表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/34

夜の学校

昼間は学生達で賑わう校舎も、夜になると静まり返っている。有栖達は開いていた窓から入り、1階の廊下を歩いていた。


「…。」


「気になるかい?」


「ええ…。」


ただの閉め忘れ、有栖はそう思えなかった。まるで来ることが分かっていたかの様に感じたのだ。それは圓龍も同じだった。


「何かあること前提で来ているんだ。大丈夫、油断しなければいいだけさ。」


「そうですね。」


圓龍の言葉で、有栖はひとまず忘れることにした。今はもっと大事なことがある。


「圓龍さん。あまり使われていない教室ってありますか?」


「そうだな。この廊下をまっすぐ行って右に曲がったところにあるD室かな。元々は教室だったんだけど、日当たりが悪いからなくなってね。今は物置きになっているよ。」


「物置き…。」


「もう使わない物とかが置いてあるだけだから誰も管理していないんだ。鍵は職員室にあるけど自由に借りれる。教室として使われなくなってから窓も撤去されてね。外からは見えないんだ。隠す場所には最適だね。」


「D室の隣は?」


「いや、D室は隅にある教室だから隣には何もないね。だから周囲の教室はそのままだよ。」


「そうですか。」


圓龍の話を聞くに、D室は条件をそろえている。隅にあるから分かりにくく、物置きになっているから隠しやすい。葉棒の密造にはいいかもしれない。しかし…。


「表にある…。」


「…そうだね。密造は誰にも見られない場所で行うはずだから。ここはちょっと目立つね。」


「他に使われていない場所は・・・。」


有栖が言いかけたその時だった。


「隠れて!!」


「!?」


圓龍が有栖の肩を掴み、壁の方に寄せた。圓龍は有栖の前に立ち、彼女を覆うような体勢になった。いわゆる「壁ドン」である。


「誰かいる。」


「えっ?」


「人影がD室に向かっているのが見えた。何か持っている。武器かもしれない。」


「!!」


「どうする?」


有栖は考えた。今回は武器を持っていない。ルークからも深追いはするなと言われている。しかし…。


「行きましょう。証拠だけでも掴まないと。」


戦うことはできなくても、誰が何をしているのか知ることはできる。今は少しでも情報がほしい。


「分かった。気をつけて行こう。」


「ええ。」


有栖と圓龍はD室に向かった。扉の前に着くと、圓龍がそっと開けて先に入り、続いて有栖も入る。圓龍は持ってきたランプに火を付け、先頭に立って進み始める。


「結構広いのですね。」


「物置に使われるくらいだからね。元々は実習室だったから。」


そう言うと、圓龍はランプで前方を照らす。よく見るとガスコンロや流し場などが設置されていた。調理や実験などに使われていたのだろう。試しに蛇口を捻ると、水が出てきた。


「まだ通っているのですね。」


「本当だね。よく見ると使われた形跡がある。」


水が出た流し場は、他のものより綺麗にされていた。使ったことを知られないように証拠を消そうとしたのだろう。逆にそれが、今も使われている証拠になってしまったが。


「やっぱり誰かいる。」


「そうですね。」


2人は教室の奥に進んだ。すると再び、扉が現れた。


「この部屋は?」


「ここは準備室だ。実習で使う物が置かれていたんだ。使われなくなってから、中に置かれていた物は処分したはず。」


そう言うと、圓龍は扉の前に耳を傾ける。中から誰かの話し声が聞こえた。それも1人ではない。


「準備はいい?」


「私はいつでも。」


「よし、私が先に入るから、有栖さんはその後に続いて。」


「分かりました。」


「よし…行くよ!」


一呼吸置いて、圓龍はドアノブに手をかけ、勢いよく開けた。そして部屋に入り、侵入者からの反撃に備えてすぐに防御の構えを取る。しかし、何もなかった。


「どうしました?」


続いて入った有栖が、圓龍の後ろからひょこっと顔を覗くと、目の前に広がっていたのは、予想外の光景だった。


「…何これ?」


まず目についたのは、部屋の壁中に貼られた圓龍の写真だった。学園の広報紙から切り抜いたものでわざわざ額縁に入れてあったり、拡大してパネルに貼られてたりするものもある。撮られた本人は、苦笑いするしかなかった。


「あれ、これは…。」


有栖が次に目についたのは、床に散らばった写真だった。一枚を拾って見ると、こちらの写真はいつ撮ったのか分からない、いわゆる隠し撮りしたものだった。友人と談笑しているもの、体育で活躍しているもの、更には昼食中や授業中に居眠りしているものなど。監視カメラで撮っているのではないかと思うようなものばかりだった。


