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誰でも使える身体強化を鍛え続けたら、滅茶苦茶強くなってました ~人類最強の無能者~  作者: 木嶋隆太


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第二十八話


 三日ほど外で生活をするということで、リーベも荷物を取りに戻るため、一度別れた。

 シーアとともに屋敷に戻る。

 スパイトは仕事があるようで、外に出ているようだ。


「好都合ね」


 にやり、とシーアは笑う。

 俺たちのことでどうせ絡んでくると予想していたので、拍子抜けした。まあ、俺としてもこのほうが気楽でいい。


「兵士たち、馬車と御者を務められる人間を用意してくれないかしら?」


 シーアが近くにいた兵士に声をかける。


「お嬢様、どういった理由でしょうか?」

「学園の依頼を受けるために、足が必要なの。 準備、してくれるわよね?」

「い、一応スパイト様の許可が必要になりますが――」

「大丈夫、とっているわ」


 平然と嘘をつきましたよこのお嬢様。


「わかりました。出発はいつでしょうか?」

「昼までには行きたいわ。準備できるかしら?」

「はい。連絡を入れておきます」

「ええ、頼むわ」


 シーアは俺のほうを見て、ブイっとピースを作る。


「スパイトにばれたらいろいろ言われるんじゃないか?」

「大丈夫よ。パパー、ありがとーとか甘えた声で言っておけば、許してくれるわ」

「……そうか」


 まあ、シーアに甘えられたら仕方ないな。

 今の甘えた声の演技でも俺がころっと落ちかけたし。

 

「アークって、服たくさんもっていたかしら?」

「使用人たちがいくつか余っているのを用意してくれたからなんとかなりそうだ」

「わかったわ。新品が欲しかったらいつでもいいなさい。買ってあげるから」

「……了解」


 この前のデートのときに、服くらいは買ってもらうべきだったかもな。

 部屋に戻った俺は、着替えを一つだけ用意する。

 

 カバンは――ないので、メイドに用意してもらう。

 と、シーアの専属メイドであるラフィアがお辞儀とともにリュックサックを持ってきた。


「いくつか、食料も用意しておきました。といっても、主に水分になりますが」

「ああ、ありがとう」


 リュックサックを受け取ったところで、ラフィアがこそこそとこちらに顔を寄せてきた。


「それで、お嬢様と三日も外に出られるとは。一体何をするおつもりですか?」

「べ、別に何もしねぇよ。なんだそれ?」


 ラフィアは、たびたびこんな風にからかってくる。

 ……シーアの専属メイドを務めるだけあって、やはり普通じゃないんだろう。

 ラフィアは自分の体を抱きしめ、身をくねらせる。


「それはもう、あんなことやこんなことをするために、外に連れ出そうとしているのではありませんか?」

「んなわけねぇだろっ。準備ありがとなっ、ほら行った行った!」


 ラフィアの背中を押すと、いやーんとわざとらしく声をあげ、部屋を出ていった。

 ……まったく。

 

 ため息をつきながら、俺は着替えを一つだけ入れ、リュックサックの口を閉めた。

 これで、俺の準備は完了だ。

 シーアは何を用意するのだろうか? 着替えはまあ、一着程度は持っていくだろう。


 あとは、食料とかだろうか?ラフィアのことだから、そのあたりしっかりしているだろう。

 部屋で一人、ベッドに腰掛けて少し休憩。


 ……シーアと出かける、か。

 ラフィアが余計なことを言ったせいで、変な妄想が浮かんでしまう。


 それをかき消すように首を振る。

 実際は、もう一人騒がしいのがいるんだ。

 そんな甘い妄想のようなことにはならないだろう。


 だから、余計なことを考えるな俺の頭。

 何度か深呼吸をして、落ち着かせる。

 それから、部屋を出てしばらく廊下で待つ。


 シーアの部屋が何やら騒がしい。

 ラフィアとシーアの声が少し聞こえると、シーアが飛び出すように部屋から出てきた。


 その顔は真っ赤である。

 ラフィアが遅れて出てきて、俺を見て楽しそうに口元へ手をやった。


「あれ、アーク様。もう準備万端ですか?」

「ああ。シーアももういいのか?」

「え、ええ……大丈夫よ」


 そういうシーアの顔は真っ赤である。

 一体どうしたのだろうか?

