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誰でも使える身体強化を鍛え続けたら、滅茶苦茶強くなってました ~人類最強の無能者~  作者: 木嶋隆太


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第二十二話


 この学園の新入生たちは、基本的に新入生だけのクラスとなっている。

 ……だが、Zクラスだけは、適正者が少ないため、俺はシーアやリーベと同じクラスということになった。

 そして俺は、新入生が受けるはずの授業が行われる教室に来ていた。


 シーアは全科目満点をとれるほどの天才であり、学園から特に授業の指定はないそうだ。

 リーベは……全科目落第に近い点数を取るほどのバカであり、頼むから、基礎基本だけは覚えてくれと学園から懇願されており、毎年新入生が受ける授業を何度も受けているらしい。今年で五年目だそうだ。それでも理解できないバカだそうだ。

 

 他クラスの授業に参加すると、案の定俺たちは注目を集めた。

 入学式のときに知り合った人たちもいたのだが、彼らもシーアたちを見て声をかけにくそうにしていた。


 仕方ない……あとでまた一人のときに事情でも話そうか。

 授業が終わり、休み時間となると、生徒たちが話を始める。


「……ねぇ、そういえば、さっき見た?」

「見た見た。今日の午後一番に、リーベ様が決闘をするみたいじゃない」

「リーベ様が!? 相手は誰なの!?」

「アークだそうよ」

「え、だれ?」

「ほら、あのシーア様の騎士の……」


 俺のほうを女性が指さしてくる。

 ちらと視線を向けると、彼女らは慌てた様子でそらした。


「……あれが? 強いの?」

「……なんでも、アークって昔話題になった魔法なしの貴族の人って話みたいよ?」

「魔法ないのに、決闘? ていうか、この学園に入学できたの?」

「家の力で無理やり、みたいだそうよ」

「うわぁ……最悪だね」


 ひそひそとそんな話があちこちから聞こえた。

 シーアが大変不機嫌そうである。リーベは口元に手をあててぷすぷす笑っている。変な笑い方だ。


「ま、魔法なしですの!? ノーム国は面白い人がたくさんいますのね! ていうか、それでわたくしにどうやって勝つつもりですの!?」


 リーベが俺のほうを見て、何度も何度も笑い声をあげる。

 シーアがリーベをにらみ、その脇腹の肉を引っぱる。


「い、痛いですわ! 離してくださいまし!」

「うるさいのよ。魔法なんてのは関係ないのよ。例外ってもんがあるってこと、理解しておきなさい」

「い、いいから引っ張らないでくださいまし!」

「ていうか、おまえら俺を挟んで喧嘩するのやめてくれないか?」


 席変わってくれ。シーアとリーベは俺を挟むように座っている。喧嘩されると、その間の俺まで被害が出るのだ。

 シーアの片手が俺の太ももあたりに乗っているのが滅茶苦茶気になって、心臓バクバクだ。

 リーベがすっと逃げるように距離を置く。そうだ、それでいい。ていうか、なんでおまえ俺たちの隣に座ってんの。友達のところに行けばいいのに……。


 リーベは警戒しながら戻ってきた。そのまま別の席にいけ。

 教室にいた教師がちらと俺たちを見てくる。……おいおい、この二人が原因で俺まで教師に目をつけられたくないんだけど。


 ただ、さすがに授業が始まると二人も静かだ。


 ……俺にはかけらも授業内容が理解できないのだが、この原因は俺側にあるのだろうか。

 かも、しれない。新入生たちは、みんな納得したような顔である。同じ平民の子たちもそうだ。

 授業が終わったところで、リーベとシーアが席を立った。


「ちょっと外行ってくるわ」

「わたくしもー」

 

