表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/37

第五話



 六年ほどが経過した。俺もすっかり成長し、だいぶ戦えるようになった。

 この森から外に出ていないので、どれくらい強くなったのかはわからないが、とりあえず生活できる程度にはなった。

 

 もう一生ここで生活していく気持ちだ。 

 ……人と関わるのも大変だからな。ここでなら、そういうことをあまり気にしなくても済む。


 小屋がノックされた。……あまり、というのは近くに村があって、時々グルドに用事があって訪れるからだ。


 ドアを開けると、予想通り、村の人だ。

 村長の息子……リアルだ。彼は少し困った顔をしていた。


「アーク……グルドさんはいないのか?」

「あーみたいだな」


 昨日の夜まではいたんだが、また旅にでも出てしまったのだろうか。


「……そうか。それは少し困ったな」

「何かあったのか?」

「……いや、その。村に滞在していたシー……あー、貴族ってわかるか?」

「おまえ、俺をどんだけの田舎者だと思っているんだ」

「いやいや、一応な。まあ、その。貴族の令嬢様が村から消えてしまってな。……お付きの人たちが探しているんだ」

「それで、グルドに探してもらおうとしていたってわけか」

「そうなんだ。……まあ、仕方ない。僕たちで探して――」

「いや、俺が代わりに探そうか?」

「へ? えーと……すまない。確かアークは魔法を持っていなかったんだよね?」

「ああ、そうだけど。魔力を探知するくらいならできるから……とりあえず、森にいないかどうか調べてほしいんだよな?」

「……あ、ああ。ぐ、グルドさんの探知って魔法じゃなかったのかい?」

「それはわからないけど……俺の場合は、無理やりな探知だからな」


 周囲の魔力を意識する。初めは近場だけだったが、ゆっくりと身体強化とあわせてその範囲を拡大していく。

 魔物の魔力は放置し、人間の魔力を探していく。

 ……あった。


「人間の魔力が一つあったけど、誰か村人が森に入る用事はあるのか?」

「……な、ないね」

「それなら、もしかしたらこの魔力かもな。ちょっと行ってみるか」

「僕も行こう。キミに押し付けるのもね」

「そうか。そんじゃ行くとするか」


 小屋から外に出て、俺は地面をけりつける。近くの木に飛び移った瞬間だった。


「な、なにをしているんだアーク!?」

「へ? い、いや……別に身体強化を使っただけだけど」

「なんだその身体強化は! ふ、普通じゃないよ!?」

「……普通じゃない?」


 そういえば、村の人たちの前で魔法を使ったのは初めてだったな。

 俺がある程度戦えるのがわかれば、村人に頼られるかもしれないというわけで、グルドが気をきかせてくれていた。

 俺が一人でひっそりと生きられるように、な。まあ、俺は別にそんなの気にしたことはないんだけど。嫌なら、嫌と断るだけだし。


「けど、みんなこのくらいはできるんじゃないか?」

「できないよ! 僕の身体強化を見てみるかい!? どうだ!?」


 彼は身体強化を発動した。……しかし、あまりにも質の悪い強化だ。


「……本気でやってるのか?」

「やってるよ!」


 ……嘘、マジで?

 けど、グルドは俺の身体強化がおかしいなんて何も言っていなかったぞ?

 まだ、なんともいえない。リアルがたまたま身体強化が苦手なだけかもしれない。


「それじゃあ、一緒に行くか」


 俺はリアルをお姫様抱っこして、木に飛び移って移動していく。


「……アーク、僕を軽々持ち上げて、それで運ぶなんて普通じゃないんだよ?」

「そうなんだな」


 あとでグルドに聞いてみるしかないだろう。それか、自分の目で外の世界を見てみるくらいか。

 魔力が動くほうへと移動していく。


 まったく、グルドがいれば押し付けるんだがな。村の人たちは、みんな良い人だ。……けど、俺はあまり関わりたくなかった。


 グルドの奴はどこに行っているのやら。最初の一年くらいは一緒にいることが多かったが、最近はよく出かけている。

 いびきはうるさいし、体臭も最近増してきたからいないほうが気楽なんだけどなっ。


「……ん? リアル、まずい……魔物が人間の近くにいる!」

「なんだって!? 急がないと、僕のことはいいから早く令嬢のところにっ!」

「いや、身体強化を60%にまで引き上げる!」

「ろ、60%……?」」


 言ったとおり60%まで引き上げる。

 それによって、木から木への移動が楽になる。


「……あ、アークなにを言っているのかさっぱりなんだけど?」

「いや、身体強化による強化具合のことなんだが」

「それが60%ってことかい?」

「ああ。普段使用していないときを0%としてな。俺は最高100%までは使えるが、それ以上は体に負担がかかるんだよ」

「……いまが、60%。僕を担いでいたときは?」

「20%だ」

「あ、あれで……」


 リアルが驚いたように目を見開いていた。

 人と魔物が向き合っているのが見えた。


「令嬢だ!」

「よし、ビンゴ!」


 俺は着地と同時に、魔物の背後へと移動する。

 魔物が振り返るより先に、背中に拳を叩きこむ。

 魔物は目をも開き、そのままばたりと倒れた。


「森最強のベアウルフを一撃で――!?」


 リアルが驚愕の声をあげている。……確かに、倒れた魔物を見るとベアウルフだった。

 オオカミのような顔をした魔物だ。この森で一番強いのだが、それでも余裕で倒せるほどだ。

 貴族の令嬢はほっとしたように息を吐いている。美しい桃色の髪、どこか見覚えのある顔に俺が眉根を寄せていると、リアルが彼女に近づいた。


「し、シーア様ご無事ですか!?」


 し、シーア……っ!? 彼女の顔をじっと見る。

 た、確かにシーアが成長したらこんな感じかもしれない。滅茶苦茶美人で、俺の心臓が高鳴った。


 と、女性もこちらを見ていた。しばらく見つめあっていると、間にいたリアルが困ったように俺と彼女を見比べていた。


「ど、どうされましたかシーア様?」

「い、いえ……なんでもないわ。……助かったわ、ありがとう」


 偽物か? シーアが素直に謝罪するなんて……。

 いや、ただ単に成長したのかもしれない。だとすれば、嬉しいような少し寂しいような……。


「とにかく、よかったです。ここは危険ですから、村に戻りましょう」

「そうね……そちらの、方は?」

「彼はこの森で暮らしているアー――」

「アルク、だ」


 俺は反射的に名前を偽って名乗る。彼女は、気づかないかもしれない。

 けど、アークとはいいたくなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