手当て
「戻った時は驚いたよ。死体が転がっていたんだから。」
アルド・コンティーニ
ブラッカーズのメンバー
浴室を出た2人は脱衣所にいた。クリスは男の傷を手当てし終え、問題ないか確認をした。
「うん、これでよし!傷はそれほど深くなかったから、すぐに治るだろう。」
無事に手当てを終え、満足したクリス。すると男が低い声で言った。
「…なぜ助けた?」
「ん?医者としてほっとけなかったから。それと、個人的に興味を持ったのさ。アンタにな。」
「俺に?」
「ああ。アンタ、『白刃』だろ?」
「!?なぜ分かった?」
図星だったのか、男はクリスを睨んだ。
「俺も裏の世界の住人とよく仕事をする。アンタの噂は色々聞いているし、何度か見たこともある。まぁ、こうして会うのは初めてだが。」
「…俺に興味を持った理由は?」
「そりゃ、有名人であるアンタと会えるなんて思わなかったからな。しかも知り合いがやっている浴場で。更に傷を負って。」
「…。」
「どうしたんだ、一体?何があった?」
「…アンタには関係な…。」
白刃が言いかけた時、突然扉が開き、3人の男が入ってきた。男達はそれぞれ紺、緑、灰色のスーツを着ており、全員サングラスをかけていた。
「白刃だな?」
灰色のスーツ男が言った。
(コイツら…!)
「だったらどうする?」
冷静な対応をするも、内心は焦っていた。彼らが何者なのかを知っていたからだ。灰色のスーツ男はニヤリと笑い、懐から銃を取り出した。
「悪いが貴様には…!」
ドンドンドン!
男が言い終わる前にクリスが引き金を引き3発撃った。1発は銃を持つ手に、残り2発は後ろにいた紺と緑のスーツ男に当たった。
「ぐあっ!」「ぎゃっ!」「うわっ!」
3人の男達は声をあげ、その場に倒れた。灰色のスーツ男が反撃しようと銃を取ったが…。
ドンドンドン!
3人一緒にクリスに撃たれ、あえなく倒れてしまった。あっという間の出来事に、白刃は唖然とした。
「おまえ、何でいきなり…。」
「俺にとって治療する場所は聖域だ。その聖域に銃を持ち込む不届き者は撃ち殺す。それだけのことだ。」
「そ、そうか…。」
クリスの豹変ぶりに、白刃は内心恐怖した。彼の裏の顔を、一瞬だけ垣間見たような気がした。
「さてと、とりあえず受付に向かおう。まだ敵がいるかもしれないしな。」
「受け付け…そうだ、あの子は大丈夫なのか?」
「有栖のことか?あの子なら大丈夫だ。アルドがついている。問題ないだろう。」
「…俺が入ってきた時には1人だったぞ。」
「なに!?だとしたらマズい。急がなければ!」
そう言うと、クリスは慌てて脱衣所を出た。白刃も少し遅れて脱衣所を後にした。
・
・
・
(どうしよう…。)
有栖は心の中で思った。目の前には紫のスーツを着た男がこちらに銃を向けている。外には茶と黒のスーツを着た男2人が立っている。白刃が来てから30分後、突然6人の男達がやってきた。3人は受付と入り口に残り、残る3人は奥への方へ土足で上がった。慌てて止めようとした有栖だったが紫のスーツ男に…。
「騒ぐな、さもなくば殺す。」
と、銃を突きつけられ、ただ黙るしかなかった。
(クリスさん達、大丈夫かな…。)
奥に行った3人の男達を止めようとした時に銃がちらっと見えた。クリスは大丈夫だろう。問題はあのお客である。受付の時に脇腹を押さえ、辛そうにしていた。クリスさんが手当てをしてくれただろうか、有栖は心配した。
「おい。」
「は、はい!」
突然、目の前の男が口を開けた。その声には苛立ちが見てとれた。
「あの男はどこだ?」
「あの男、とは?」
「白髪に細身の男だ。どこにいる?」
「こ、ここにはいません。」
「嘘をつくな!ここに入ったのは分かっている。言え!さもなくばもう片方の目も潰すぞ!」
普通なら正直に言って自分の身を守るべきである。しかし有栖はそうしなかった。彼女が白刃を見た時、誰かに追われていること、そして彼が悪い人間ではないことを感じた。そして6人の男達を見た時、ドス黒く、信用出来ない人間であることをを感じた。なぜそう感じたのか、それは分からない。ただ分かっているのは、目の前にいる男達を信用してはいけない、ということだった。
「どうやら、死にたいみてぇだな!」
紫のスーツ男が引き金に手をかけ、発砲しようとしたその時。
「あばよ。」
ザシュ!
「うっ!て、てめぇ…。」
突然、背後から何者かがナイフで刺し、男は力なく倒れた。同時に2発の銃声が鳴り、入り口にいた茶と黒のスーツ男2人が倒れた。
「あ、貴方は…!」
「巻き込んですまない…。」
有栖を助けたのは白刃。入り口にいた男2人を撃ったのはクリスだった。クリスは他に敵がいないことを確認すると、有栖に近づいた。
「有栖、大丈夫か?!」
「は、はい。大丈夫です。」
「どこも怪我はないか?」
「はい。」
「そうか…良かった。」
安堵するクリス。その時、扉が音を立てて開き…。
「おい、何だこりゃ!?」
アルドが帰ってきた。
「クリス!一体何が起きたんだ?!」
「戻ってきたか、アルド。お前のいない間に一悶着あってな。とりあえず、片付けよう。それから…。」
クリスは振り返って、白刃の方を見た。
「色々と聞こう。勝手に帰るなよ?」
「ああ…巻き込んだんだ。ちゃんと説明する…。」
白刃はそう言い、クリス達と一緒に後始末を手伝った。