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誰でも使える身体強化を鍛え続けたら、滅茶苦茶強くなってました ~人類最強の無能者~  作者: 木嶋隆太


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第十六話


 次の日。試験会場に来た俺は、大きな教室で、一人寂しく試験を受けていた。

 近くの席に試験官であるロクロが座っていた。

 俺は彼と軽く話をしながら試験問題に答えていく。


「ああ、なるほどね。それで今日特例で試験を受けているんだな」

「ええ、まあ」


 話しているのは昨日遅刻した理由だ。

 ロクロも俺を見張るだけでいいのだから、気楽なものだ。邪魔をしない程度に話をしていた。


「もうこの科目はいいのか?」

「ええ、次にいかせてください」


 そんなこんなで、試験は予定よりもだいぶ早く終わった。

 俺が一つの科目をやっている間に採点もされていく。本来であれば、後日発表とされるのだが、筆記の結果がすぐにわかるのはよかった。


「……凄い、な。この科目も満点だ」


 驚いたようにロクロが俺の解答用紙を見せてくる。

 努力した甲斐があったな。


「まあ、過去問を何度も解きましたから」

「さすが、シーアに認められるだけの人だな」


 学園内では、上下関係はないことになっている。

 そのため、教師たちは生徒に敬称をつけることはない。

 ……生徒同士だと、やはり派閥とかいろいろあるらしいが。


「そういえば、学園でのシーアってどんな感じなんですか? あんまり知らないんですけど」

「学園でのシーア? そうだねぇ……誰とも関わらない子だね」

「ぼっちなんですか? 友達いないんですか?」

 

 ダメな子のようだ。


「というよりも、本人が嫌がっているみたいだ。だから、キミがシーアの騎士と聞いて少し驚いているくらいだな」

「へぇ、家でのシーアはそりゃあもうよく話しますけどね」

「だとすれば、それはキミにしか見せていないんだろうな。たぶん、どの先生に聞いても同じように答えるぞ」

「……そうですか」


 それが良いことなのかどうかはわからない。

 少なくとも、友達はいたほうがいいんじゃないだろうか。

 俺は家族があんなだったから、とにかく外との関わりを増やすようにしていた。

 

 パシリのような扱いだって気にせずに、色々な方法で交流関係を広げていた。

 結局それらが生かされることはなかったが、家にいるときよりは楽しかった。


「これで最後です。ありがとうございました」


 明るい調子で、ロクロに解答用紙を渡す。

 俺は昼食として用意された弁当を食べていると、ぴらっと彼が解答用紙を見せてきた。

 その顔は驚愕に染まっている。


「……満点だよ。今のところ、筆記試験ではトップだよ。まさか、あの天才を超える子がいたとはね」

「天才?」

「……ああ。イケという子でね。下級貴族の生まれなんだけど、筆記、実技ともにトップクラスなんだ」


 ……また聞き覚えのある名前だな。


「どうっすかね。俺に派手な魔法はないんで実技はどうなるかわかりませんよ」

「けど、昨日は話題の強盗を捕らえたみたいじゃないか?」

「話題の強盗?」

「そうだよ。なんだ、知らなかったのか? 昨日キミが捕まえた強盗は、特殊な魔法を持っていてね。人の陰に姿を隠せるらしいんだ」

「そんな魔法使うそぶりも――」


 ああ、なるほど。本当は使おうとしたが、使う前に俺が気絶させちまったんだな。

 そりゃあ悪いことをした。というか逆か。

 使われる前でよかったんだな。


 昼食のあと、実技試験会場に移動する。

 実技試験会場にはもう一人、試験官がいた。


「今回の試験は、彼と戦ってもらう予定だ」

「……おっす。アーク、だったか? また不吉な名前してんな」


 にやり、と試験官が笑う。不吉な名前というのに首を傾げたくなった。


「それじゃあ、まずは魔法の検査を行おうか」


 ……問題があったのは、これ。

 今回俺は一人で試験を受けるため、ばっくれることができなかった。

 トイレに行きたいといっても、いつまでも待ってくれるだろう。


 俺の前には忌々しい鏡がある。またあのときのように大きな声で宣言されたくなかったので、俺は首を振った。


「俺、魔法持ってないんですよ」

「……魔法を持っていない? 魔法を持たない、アーク……ま、まさか……教科書で見たことある――無能者のアーク!?」

「載ってるんですか」


 初耳なんだが。ブチ切れてもいいだろうか。


「あ、ああ……その世界で初めて魔法を持たない子が現れたということで、ね」

「……なるほど。けど、俺はピニア様を助けたように、戦闘能力はあります」

「か、はは! なるほどな! ピニア様からの指名だったからなんだと思ったら、あれか、裏口入学させてくれって話だったのか!」

「お、おいリグル! 今の発言を誰かに聞かれたらまずいだろ!」


 ロクロが、慌てた様子でリグルの肩をつかんだ。

 リグルはそれを払い落とし、俺のほうに近づいてきた。


「帰りな、無能者。悪いが、学園内でのノーム国の評価はあんまり高くねぇんだよ。どっかのお嬢様が原因でな。これ以上、お遊びで入学者を入れるわけにはいけないんだよ」

「……どっかのお嬢様?」

「戦闘能力皆無のシーアお嬢様だよ。よく知ってんだろ?」

「ああ、知ってるよ」

「無能者同士で仲良くやっている分には構わないがな、この国の評価に傷つけさせたくねぇんだよ。だから、さっさと帰りな。おまえなんかのために休日にわざわざ出てきたなんて思ったらイラついてきたぜ」