 そう思っていると、ラフィアの目が細くなった。


「シーアお嬢様に言ってあげたんです、もっと可愛いパ――」

「ラフィア。給料なくてもいいのかしら?」


 シーアの底冷えするような声が廊下に響いた。

 彼女の威圧を受けたラフィアだが、くすくすと笑うだけだ。


 今のを他の貴族がくらったら、顔面真っ青で漏らすレベルだが、このメイド、面の皮が厚すぎるな。


「いくわよアーク」

「……ああ、了解。そんじゃな」

「はい、いってらっしゃいませー」


 ラフィアがひらひらと手を振る。

 シーアが玄関に向かうと、兵士がやってくる。

 

「お嬢様。北門近くにあずけている馬車がありますので、そちらでお借りください」

「わかったわ。そんじゃ、アーク。さっさと行きましょうか」

「別にいいけど、リーベはどうするんだ?」

「……めんどくさいわね。確か、リーベは寮で暮らしていたわね。行くわよ」

「部屋知っているのか?」

「ええ。最悪なことにね。リーベが学園に来ないときかに、あたしが起こしに行くのよ」

「……それはまた。なんか、仲良いよなおまえら」

「……そんなんじゃないわよ」


 気兼ねなく話ができる、っていう点はあるだろうな。

 ただ、ずっといると疲れるやつでもある。

 しばらく貴族街を歩いていく。シーアとこうして並んで歩くのは、昔を思い出す。

 この前のデートは、ここまで余裕がなかったからな。


 今は、ゆっくりとこの時間を噛み締められた。

 ずらりと並ぶ貴族の屋敷。一応、複数の国が集まるため、庭はそれほど広くない。

 それでも、学園に近い屋敷は豪華だった。


 そんな俺を見てか、シーアが口を開いた。


「このあたりは、各国の代表者たちの家ばかりよ」

「代表者?」

「そっ。ここ最近力をつけていた家が優先的に家を建てているわ」


 リーシェル家は、この区画ではなかった。

 ……たぶん、シーアが関係しているんだろうな。

 この街自体、出来上がったのが数年前だそうだ。

 ……そのときには、シーアに治癒魔法しかないのが分かっていたのだろう。


 シーアが少しだけ悲しげに目を伏せたのを俺は、見てしまう。

 ……シーアの変化は、本当にすぐに気付けてしまう。

 ……ああ、くそ。


「それで、リーベがいる寮はどこなんだ?」

「ああ、あれよ」


 学園から近い場所に、その建物はあった。

 すらっと高い建物は、五階建てだろうか。

 道を挟んで左右に似たような建物があった。


「左が女子寮、右が男子寮よ」

「……なるほどな。それじゃあ、リーベを呼んできてもらっていいか」

 

 さすがに女子寮に俺が入るわけにはいかないだろう。

 

「そうね……って」


 シーアが入り口に入ろうとしたところで、大荷物を持ってやってきたリーベを見つけた。


「……あいつは、これから商人として旅立つつもりか?」

「……そうじゃない? たぶん、あたしたちとは別の用事ができたのよ」

「それじゃあ、二人で行くか」

「え、ええ。そうね……そ、そっちのほうがいいわ」

 

 ……そ、そっちのほうがいいってどういう意味だ?


 一瞬、俺と二人きりがいいのだと思ったが、シーアに限ってそれはないだろう。

 おそらく、リーベがいないほうが静かでいいって意味だろう。


「アークっ、シーア! またせましたわー」


 商人が俺たちの前で足を止めた。


「……あんたねぇ。その荷物なによ? どこに旅立つつもりよ」

「着替えとお菓子ですわ!」

「……お菓子は最低限にしなさい」

「最低限は許可するんだな」

「食事は大事よ。旅での唯一といってもいい楽しみよ?」

「へいへい」


 きっと、こちらを睨んだシーアはそれからリーベに視線を戻す。


「必要ないものはおいていきなさい」

「……ひ、必要ないものなんてありませんわ!」


 シーアが俺を一瞥してから、リーベの肩を掴んで女子寮へと向かった。

 それから三十分ほどして、リュックひとつにまとめたリーベとシーアが現れ、俺たちは出発した。

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