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誰でも使える身体強化を鍛え続けたら、滅茶苦茶強くなってました ~人類最強の無能者~  作者: 木嶋隆太


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第十七話


「合格おめでとう、アーク」


 ぱちぱちとシーアが拍手とともにそういってくれた。

 ……俺の手元には、合格通知書が置かれている。


 試験が終わった後に合格の旨は伝えられていたが、改めて形となって渡されてようやく安心できた。


 よかった……これで、騎士をつづけられる。

 色々あったが無事合格できた。……しかし、最低評価なんだよな。


「なんで俺はE評価なんだ?」

「一応別日の受験者はみんなそういう扱いになるそうよ。あたしも気になって調べたのよね。……まったく、全部あの馬鹿が原因なのに」


 いかん。この話題を掘り下げると、またシーアが爆発してスパイトを探しに行くかもしれない。

 俺としてもむかつくが、シーアが怒っている分冷静になれた。


「まあ、色々妨害されてもそれを退けられるくらいの力があるってわかったんだし、いいんじゃないか?」

「そうね。まあ、それに関してはあたしの日ごろの行いが良いのもあるわね」

「日ごろの行いが悪いから、苦戦したんじゃないか?」

「そんなわけないじゃない」


 ……あまりシーアに関していい噂を聞かないというのも事実だ。

 屋敷の使用人たちは、シーアと関わるとなると露骨にひきつった顔になる。


 というのも、俺が家を追放されてすぐくらいか。

 シーアが今の比にならないくらい、荒れていたらしい。ストレスの矛先は父や使用人に向けられるようになり、それによって無茶なことを言われた人もたびたびいたそうだ。


 俺のことで、それなりにショックを受けていたことはうれしいが、彼女の人格形成に大きな害を与えてしまったのは否めない。もともと酷いのでは? と思わないこともないが。


 ……最近はそういうのが減っているそうで、会うたび使用人や騎士から感謝されている。


 俺のおかげで、お嬢様が落ち着いている、ねぇ。

 確かに、彼女からよく無茶な頼みをされるな。ごはん食べさせて、とか、歩くの面倒だから運んで、とか。それらは俺からすれば完全なご褒美なので、気にしたことはなかった。


 とにかく、これからは使用人ともうまくやっていってほしいものだ。

 ……まあ、使用人はいいんだ。問題はスパイト。


「スパイトは本気で俺のこと嫌がっているのか」

「みたいね。使用人が見つけたらしいけど、書斎のごみ箱に、あんたの名前を書きなぐっていたらしいわ」

「うわ、こわっ。つーか、今の俺は力をつけたってわけで納得してくれないもんなのか?」

「それだから、認めたくないのかもしれないわ。血とか、貴族の立場とか、もろもろすべてをひっくり返してしまう可能性あるんだから」


 魔法の力は子に遺伝する。人間が持つ魔力には大きく分けて五つの波長があり、それらの組み合わせが良いもの、悪いもの等がある。


 現在所持している魔法と魔力。それらの中から適した相手と結婚するのが、貴族たちの決まりごとになっていた。

 ……稀に、自由を求めて結婚する人々を軟弱者と罵るくらいには、結婚に自由はない。


 下手をすれば、家から追放されることだってあるとか。駆け落ちとか、そういう切ない恋の物語がいくつかあったな。……シーアもよく読んでいる。憧れとかあるんだろうか?


 俺には血筋を大事にするというのはあまり馴染みがなかった。貴族には、上級、中級、下級と三つにわかれていて、うちは下級貴族だったからな。俺なんてよく平民の子とも遊んでいたし、ほかの貴族にいつもへこへこしていた。


 相手をえり好みなんてできず、相手に選んでもらうしかないのが下級貴族。みんなの使いっぱしりになるのが当然の立場だ。


 つまり、だ。シーアの騎士になんてなれば、まさに俺は出世頭。下手したら家を上級貴族にまで引き上げてくれるかもしれない存在で、そいつが騎士を首にでもなれば、家族たちも手のひらを返すのはまあわからんでもない。けど、子どもを野に放り出すなんて酷いとは思うが。


「それじゃあ、約束通り。何かご褒美でも買いに行きましょうか」

「……ああ、そうだな」


 き、きた。念願のデートだ。シーアはまるでそんな気はないんだろうが、俺からしたら違う。

 今日のために、街のことは色々聞いている。情報収集はすべて使用人や騎士からだ。


 ……ただ、結局シーアが楽しめる場所は分からなかった。

 俺もよくわからん。人をぶん殴れる施設でもあれば楽しむかもしれない。殴る相手の顔にスパイトのお面でもつけたら最高だろう。


「あんたって何か欲しいものはあるの?」

「自由、とかはどうだ」

「なにくたびれた中年みたいなことを言っているのよ。それなりに自由じゃない」


 ……ま、確かにな。一度言ってみたかっただけだ。

 シーアとともに貴族街を歩いていく。車が時々走っている。何度見てもすごいな。シーアの家にもあるそうだが、普段は使わないらしい。俺も一度でいいから乗ってみたいな……ああ、それをご褒美にしてもらうのもよかったか? 


