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誰でも使える身体強化を鍛え続けたら、滅茶苦茶強くなってました ~人類最強の無能者~  作者: 木嶋隆太


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第十四話

 試験日の朝。

 いつものように朝食をいただいていると、スパイトがやってきた。


 珍しいな。いつもシーアはスパイトとは別の時間に食事をしている。そのため、一緒の時間になったことがないのだ。


 彼はちらとこちらを見てきて、眉間を寄せた。


「今日が試験日だな」

「応援してくれるんですか、ありがとうございます」

「違うわ! ふん、貴様のような平民の無能者に突破できる試験ではないがな!」


 スパイトはそういってこちらを馬鹿にしたように見てくる。

 シーアはどこか勝ち誇ったような微笑を浮かべている。


「まあ、試験結果を楽しみにしていることね」

「ふ、ふん。どうせ受かるはずなどないからな!」


 スパイトはシーアの余裕げな顔に少しひるんでいた。

 この人は基本こんな感じなんだろう。慣れてきた今、可愛く見えるくらいだぜ。


 朝食を終えたところで、少しお腹の調子が悪かった。

 トイレにいき、用事をすませてから廊下に出ると、シーアがスパイトの首根っこを捕まえていた。何やってるんだ?

 目があったスパイトが素っ頓狂な声をあげる。


「ば、馬鹿な! なぜぴんぴんしている! 私が自分で試したときは、二日はトイレから離れられなかったんだぞ!?」

「やっぱり仕込んでるんじゃない! ぶっ飛ばされたいのバカ親父!?」

「し、しまったっ!」


 一体何がどうなっている?

 俺がシーアを見ると、事情を説明してくれた。


「なんでも、あんたの料理にだけこの禿が毒を仕込んでいたらしいわ。解毒剤がないと一日二日は寝込むような猛毒らしいわ」

「ああ、それで腹の調子が悪かったのか。森での生活をしていると、毒を含んだ飯なんて日常茶飯事だからな。グルドも、毒くらいは免疫つければなんとかなるってのが口癖だったし、あのくらいなら問題ねぇな」

「あんた普通に化け物ね。けど、よかったわ。試験は問題なさそうね」


 スパイトが勝ち誇ったように笑っていたのはそういう理由だったんだな。

 俺と視線がぶつかるとスパイトはふてくされた顔をしていた。シーアがその頭を叩いている。叩きやすそうだな。

 

「アーク、頑張ってきなさい」

 

 シーアの笑顔にうなずき、俺はカバンを持って家を飛び出した。

 だが、すぐに戻ってくることになった。学園に向かう途中のことだった。


 受験票がカバンに入っていなかったのだ。というか、よく見ればこれは俺のカバンじゃない。

 シーアが使っていたカバンをもらったのだが、そのカバンは傷などすべてまったく同じように作られているが、一つだけ違った。


 シーアの匂いがしないのだ。急いで戻る。

 俺が戻ると、シーアが驚いたようにこちらを見てきた。


「あんたまだ行ってなかったの!?」

「いや、受験票がないんだ。ついでにいえば、このカバンは偽物だ」


 俺がそういって彼女にカバンを向ける。


「偽物……? どういうことかしら?」

「いくつか、おまえからもらったものとは違う部分があったんだ。誰かが、すり替えたのかもしれない」


 だとしても、中身をきちんと確認しなかった俺の原因でもある。

 シーアがはっとした様子で顔をあげ、俺の手を掴んだ。柔らかい、ぷにぷにだ。その感触も今は喜んでいる暇がない。


 シーアとともに向かったのは書斎だ。

 顔に紅葉のような跡がついたスパイトがびくっと肩を跳ね上げた。

 その手には、俺のカバンが握られていた。


「な、なぜここに!?」

「くそ親父、なんでそれを持っているのかしら?」


 ばっと彼はそれを背中に隠した。シーアが近づいて睨むと、カバンが俺のほうに飛んできた。


「た、たまたま拾ったんだ! 貴様に渡してやろうと思ってな! 感謝するがいい!」

「あらそう。本当はどうなのかしら?」

「そんなもの、貴様が試験を受けられないように隠したに決まっているだろう! はっはっはっ! あと5分で試験開始だ! ここから学園までは、走っても20分はかかる! どうしたって間に合わないぞ!」


 べーっと舌を出してきた当主をぶん殴りたかったが、シーアが代わりに殴ってくれた。殴るどころの騒ぎじゃない。さすがにシーアを止める。


 確かに、時間はもうない。学園の場所はわかっているので、俺は急いで窓へと向かう。

 シーアが真剣な顔で顎に手をあてている。


「ごめんなさい。油断していたわ。まさか、カバンをすり替えるなんて……」

「それは俺も同じだ。気にすんな」


 あまりにも古典的すぎる妨害に、完全に気を抜いていた。

 今度は受験票があることを確認してから、カバンを担ぎ上げる。


「アーク、大丈夫かしら?」

「……間に合わせるっての。屋根を移動しても、誰にも文句は言われないよな?」

「ええ、大丈夫よ。言われたらスパイトのせいにしておいて」

「了解!」


 俺は窓から外へと飛び出し、壁を蹴りつける。近くの家の屋根へと飛び移り、学園目指してまっすぐに駆けだす。

 これなら何とか間に合いそうだ。そう思ったときだった。眼下で一人の老婆が男性に殴られるのを見つけてしまった。


 そいつは、強盗……だろうか。老婆が持っていた荷物を掴み、駆け出して行った。

 ……一瞬迷う。このまま学園にいけば、確実に間に合う。だが、老婆を助けた後では、難しいだろう。


 ……くそっ!

 俺は方向を変える。

 ……すまんシーア。俺は今にも泣きたい気持ちとともに、屋根を蹴りつけ、男へと肉薄する。


 男の眼前に着地して、睨みつける。強盗は怯んだ様子でこちらを睨んでくる。


「て、てめぇそこをどきやがれ!」


 彼は老婆から奪い取ったカバンを抱えるようにして、こちらを睨んでくる。

 時間をかけるつもりはない。舗装された道を蹴りつけ、彼の懐へと入る。


 見開いた強盗の目とぶつかる。

 俺は彼の背後をとり、蹴りを放つ。


「ぶべぇ!?」

「おらぁ!」


 試験に遅刻した恨みだ! くそったれが!

 さすがに殺すのはまずいので、一応は加減しつつ……その限界の中で、全力の拳をぶちこんだ。

 強盗が壁にたたきつけられ、そのまま意識を失った。


 俺は荷物を回収し、老婆のほうへと向かう。


「次は盗まれないようにな」

「あ、ありがとね、お兄さん」

「俺滅茶苦茶急いでいるんだ! そっちの人、騎士に連絡しておいてくれ! そんじゃあ! 何かあったら、リーシェル家に言ってくれ!」

「あ、待――」


 俺は老婆の静止を無視して、すぐにアスファルトを蹴りつけた。

 まっすぐに学園へと向かう。その門は固く閉ざされている。

 ……まにあわなかった、か。入り口を守っていた騎士に声をかける。


「あの、試験を受けにきたんですけど……」

「試験だと? 遅刻するような奴に受ける権利はないぞ」

「……まじかっ」


 あそこで、老婆を見捨てればよかったのだろうか。

 ……いや、それはそれで自分が許せねぇな。


 なら、誰が悪いのか。あの当主だ。

 シーアの騎士じゃなくなるのなら……思いっきりぶん殴っても構わないよな? 

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