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誰でも使える身体強化を鍛え続けたら、滅茶苦茶強くなってました ~人類最強の無能者~  作者: 木嶋隆太


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第十九話


 リーベとの口論のあと、俺たちは店を出ていった。

 今は屋敷へと向かって歩いている途中だ。


「さっきの話なんだけど」


 シーアが俺の手をついついと引っ張ってきた。……そういえば、まだ手をつないでいた。

 一度それを外してから、彼女のほうを見る。夕陽の中で、彼女はどこか元気のない顔をしていた。


「別に話したくないなら話さなくてもいいぞ」

「……いえ、どうせいずれわかることだし。学園内では三か月に一度、武闘大会が開かれるのだけど、知っているかしら?」

「そういえば、パンフレットにそんなことが書かれていたような」

「あたしは、それに一度も参加していないのよ。大会に参加することで、今の自分の旅人としての立ち位置がわかるのだけどね」

「そうか。それじゃあ、おまえの実力はわからないってわけか」

「わかるわよ。あたしは、学園で最下位。あたしが持っている魔法は治癒魔法一つだけで、攻撃には一切使えないの。だから、あなたとたいして変わらないのよね」

「めちゃくちゃ変わるだろ。俺は魔法が一切使えないけど、シーアの治癒魔法は補助としては十分すぎるだろ」

「けど、学園での評価としては最悪よ。旅人なのに、他世界に行けるだけの戦闘能力がないんだから」


 他世界にいき、そこにある問題を解決し、その世界の物語を終わらせる。それによって、旅人たちは余ったページを回収できる。

 シーアはそれができない。問題解決には、多くの場合戦闘が関わってくるそうだ。


「この旅人たちがもっとも評価される世界で、あたしは一切戦う能力を持っていないの。そりゃあ、価値のない女、なんていわれるわよ。ごめんなさいね、今までまったくこのことについて話していなかったわ。なんかだましているみたいで、悪かったわね」


 シーアは腕を組んでいた。自分の体を抱きしめるように、ぎゅっとその手に力がこもっている。

 ……少しだけ、彼女の表情が暗かった。いつもの不敵に笑う綺麗なシーアはそこにはいない。


 何が、価値のない女だ。

 俺は拳に力をこめてから、シーアの手をつかんだ。


「おまえは俺を助けてくれただろ。……誰かを助けられる奴が価値のない人間なわけがないだろ。言ったやつをぶっ飛ばしてやろうか、誰だ。リーベか?」

「アーク……こんなことで怒るなんて、珍しいわね」


 別に、珍しくもなんともないだろう。

 たぶん、これからもシーアが馬鹿にされれば、俺は怒るだろう。


「まあ、とにかくだ。俺が最強になればいいんだろ?」

「……どういう話の流れよ」

「俺が最強の騎士になって、おまえと一緒に旅人の仕事をこなす。俺がけがをしたら、おまえが治す。あいにく、俺のような戦い方をしてたら、怪我なくってのは難しそうだしな」


 肉体の限界を超えた力で戦えば、体に負担がかかる。

 シーアのような治癒魔法が控えているなら心置きなく限界を超えられる。


「最強の騎士、ね。……そのときは別の人と組みたくなるんじゃないの?」

「それはねぇな。おまえだから、俺は騎士になろうと思ったんだ。おまえがいないなら、俺は旅人だってやめてやるっての」


 ……ちょっと恥ずかしかったが、もうこの場の空気に任せていってしまった。

 

「……馬鹿じゃないのアーク。まだ、自分の力がどれくらいかってのも把握してないでしょうが」

「だから、まずはリーベだ。あいつと戦って、今の自分の立場を理解する。そっから、足りない部分を鍛えなおしていくわけだ」

「そうね。……ありがとう、アーク」


 シーアが笑いながらそういった。彼女のその笑顔があまりにも可愛くて、俺は胸が痛くなった。

 たぶん、顔が赤くなっていたかもしれない。それを指摘されたくなくて、俺は慌てて口を開いた。


「おまえが素直に感謝してくるなんて、明日は雨でも降るかもな。ちょうどそこに傘売ってるし、買っていってもいいか?」

「ええ、いいわね。ただ、ちょっと傘だと威力が足りないわね。棍棒が近くの店に置いてあったはずよ」

「あの、人を殴ろうとするのはやめてくれませんかね」

「人の厚意を馬鹿にしたからよ」

 

 べーとシーアが子どもっぽく舌をだした。それがめちゃくちゃ可愛かったのだが、そんな彼女のを顔を見ていて気付いた。

 ほのかにシーアの顔が赤くみえた。……感謝を口にして、よっぽど恥ずかしかったのだろう

 夕陽、か。俺の頬の紅潮もばれていないはずだっ。ありがとう景色。


「さっき、あんたはどんなあたしでも騎士になるって言っていたわよね」

「……『どんな』までは言ってないぞ」

「言ったわ。言ってなくても言ったことにしてやったわ」

「横暴すぎねぇか……」

「とにかく。あたしからも言わせてもらうわね。あたしは、今のあんたにたいした力がない無能者のままだったとしても、あたしはあんたを騎士にしていたわ。あんたが嫌がらない限りはね」


 褒めてるの? 貶したいの? どっちなんだ。


「……そ、そうか」

「ええ、これで対等ね。まるであんたにかばわれたみたいで癪だったから。それ以外の理由はないから、勘違いしないことね」


 勘違いするような話があったか? とにかく、俺が考えているよりも、俺のことを気にいってくれていたってことくらいしかわからないしな。


 そうなると、今の俺は昔と違って彼女のことを好きになってしまっているので、ある意味で裏切りではある。


 せめて、彼女を傷つけないようにこの気持ちは隠し通さないといけない。

 俺たちはしばらく見つめあう。シーアが眉をへの字に曲げる。


「あんた、いつまで人の手をつかんでいるのよ」

「え? あっ、そういやつかんでたな。わ、悪かった!」

「まっ、いいわよ。このまま帰りましょうか」


 手を放そうとした瞬間、彼女が俺の手首をつかんできた。わしっと、クマが魚を捕まえるような鋭い動きで。


「し、シーア……?」

「散歩に連れていくのに、手綱を握らないというのも飼い主としては問題でしょう?」

「人をペット扱いするのはやめてくれませんかね」

「ペット扱いは嫌かしら?」

「ああ、最悪だ」


 いえ、全然。隣にいられれば幸せです。

 そうして無理やりに手を握りなおし、俺たちは並んで屋敷に帰った。


 ……やらなければならないことがいくつかできたな。


 



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