 ただ、やっぱりシーアと二人でお出かけしたかったしな。

 

「何よ。あたしの騎士はいやっていうの」


 先ほどの自由に関しての言葉だろう。


「そんなわけないだろー。楽しくやらせてもらってますよー」


 なるべく、ふざけた調子で。しかし、内心めちゃくちゃ焦っている。

 このまま、自由にしてやるわよ、とか言われて放り出されたらマジで泣く。


 本心を伝えられればそれが一番なんだがな。

 貴族街を歩いていると、様々な国籍の人が見られた。亜人の姿もあるし、俺たちの国では珍しい褐色肌の人もいる。


「みんな、学園の生徒なのか?」

「ええ、そうよ。うちの学園にはいくつもの国から人材が集まっているって話したでしょ」

「ああ」

「それがあれらよ」


 ただ、みんな一緒に行動してるのは同じ国同士のようだ。

 しばらく眺めていると、二つの国のグループがある店の前で足を止めた。


「ここは、俺たち火の国サラマンダーが目をつけてたんだよ」


 と赤髪の男がいい、青髪の女性も対抗するようににらみつける。


「ここはウチら、水の国、ウンディーネが入るって決めてたんだよ。さっさと帰れよ蛇野郎」

「蛇じゃねぇ、竜だ! 水人形!」

「水の姫だっ! ぶっころされてぇのか!」

「ね、面白いでしょ?」


 けらけらとうちのお嬢様が笑っている。いやいや、一触即発の空気を楽しめるほど俺はハッピーな性格じゃない。


「大丈夫なのか?」

「日常茶飯事よあんなの。四大精霊の国同士の喧嘩なんてね。あたしたちも土の国ノームとして、参加する?」

「あんなのに参加なんざしたくねぇよ」

「そうね。あんまり長居してからまれたくないし。それで、どこか行きたい場所はあるの?」

「あー、先に孤児院の場所ってどこかわかるか?」

「孤児院? わかるけど、そこが行きたい場所なの?」

「……ちょっと、自分のやりたいことが一つ見つかったんだ」


 シーアが不思議そうに首をかしげる。

 強くなった今なら……俺は世界を変えられるかもしれない。

 孤児院についた俺は、遠くからそこを眺めていた。


「ここにいる子たちの多くは、魔法がダメだった子なんだよな?」

「ええ。そういうことが多いわね。親に捨てられている子が多いわ。あなたはどうして孤児院に行かなかったのよ?」

「俺は……諦めてたんだよ。だから、最後くらいは好き勝手生きたかったんだ」

「……そう」


 俺はそこをちらと見てから、歩き出す。


「もういいの?」

「ああ。再確認できた」

「何をよ?」

「俺の夢が一つ決まったんだ」

「夢?」

「……俺はこれから有名になって、世界を変える。魔法がなくても、身体強化で強くなれる人がいるってなれば、子どもが捨てられたり……間引かれたりすることもなくなるだろ?」


 シーアは俺の言葉に、複雑そうな表情を浮かべた。


「それは、いいことかもしれないわ。けど、魔法使いが身体強化まで使いこなせるようになったら、あなたの立場がなくなっちゃうわよ?」

「その時には、俺だってもう老人だろ? それで、少しでも幸せになれる子が増えるなら、いくらでも教えてやるよ」

「……そうね」


 シーアは少しだけ申し訳なさそうな顔を作った。その表情の意味はわからなかった。

 それから俺たちは店を見て回っていく。

 

 昼の時間になったところで、昼食をとるため店に入る。

 客はあまりいないが、人気が出ない理由がわからないくらいうまかった。シーアもまあまあと言っているし、俺の舌がバカというわけでもなさそうだ。


「それで、何か欲しい物はあったのかしら?」

 

 そういえば、俺のほしいものを探しにきてたんだな。

 スプーンでパフェをつついている彼女を眺めているだけで幸せすぎて忘れていたぜ。

 

「ほしいもんねぇ。今は特に思いつかないな」


 そこで、俺は一つ、天才的な発想をしてしまった。そのまま、それを口に出した。


「また今度、一緒に探しにきてくれないか」

「あたしも暇じゃないんだけど?」

「そうなのか? 休日は、いつも家にいることが多いって使用人たちから聞いたんだけど」

「名前を言いなさい。そいつらをクビにしてやるわ」

「黙秘させてもらう。それで、次はあるのか?」

「……そうね。ま、まあ、いいわ。あなたが納得するまで、一緒に来てあげるわよ」


 そ、それはつまり納得できなければ一生一緒にいてくれるってことか!? まあさすがにそれは曲解すぎるぜ、俺。気持ち悪いぞ。


 ……けど、あと二回くらいはいけるか? よしよし。

 テーブルの下でばれないようにガッツポーズを作っていると、シーアが眉根を寄せた。

 まずい、気づかれたか。


「おや、これはこれは。ノーム最弱の落ちこぼれではありませんの」


 にやにや、とこちらを馬鹿にするように笑いながら、一人の女性が入ってきた。

 学園指定の制服は、彼女のアレンジが多く含まれていて、滅茶苦茶派手な衣装。

 その左胸には、サラマンダー国を示すバッジがついていた。

 シーアの表情が露骨にしかめられていった。


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