 しっしっとリグルが追い払うように片手を振る。

 ……俺のことはいくらでも言ってくれて構わないがな。


「試験の内容は?」


 俺はロクロに問う。ロクロは戸惑った様子で口を動かす。


「リグルと戦って、力を認められたら合格、だ」

「認められたら? 倒したらじゃないのか?」

「はっ、ガキ共にやられるかよ。こっちは、元平民のたたき上げなんだよ。旅人としてのランクはAランクにまで到達している。何度か魔族だって撃退してんだよ」

「そうか、そんじゃあんたを倒したら文句なしで、合格でいいよな?」


 俺の言葉にリグルが眉間を寄せた。

 ロクロが間に入る。


「二人とも落ち着け。リグル、言いすぎだぞ」

「邪魔だよロクロ。そいつが試験してほしがってんだぜ?」


 リグルはロクロの肩を掴み、押し飛ばした。

 そうして、俺と向かい合う。身長はほぼ同じくらいだ。彼の顔にはいくつかの傷がある。

 それを見ていると、リグルが口元を歪め、顔の傷を指さした。


「こいつはな。魔族と戦った時につけられた傷だ。旅人になるってのはこういうことなんだぞ?」

「どういうことだよ?」

「死ぬかもしれないって話だ」

「あんたと違って怪我する予定はねぇよ」

「てめぇ……舐めた口きくじゃねぇか」

「……シーアをバカにしたこと、許さないからな」


 俺がリグルを睨みつける。彼もまた俺を見て、顔を険しくする。


「あ、アーク! 相手は元とはいえ一線で活躍していた旅人なんだぞ!? 本当にやるつもりか!?」

「はい。あー、治癒魔法の用意はしておいてください。すぐに必要になると思いますから」

「なんだ弱気じゃねぇか」

「あんたのためを思って言っているんだよ」


 俺の挑発が、ようやく効いたようだ。リグルが青筋を浮かべながら、息を何度か吐く。


「……リグル、怪我させるなよ」

「はっ、どうだろうな」

「……アークも。無茶はするなよ」

「わかってます」


 ロクロが俺たちから離れ、そして――。


「それでは、試験を開始する!」


 ロクロの叫びにあわせ、リグルが動く。

 一瞬で俺まで距離をつめると同時、彼の拳に風がまとわれた。


「死――!」


 何か言おうとしたのだろう。しかし、そんなもの聞くつもりはない。

 俺は一応加減した80%の拳を、彼のみぞおちに叩き込んだ。彼は腹を押さえながら、その場でうずくまる。


「ぐ、あああ!? な、なにしやがった!」

「殴っただけだ。まだやるのか?」

「……ふ、ふざけんなよ。油断、しただけだ……。次は全力で――」


 彼がなんとかといった様子で立ち上がり、風魔法を放ってきた。

 遅い。俺はそれを完全に見切り、彼の背後をとる。 

 まったくリグルはこちらに気付いていない。そんな彼の背中を殴る。


「なっ!?」

 

 倒れたリグルはそのまま動けずにいた。よっぽどのダメージがあったらしい。


「もう動けないのか?」

「な、舐めるなよっ!」


 彼が手にまとった風を放ってきた。俺はその一撃を顔面で受けた。

 身体強化は100%。少し痒いくらいか?


「なにかしたか?」

「う、嘘……だろ。き、傷一つないなんて……」

「確か、あんたを認めさせないと試験は合格じゃないんだよな? あと、何発叩き込めば納得してくれるんだ?」


 俺が拳を構えながらいうと、リグルはがたがたと震えた。

 そして、悔しそうに唇を噛んだ。


「み、認める……わ、悪かったよ。馬鹿にして……す、すまなかった!」


 リグルはその場で軽く頭を下げた。

 ロクロを見ると、彼はあんぐりと口を開いていた。


「……強盗を倒したのは、伊達じゃないってわけだな。それで、魔法を持っていない、だったな?」

「はい。すべて身体強化だけです」

「そうか。恐ろしいな……。いや、今は……ノーム国に期待できる旅人が一人増えたことを喜ぼうか。おめでとう、アーク。キミは合格だ」


 ……ロクロの言葉に、俺はほっと息を吐く。

 正直、シーアをバカにされてやりすぎてしまった部分はある。もうちょっと自重しないとだな。


 

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