プロローグ
(あれ、何が起こったんだっけ…。)
朧気な意識の中、彼女はゆっくりと目を開けた。目の前には天井が広がり、電灯が弱々しく光っている。
(誰か…いるの?)
少し頭を上げ、震えながら周りを見た。ひっくり返ったソファ。壊れた棚。割れたグラスやボトル。床には飛散した、たくさんのガラス片と血。そして、人の形をした綺麗な死体と、頭の中身が溢れた死体。一体ここで何が起こったのか、自分はどうなったのか、彼女は記憶を巡らせる。ふと、顔に手を当てると何か水の様な、しかし水よりも粘り気のある液体が付いた。見ると手が真っ赤に染まっていた。そういえば左側の視界が見えない。どうやら左目を失明した様だ。気づいた途端、少し痛みを実感した。
(ああ…そっか…。私…死ぬんだ。)
流れ続ける血が耳にも、口にも入ってきた。鉄の味がした。だがその感覚も、次第に薄れてきた。もう、起き上がる力もない。彼女は静かに目を閉じ、これからくる自分の運命を受け入れる。
(あーあ…何で私って、いつもこんな目に遭うんだろう…。)
薄れゆく意識の中、彼女は人生を振り返っていた。貧しい環境で育ち、両親もはもちろん姉妹も兄弟もいない。それでも自分には帰る場所があった。大切な人がいた。差別や偏見を受けながらも、落ち込むことなく生きてきた。あの日、全てを失うまでは…。
(生まれ変われたら次は…幸せに…なりたいなぁ…。)
心の中で願った後、彼女の景色は段々と狭くなる。最後に見たのは、ぼんやりと浮かぶ人の影であった。そして彼女は闇に落ちた。
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あんた、まだ生きたいか?