 二人がいなくなったところで、ようやく一息つくことができた。

 俺が軽く伸びをしていると、二人の男子生徒がやってきた。


「よっ、アークさっきぶりだな」

「ああ、ロウにケイス、どうしたんだ?」


 入学式のときに知り合ったロウとケイスだ。ロウは勝気な顔つきで、ケイスはどこか控えめだ。一瞬女と間違えるほどの線の細さである。

 平民でも、それなりに裕福な家なんだろう。二人とも、貴族ほどじゃないが、言葉遣いなどは丁寧だ。


「さっきの話だよ。おまえ決闘するんだろ? ……大丈夫か?」


 ちょうどシーアとリーベが席を外したタイミングを見計らっていたのだろう。ロウがそう問いかけてきた。


「まあ、どうにかなるんじゃないか?」

「相手はあのリーベ様だぜ!? 殺されちまうぞ……」


 ロウがそういうと、ケイスもうんうんとうなずいている。


「そ、そうだよっ。リーベ様は魔法外装を使えるって聞いたよ!? それに、学園の武闘大会でも優勝しているって……」

「心配すんなって。これはただの学園内での決闘なんだしな。殺されやしないだろ」


 ケイスにそういうが、ロウはそれでも不安そうだ。


「……だ、大丈夫か? リーベ様って結構抜けてるところがあるって聞いたけど」

「めっちゃ心配になってきたな」


 万が一俺が歯が立たなかったら、うっかり殺されかねないんじゃないだろうか。


「まあ、決闘はおいておいて。おまえらは授業についていけそうか?」

「……なんとかって感じだな。入学前に教科書さんざん読み込んでたおかげで、ぎりぎりな」

「うん、僕もかな……」


 教科書? ああ、そういやシーアが「別に必要ないわ、重いだけだもの」とかいって屋敷に置きっぱなしだな。

 授業は聞いていればいい、とか。


 ……シーアは昔から賢いからそのくらいでいいのかもしれないが、俺も同じようにはいかねぇぞ。

 暗記は身体強化で無理やりできるというのはわかったが、理解するような頭の柔らかさは持っていない。


「家帰ったら勉強しねぇとだな」

「……そ、それよりさ。ききそびれちまったが……おまえ、シーア様の騎士、なんだよな?」

「ああ」

「す、凄いよね……シーア様ってまったく騎士を選ばないって。今までに一人しか騎士になれた人っていないんだよね?」


 それも俺なんだけどな。貴族の連中なら調べがついているかもしれないが、彼らはそこまでは知らないようだ。


「まあ、たまたま知り合ってな。それから、今に至るってわけだ」

「……そうなのか。けど、魔法は……その、もってないんだろ?」

「どうやって……戦うの? 騎士にもなれるほどなんだし、それなりに強いんだよね?」

「身体強化ってあるだろ? 俺はそれがどうやら人よりも異常に使いこなせてるみたいなんだよ」

「へぇ……そうなのか。けど、聞いてるだけじゃあよくわかんねぇな……決闘、とりあえず怪我しないように気をつけろよな」


 見ればシーアとリーベが教室の入り口にいた。

 ……なるほど。彼らはあまりあの二人とは話がしたくないということか。

 俺としてはリーベあたりは引き取ってもらいたいんだがな。


「なにあんた……もう友達ができた、の……?」


 シーアが信じらないものでも見るような目を向けてくる。

 そんな、俺と再会したとき以上に驚くなよ。


「あ、ありえませんわ……」


 リーベも同じように驚愕している。……おまえら。


「普通に、入学式のときにこれから頑張ろうね、みたいに声をかけたら知り合いくらいは誰でもできるだろ」

「声をかける……ですって。そんな面倒なことしたくないわ」

「向こうが声をかけるのが当然ではありませんこと……?」


 シーアは面倒くさがりなんで友達ができない。相手に話を合わせるという行為が嫌いだからな。

 リーベは上から目線が過ぎるからなんだな。


 原因がわかったところでどうしようもないんだが。

 そんなことを考えていると、


「シーア様、お久しぶりですね」


 そんなさわやかな声とともにイケの野郎がやってきた。

 俺と話したときの面影なんてどこにもない。外向けの、貴族に取り入るときの表情だ。

 シーアの表情が露骨に嫌そうにゆがんだ。リーベが俺のほうを見てきた。


「誰ですの?」

「イケ・キルニスっていうまあ、貴族で……いちおう、元俺の弟でもある」

「元?」


 俺が簡単に彼女に説明する。リーベは納得したようにうなずいているが、たぶん半分くらいしか理解していないだろう。まあ、彼女に理解してもらう必要もないだろう。


「何かしら?」

「……シーア様に一つ確認したいのですが」

「どうせ、くだらないことでしょう?」

「どうしてその落ちこぼれを再び騎士に選んだのですか? てっきり、戻ってきたということは魔法を持っているのだと思っていましたが、彼は魔法をいまだ持っていないんですよね?」


 周りに聞こえるように、彼が言った。周囲の貴族たちがやっぱり……という目でこちらをみてくる。

 バカにしたような声がいくつもあがり、イケは楽しそうに顔をゆがめている。


「けど、あなたよりは強いわよ」


 その言葉は、イケにとってもっとも侮辱的な一言だったようだ。彼の顔が嫌悪でゆがんだ。


「そんなことがあるわけないでしょう。知っていますか、僕は今回の新入生で一位の成績でした。そちらの無能者は?」

「何位かしらアーク」

「215位だ」

「一番上と下ね。ある意味同格ね」


 いや格下だろ。シーアはそれから髪をかきあげ、リーベを見る。


「まあ、なんでもいいわよ。実力なんてのは、リーベとの決闘で全部わかるのだから。それを見てから、意見はいいなさい」


 その言葉は周囲に向けてのものでもあったようだ。

 シーアの威圧的な言葉に、イケは俺をにらみながら席へと戻っていった。

 相変わらず、俺のことが嫌いなようだ。


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