葉棒
葉棒
様々な薬草を配合し、棒状に固めた物。有栖達の世界では嗜好品として使われている。火を付けて吸うタイプは苦いため、最近は飴タイプが人気である。
基本的に人体への影響はないが、薬草の組み合わせ、量、過剰摂取などで毒にもなる。密造・密売が横行して粗悪な物が出回り、中毒者や犯罪組織の資金源になっている。ネグルでは大迫一家が厳しい管理と取り締まりを行っている。
有栖が『蘆薈』で働いていた時のこと。
「葉棒の密造ですか?」
「そうだ。」
ルークは完成した葉棒を上にかかげながら話を切り出した。きれいに形が整っているか、異物が入っていないかなどの状態を確認するために行う彼のルーティンである。
「ある人物からのタレコミがあってな。学園内に葉棒の吸い殻が落ちていたらしい。」
「それだけなら別に問題ないのでは?」
「学園の外ならな。学園内で見つかったことが問題なんだ。葉棒は薬草の量や配合を間違えると危険だ。中毒を引き起こす。だから売る側は管理と販売にかなり気を使う。学園の近くに店は置かない。未成年への販売なんて以ての外だ。」
「学園内は?」
「もちろん禁止だ。とはいえ学園内は広い。隠れる場所はたくさんある。だから俺は、職員が吸っていると思っていた。生徒達にバレないよう、コッソリとな。だが、事態はかなり深刻だった。」
「何があったのですか?」
難しい顔をするルークに、有栖は作業の手を止め、彼の向かい側にある椅子に座った。
「この前、白蘭がチンピラに絡まれたって言ってたよな?」
「ええ。その時は痛い目に合わせた、と。」
「彼女は強いからな。ただ、またあると面倒だからシルヴァーノに頼んで通学路を定期的に見回ることにした。そしたら例のチンピラを見つけたらしい。性懲りも無くまだ白蘭を狙ってやがった。」
「…殺したのですか?」
有栖が恐る恐る尋ねると、ルークは首を横に振った。
「いや。人目もあったし、相手は子供だ。殴って気絶させた。流石にシルヴァーノも手加減している。問題はその後だ。」
ルークは葉棒に火を付けようとしたが上手く付かない。ライターのオイルが少なくなったようだ。
「クソ、つかねぇなぁ。」
シュボッ!
「おお、ありがとう。」
代わりに有栖が自分の火を貸した。彼女は嗜まないが、こういうときの為に常時持っているのだ。
「どうも。それで問題は?」
「ああ。倒したチンピラ達の服から、未使用の葉棒が見つかったんだ。」
「えっ?」
「俺の商品を転売しやがったのかと思ったが、見たところ俺が作ったものじゃなかった。質が悪い薬草を使っているし、作りも雑だった。明らかに素人の手によってできた、安物の粗悪品だ。」
「それってまさか…。」
状況を察した有栖に、ルークは静かにうなずいた。
「俺の店では子供に葉棒を売ることはしない。他の店も同様だ。つまり、学園内で見つかった吸い殻とチンピラ達が持っていたものを考えるに、どこかに葉棒の密造場所がある。そして学生に販売できる場所といえば、学園の中以外に考えられない。」
「だから学園に潜入し、証拠を見つけてほしい、と…。」
「そうだ。無論、さっき言ったことも理由の1つだ。」
「…。」
有栖は考えた。このことに目を瞑ってしまえばどうなるか。葉棒を嗜まない彼女でも多少の知識はある。ハーブには依存性の高いものや毒性の強いものもある。そんな取り扱いの難しいものを、欲に駆られた素人が無造作にばら撒けば最悪なことになる。
(ブラッカーズのシノギにも影響が出るし、中毒者が増えれば治安も荒れる。想像しただけで目眩がしそう。)
「分かりました。引き受けましょう。学校生活も少し興味がありますので。」
「そうか。頼んだぞ。」
「御意。」
・
・
・
これが青藍学園に入学した理由である。だが結局、証拠は見つからなかった。入学したばかりの彼女ではまだ学園内を把握できず、また人の多い昼では思うように行動できなかった。そこで人のいなくなる夜に潜入することにした。
「まずは開いている窓がないか探さないと。暗いから見えにくいわね。」
「大丈夫だよ有栖さん。懐中電灯を持ってきたから。」
「ありがとうございます、圓龍さん。」
「気にしないで。それより夜の学校は迷いやすい。私から離れないようにね。」
「は、はい。」
こうして、有栖は夜の青藍学園に潜入した。何故か、圓龍も付いてきているが。




