつけろよな」

「……ああ」


 グルドにそういって、俺は頭を下げた。……彼がいなければ、今の俺はいない。

 馬車に乗り込んで、最後に一度グルドに片手をあげ、俺は息を吐いた。


「あの人があなたの父親ね」

「ああ。これから、どのくらいでお前の家につくんだ?」

「そうねぇ、いくつかの街を経由するから一週間くらいかかるかしら?」

「そうか……それで、俺はこれからどうするんだ?」

「とにかく……まずは親父に挨拶をするわ。……どうやって紹介しようかしら」

「恋人ですって言ったらどうだ?」

「やってみる?」

「まだ死にたくねぇな」

「親父の奴、あんたのことが気に食わなかったのよね。家柄は微妙だし、魔法なんて持ってないんだしね」

「家柄は……どうしようもないが、今はそれなりに強いんだろ? いまいち実感がわかないが」

「ええ、強いわ。そこはそのうち嫌でもわかるわよ。ただ、それでもあの親父だと色々問題があるのよね」

「そうか。なんだ、とうとう禿げたか」

「それはもうとっくよ」


 どんまい親父さん。


「問題はね、頭もそうだけどあの馬鹿親父……頑固なのよねぇ」

「ばっちり遺伝してるな」

「ぶん殴られたいかしら? あんたのことを才能のない無能者って真っ先に広めて、騎士をやめさせたのはあのハゲ親父なのよ」

「ハゲ親父って言ってやるなよ。大事なお父さんだろ?」

「あのハゲはあんたのことを最後まで認めていないのよ。……ってことは、どんなに力をつけても、アークのことを騎士と認めてくれないかもしれないわ」

「……頑固、だからか?」

「ええ、そうよ。あいつは自分がアークの才能を見抜けなかったことを認めるわけがないわ。あんたがどれだけの力をつけたとしても、あんたを騎士にしてくれるはずがないわ」

「騎士たちだって魔族と戦っているんだし、彼らに俺のことを伝えてもらうのはどうだ?」

「信じるはずないわよ。自分の部下だとしても……アーク関係になるととたんに視野が狭くなるのよ、あいつ」

「じゃあ八方ふさがりだな。よし、帰るか?」

「それも一つの手かもしれないわね。家を出たらあんたが養ってくれるのよね?」

「あ、ああ、もちろんだ」


 あれ、これで解決じゃないか? そうは思ったのだが、彼女の表情は冴えない。

 俺と一緒は嫌ですか。泣きそうだ。顔には一切出さないが。


「母さんがいなかったら、それもありっちゃありなんだけどね」

「……そうか、あの人を放りだすのはな」


 彼女の父は俺を敵視していたが、彼女の母は俺にもまるで実の息子にでも接するように優しくしてくれた。

 ……たぶん、家に男の子がいなかったのも一つの理由だろう。


 とても優しい人なのだが、その反動とばかりに体が弱い人だった。俺も好きな人だ。もちろん、シーアの次ではあるが。


「まあ、そういうわけで。あたしも仕方なく家の発展に協力はしたいのよ。母さんのためだけに、だけど」

「俺もそうだな。……けど、それじゃあどうするんだ? 頑固な親父を説得するいい手段があるのか?」

「ええ、あたしの小さい頃のあだ名って知っているかしら?」

「わがまま姫か?」

「天才」

「自称か?」

「他称よ」

「その天才様が思いついた作戦はなんだよ」

「あんた、屋敷についたら屋敷の騎士たち全員ぶっ飛ばしなさい」

「とても天才が考えた作戦とは思えないんだけど」


 シーアが明るく笑った。



 〇



 予定より少し早く、街についた。

 中央にある旅人学園を中心に街は造られていったらしい。街を歩く人は学生が多く、何より俺が知っている田舎とはずいぶんと発展していた。


「……初めて見る町だな。確か、異世界で発展している世界とかはこんくらいの科学力があったよな?」

「ええそうね。他世界から稀に、この世界に移動できる人がいるのだけど、そういう人を集めて、開発をすすめてもらった実験的な都市なのよ。科学都市トラベラーと言われているわ」


 ……なるほどな。

 街並みは随分と綺麗だった。足の通りは、石を敷き詰めたものではなく、アスファルトによって作られたものらしい。


「中央区画であれば、車の行き来も行われているわ。まだまだ、実験的な部分が多くて、他の都市まで、とはいかないようだけど」

「……ああ、さっきの箱みたいなやつか。馬車の代わりなんだよな?」

「ええ、そうよ。って、そのくらいはあんたも見たことあるんじゃない?」

「……話で聞いたことがあるくらいだ。まさか、五年でここまで成長しているなんて思ってもいなかったな」


 俺が最後に聞いたのは、車という存在があって、現在研究が進められているということくらいか。


「街の観光はまた後にしましょう。今は、屋敷についてからよ。あんたには全員倒してもらう必要があるんだから、頑張りなさいよ」

「……それで納得してくれるのよ」

「大丈夫に決まっているわ。さすがに半殺しにした騎士を並べたら、親父だって納得するでしょ。同じようにはなりたくないでしょ? ってね」

「それ脅しじゃね?」

「結果が大事なのよ。それじゃあ行くわよ」


 シーアが楽しそうにはにかんで、腕をあげた。

 仕方ない。彼女を喜ばせるためにも頑張るか。


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