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誰でも使える身体強化を鍛え続けたら、滅茶苦茶強くなってました ~人類最強の無能者~  作者: 木嶋隆太


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第三十話



 あたしは燃える火を、じっと見ていた。他に一人の時間でやることもないのよね。

 ぱちぱちと爆ぜる火を眺めながら、時々木の枝をひょいと投げ、瞬間的に強くなる火を見て楽しんでいた。


 二十時から翌六時までが休憩の時間となる。

 一人あたり三時間、あるいは四時間の見張りを務め、次に交代といった流れだ。

 最初の三時間はリーベが行い、今はぐっすりテントで眠っている。

 

 起きたときに抱き枕にされていたのは癪だったわね。なんであんなに胸が大きいのかしら。


 二十三時から翌三時まではアークが見張りを務めた。

 一番眠くなる時間だろうし、戦闘を行う二人に負担をかけたくなかったのであたしがやろうと思っていたが、アークが引き受けてしまった。

 ……変なところが優しいのよね。そういうところに、嬉しさを感じてしまう。


「ほんと、あたしのことなんとも思ってないのに、そういうところばっかり気を遣うんだから」


 あたしは二十時からアークとの交代である翌三時まで眠ったこともあり、今はぴんぴんしている。

 特にあたしはあちこち旅に出ていたので、ある程度どのような環境でも眠れた。


 いつもより早く起きたが、さすがに七時間近く寝れたのだから、眠気はまったくない。

 そんなアークはというと、馬車で眠ればいいのに、焚火の近くで眠っていた。

 何かあったらすぐ起こしてくれていい。


 そういってくれたアークの言葉が、嬉しかったけど……彼に負担をかけてしまっているのではないかとも思ってしまう。


 ならもっと、普段からやさしくするべきよね……。

 そんな自分の姿を想像してみて、笑いそうになる。


 まったく、似合わないわね。

 出来ないこともないと思う。

 ……あたしの母は、そういう人だから。


 周りへの気遣いが凄くて、常に笑顔を振りまく。でも、全部うちにため込んじゃって、そして体を壊した。

 そんな母を尊敬はしているけれど、あたしはあそこまではなれなかった。

 眠っているアークを見る。


 ……いつもはやる気のない目をしている彼も、さすがに眠っているときはどこか落ち着いたような表情だ。

 ちょっと可愛らしい。ずっと見ていても飽きないと思う。


 アークがここにいる。伸ばせば届く距離にいる……それって、あたしにとって凄い嬉しいことだった。

 

 もうしばらく、アークがいる生活を送っているが、未だに時々夢なんじゃないかって思うときがある。

 朝目が覚めたら、またアークがいないんじゃないかって……そう思うことが度々ある。


 はぁ、と息を吐く。

 いつからあたしはこんなに弱くなってしまったんだろうと、ひざに顔をうずめる。

 いつまでもそうしているわけにはいかない。


 周囲を見て、魔物が近づいてこないことを確認する。

 護身用に持ってきた剣を軽く握る。

 ……あたしだって、強くなるためにいろいろと学んだ。

 

 その一つが剣だ。技術はそれなりのものだと思うが、結局魔法使いたちの身体強化の前では歯が立たない代物だ。


 ……もっと強くなりたいわね。

 アークと並び立つには、あたしでは力が足りなすぎるのよね。


 アークをしばらく眺め、二時間ほどが経った。

 空が明るくなりはじめ、日差しがアークの顔に当たりそうだったので、目元を隠せるようにタオルを持っていこうとして、


「……ん」


 アークが声をあげ、目をゆっくりと開いた。

 その目とあたしがじっとぶつかる。

 ま、まずい! この状況、あたしが何かしようとしているみたいじゃない!


「あ、アークおはよう。日差しが出てきたからタオルでも顔に巻き付けてやろうと思ったのだけど……」


 もうすぐにあたしの口はこういう言葉を吐くんだから……。

 じっとあたしと見つめあっていたアークはゆっくりと視線をそらした。

 ちょ、ちょっとは意識したかしら?


「俺を殺す気か?」


 まったく意識していないわね!

 人がドキドキしているというのに!


「別に、そういうわけではないわ。一応、眩しかったと思ってタオルをかけてあげようと思ったのよ。やさしさよ」


 ええ、そうよ。これは優しさ。

 それを少しは、意識してくれないかしら……?


「そうか。あんがと」


 普段通りねっ。

 あたしは彼にタオルを渡し、ため息をついた。

 アークは立ち上がり、軽く体を動かしている。

 屈伸などを行い、体の状態を確かめ終えたのだろう彼は、あたしの隣に座った。


「まだ時間はあるけど……起きてもいいの?」

「ああ、大丈夫だ。それに、リーベが起きてくる前に、おまえと色々話しておきたかったしな」


 え? ドキリとする言葉に、あたしは慌てて顔をそらす。

 あ、赤くなってないわよねあたし。

 アークに好きだって思われるわけにはいかない。思われたら、この関係がなくなってしまうかもしれない。


 立場を利用して、アークと良い関係になるだなんて絶対にしたくない。いや、無理やり騎士にしているので、今さらな気もしないことはないけど……。


 あたしが彼の言葉にドキドキして、アークの唇が動くのをちらと見ると、


「今日の依頼について、色々話しておきたかったんだ。リーべがいるとうるさいからな」


 ……仕事熱心ね、バーカ! 期待したあたしがバカなだけよね。

 あたしは腕を組んで、彼を睨んだ。

 困惑した様子でこちらを見るアーク。ちょっとくらい、驚かせても罰は当たらないわよね?


「ウッドバードね。まずなんでこの依頼書が出たのか、わかるかしら」

「ウッドバードリーダーの討伐ってことは、やっぱり数が増えたとかじゃないのか?」

「おそらくはそうね。リーダーがいると、繁殖とかもずいぶんと盛んになってしまうの。それこそ、計画的にね」

「なるほどな。……だから、リーダーを討伐するんだな」

「ええ。依頼書にもあったけれど、リーダーの討伐とウッドバードを間引いて生態系を保つこと。……森にどれだけいるかはわからないけれど、これまでの事例をあげるのなら、50体くらいウッドバードを倒せば大丈夫だと思うわ」

「了解だ。ほんと、シーアは詳しいな」


 アークが純粋にそういってくれて、あたしは嬉しかった。

 あたしが色々なものに詳しくなったのは、それしかやることがなかったから。

 ……戦いで役に立てないのなら、せめて頭だけでも周りを抜くしかない。

 そう思って勉強したけど、役に立つことはあまりない。


 けど、アークにそう言われただけで今までの努力すべてが報われた気がした。

 大げさね、あたし。おまけに単純で、根本的には馬鹿なのよ。

 ……リーベと同じにはされたくないけど。リーベくらいの素直さがあれば、あたしももっとアークと距離を縮められただろうか?


 ……無理ね。アークがたぶん引く。


「それはどうも。もう火もいらないわよね」

「だな。消すか」


 お互いに近くにためておいた砂を掴んで、火に入れた。

 やがて、火はゆっくりと小さくなっていき、すっと消えた。

 手についた汚れを払うようにアークは払い、こちらを見る。


「そんじゃ、今日も一日よろしくな」

「……ええ、よろしく」


 また、今日も一緒にいられる。

 そう思えただけで、心が温かくなる。


 ……今は、この時間だけでもそれでいいかしら。




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