「ええと…。」


これには有栖も引いた。そして、これらの写真を撮ったであろう人物達に目を向ける。


「貴女達は…。」


最後に目についたのは、部屋の真ん中にいた3人の生徒達。放課後、有栖に突っかかってきた3人だった。


「どうしてここに?」


「あ、ああ…。」


3人の中でリーダー格の生徒は震えていた。顔は青ざめ、今にも逃げ出しそうに…。


「い、いいっ…いやあーーーー!」


ではなく逃げ出した。大声を上げ、入口に立つ圓龍と有栖を押しのけて。


「えっと…。」


「放っておいていいよ。学園内だから迷うことはないはず。それよりも…。」


圓龍は残された取り巻き2人に目を向ける。2人はバツが悪そうに顔を見合わせ、俯くのだった。

有栖と圓龍は、部屋の中央に2人を正座させた。その光景は悪いことをした子供を叱る先生のようだ。


「何をやっていたのかはだいたい分かった。おそらく君達は…。」


「はい…。私達はその、圓龍さんファンクラブの会員です。」


「ファンクラブ?」


生徒の1人がそう答えると、事情を知らない有栖は首をかしげた。代わりに圓龍が苦笑いして説明する。


「有栖さんは来たばかりだから、知らないよね。私と明美さん、そして白蘭ちゃんを慕う一部生徒たちがそれぞれ集まって、ファンクラブを作っているんだ。噂だと思っていたけど、まさか本当にあるとはね。」


「白蘭ちゃんも?」


「彼女、可愛いからね。男女問わず人気があるんだ。」


「そ、そうですか。」


このことを兄である白刃が知ればどうなるだろうか。

ひとまず彼には秘密にしておこうと有栖は決めた。


「それにしても、どうしてD室で活動していたの?しかも、真夜中に。」


「そ、それは…。」


生徒の1人、ミリーはしばらく言葉を詰まらせていた。が、観念して全てをうちあけた。


「決して本人の迷惑になってはいけない、私達のようなファンクラブの間にある暗黙のルールです。圓龍様や明美様の生活に影響が出たり、不快にさせたりするのはダメ。だから私達は人目につかない場所で活動しなければいけないのです。D室は使われていない教室で、中は物で溢れています。隠れて活動するのにちょうどよかったのです。」


「確かにそうだけど…。」


圓龍は部屋全体を見回した。全ての壁に飾られている自分の写真と、整理された空間。更には水が出る流し場にコンロも設置されている。


「これだけ準備されていたら、流石に誰か気づくと思うけど。」


「そこもちゃんと対策しています。」


今度はもう1人の生徒、由奈が説明した。


「コンロは実習室時代に使っていたものがあったので再利用しました。カーテンも遮光にして光が漏れない様に。テーブルやイスも置いてあったものを修理して使っています。」


「君達が直したの?」


「いえ、同じファンクラブの会員に頼みました。」


「じゃあ、これだけの写真や私物も全て…。」


「はい。クラブの皆んなで少しずつ持ってきて、ここに飾りました。」


「そりゃすごいわ。」


呆れと感心が入り交ざった気持ちで圓龍は言った。彼女自身も気づいてはいた。学園内にいると常に誰かの視線を感じていた。ファンクラブがあるという噂も聞いていた。が、まさかこれほどたくさん撮られ、さらには真夜中に活動するほど熱心だとは考えていなかった。自分にそこまで魅力があるとは思えなかった。


(それに、皆んなには悪いけど私には決めた人がいるから…。)


チラッと、圓龍は有栖の方に目を向ける。彼女は圓龍の視線に気づかず、調査に関係する証拠がないか、部屋全体を見回していた。しかし、有栖に向ける圓龍の視線をミリーが見逃さなかった。


「私達からも質問があります。圓龍様、この女とはどういう関係で?」


「「えっ?」」


流石の有栖も自分のことだと気づき、振り向いた。


「学園中で噂になっています。最近来たばかりの転校生が、圓龍様と一緒にお弁当を食べたり、明美様と席が隣になったり。何よりも女が来た初日、白蘭様と手を繋いで登校したと聞いています!何故ですか!?なぜ、この女に皆んな近づくのですか!?」


「えっと、それは…。」


圓龍は返答に詰まった。明美と席が隣なのは偶然だが、残り2つについては必然である。白蘭は有栖と同じチームに所属する、いわば家族だ。圓龍が得た情報では、白蘭を助けたのが有栖だったという。彼女が有栖を慕うのも理解できる。


(問題は、私との関係か。)


チームは異なるが協力しあうストリートギャングのメンバー。流石にそれを言うことはできない。何より圓龍は、有栖とより親しい関係になりたかった。


(これは、チャンスでは!?)


ここで付き合っていると言えば、彼女との関係も進む。圓龍は勢いで言おうとした。しかし、有栖に先手をうたれてしまった。


「白蘭ちゃんとは家が近いので昔から仲が良いってだけです。」


「腕を組むくらいに?」


「妹みたいには思っています。」


恐らく、何か聞かれたらそう答えるように言われているのだろう。迷いのない答えだった。


「それと、圓龍さんとはただの同級生です。特に何もありません。」


「…その通りだよ。」


これもそう答えるように言われたのだろう。事実ではあるが流石にこうもハッキリ言われるとショックだった。


「そう、ですか。」


2人の生徒はまだ怪しんでいるが、ひとまずこの場は圓龍と有栖の言葉を信じることにした。


(今はひとまずこれでいいけど、いつか必ず!)


そして圓龍は有栖との関係を更に進展させようと、固く決意するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