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第八話


 村を守ったことで、何か俺は英雄のように感謝された。

 もともと予定していたシーアのための祭りにも参加することになってしまった。


 ぱちぱちと燃える木々のはぜる音を聞きながら、隣にいるシーアを見た。

 泣いていたことに関しては指摘しない。指摘すると足を踏みつけられるからだ。第一、今も何度か時々怒りを示したように蹴ってくるのだ。


「あなた、それで勝手にあたしの前を去った謝罪を聞いていないんだけど?」

「……別に勝手じゃないって。家を追放されたんだから、もうどうしようもなかったんだよ」

「あたしの家にくればよかったじゃない」

「……おまえの家にだって、歓迎してもらえないだろう」


 歓迎してくれるのはシーアくらいだ。


「ていうか、おまえだって別に俺のことをそこまで気にかけてくれているなんて思ってもなかったし」

「別に気にかけてないのだけど。勝手に人の気持ちを推測しないでくれるかしら?」


 そりゃあもう冷たい表情で睨みつけてくる。

 ……こいつ。昔から何も変わっちゃいない。


 なんで俺はこんな女を好きになってしまったのだろうか。過去の俺をぶん殴りたいね。今もこうして一緒にいるだけで幸せを感じてしまうんだから、きっと俺は変態なんだろう。


「……で、あなたなんであの時嘘の名前を言ったのよ。あたしね、あなたがちょっとアークに似てるな、って思ってたのよ?」


 そういった彼女の目は不安げに揺れていた。……どんな意味だそれは?


「そうなのか?」

「こんなにやる気のない目をしている男ってアークくらいしかいないのよ。第一、あたしの想像通りに育っていたし……」

「想像って……ずいぶんと身長伸びただろ?」

「ええ、驚いたわね。かっこよ――……とにかく、なんであのとき嘘をついたのかしら?」

「……それは。いま名乗ったとして、おまえはどうしたんだ?」

「騎士に……誘ったわよ。あたし、あのとき言ったでしょ? あなた以外の騎士は認めないって」

「……あのときは……魔法を持っていない、無能者だからな。おまえを守り切れる気がしなかったんだよ」


 もしも守れなくて死んだとき……俺は後悔するだろう。

 俺の言葉にシーアは目を見開いていた。

 ま、まずい。俺の気持ちに気付かれたか!?


「あなたねぇ……あなたが撃退したあいつって魔族よ? どうして、こんな場所に現れたのかもわからないけど……あいつを撃退できる人間なんて世の中探しても、かなり少ないわよ?」

「みたいだな。戦うまでは、勝てるかどうかわからなかったんだ。俺を拾ってくれた……師匠みたいな人は俺よりも強いし、何より外で力を使ったことがなかったんだよ」


 グルドはたぶん、今の俺の全力よりも強いだろう。


「……あなたの師匠って人もたいがい化け物ね。有名な旅人とかだったのかしら?」

「グルドっていうんだけど」

「……聞いたことないわね」


 そうか。


「まあ、どちらにせよ。俺は身体強化しか使えないんだよ」

「あなたの、身体強化がおかしいのよ。……あなたみたいに魔法が使えない奴なんて今までいなかったでしょ? あっ、ちなみにあれからも発見されてないから、まさに希少な存在ね」

「いや、わざわざ教えてくれなくていいんだけど。泣いていいか?」

「泣き散らせばいいじゃない。笑ってあげるわ。ていうか、話をそらさないで」


 理不尽すぎない? そらしたのおまえじゃん。

 けど、こんなやり取りも懐かしくて心地良さを感じているのも事実だ。悔しい。

 

「あなたみたいに、今まで身体強化を使いまくった人はいないのよ。何か理由があるのかもしれないけど、例えば魔法は成人を迎えるまでの間に伸びていくでしょう? 何より、魔法の使い方次第では普通の身体強化よりも優れた体になるし。あなたみたいに、わざわざ身体強化を使い続けるような人なんてまずいない。みんな自分が持つ魔法を鍛えていくんだから、あなたのような例外が生まれたのかもしれないわ。すでに、あなたの身体強化は、一つの魔法として誇れるものになっているのよ」

「……そう、なのか?」

「もちろん、魔法の検査には引っかからないんだろうけど」

「あげて落とすのはやめてくれませんか?」

「いいじゃない。特別って感じで」


 本気で思っているのかこいつは。

 そういってから彼女は少しだけ真剣な目を向け、俺の前で一礼をする。

 それから、すっとこっちを見てきた。


「改めて……お願いします。あたしの騎士になってくれませんか?」


 その言葉に俺は頭をがつんと殴られた気がした。 

 ずるい、この女ずるい! うるうるとした目でそんなことを言われて、断れるわけがない……っ。

 こいつ、本当に俺の本心に気付いていないのか? 実は気づいて利用されているんじゃないだろうか。

 だとしても断れなかった。


「……わかったよ。わかった。降参だ。おまえの奴隷に戻ってやるよ」

「……本当ね? そう、よかったわ」


 彼女はそれこそ、心からほっとしたような息を吐く。演技のうまい奴だ。

 ていうか、そんなに俺は気に入られていたのか? 確かに生意気なことをいわず、せっせと召使いしてたからな……。

 あの日々が戻ってくると思うと、ちょっと大変そうだが、シーアの隣にいられるならそれでいいか。


「とりあえず、明日には村を出ましょうか。そもそも、この村にきた理由も、パートナー探しだし」


 そういえばそんなことを話していたな。ただ、明日になるというのであれば、グルドにどう話をするかだな。


「……明日、か」

「何か不都合があるのかしら?」

「いや、俺を拾って育ててくれた人がいるんだ。その人になんて伝えるか、だな」


 そもそも、戻っているのかどうかというところもある。


「……そう。確かにあたしからもお礼を伝えておきたいわね。いつ頃戻るとかはわかるのかしら?」

「いや、どうだろうな。もともと適当な人だからな」

「あなたに言われるってよっぽどね。……ただ、あたしもできるかぎり早めに戻っておきたいのよねぇ。あなたのことを家族たちに納得してもらえるまで時間かかりそうだし」

「……まあ、グルドはいいや。これから行く予定の場所は決まってるんだろ?」

「ええ、そうね」

「場所とか書いた手紙を残しておけば、グルドが用事あれば会いに来るだろうしな。またあとで、時間ができてから戻ってきたっていいんだし」


 とりあえずの方針は決まった。

 それにしても、説得か。うまく終わってくれればいいんだが。

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