case5 終了対象:???/マジカルオレンジ
ゴウン、と身体が引っ張られるような感覚に気付き、佐藤翔子はゆっくりと目を開けた。
うつむいた体勢であり、すぐに自分が車椅子に座っていると気付く。革のベルトで細い手首と足首を拘束されていることにも。
顔を上げる。目の前にはエレベーターのボタンが並んでおり、その上の電光盤には現在の階数が表示されていた。数字が下がっていく。
この先は――地下だ、
ぶわりと鳥肌が立つ。思い出した。このエレベーターが向かう先は、実験施設だ。
およそ人間扱いなどされない非人道的行為が平然と行われる場所。肉塊と化した動物の悲鳴が響き渡り、ひどい悪臭が消毒液の匂いに混じり、そして恐ろしいほどの苦痛が与えられる、真っ白な空間。
は、と翔子は無意識に呼吸を早める。
もう実験施設も、それに関わったチームもなくなったはずだ。母親を含む何人かが逃亡し、何人かが死亡し、その中で唯一すべての責任を他に押し付けて局長の座に座っている奴がいる。それが現在だ。
まさかこんな悪夢が繰り返されるなど――
「……夢」
電光盤の数字はねじ曲がって読めず、ボタンはでたらめに光っていた。空間の隅は水の波紋のように輪郭が捕えられない。
ベルトを引っ張るが軋む音も感覚も感じず、ただ腕がひどく重い。
茫然としながら隣に視線を移す。隣には白衣を着た女性が立っていた。
リンリン先生だ。適当に伸ばした髪に隠されて横顔はうかがえない。そもそも『マジカルシュガー』となってからまともに意識がある状態で顔を見たのは片手で数えられる程度だ。
「お母さん……」
無駄な事だと分かっているのに、話しかけずにはいられない。
当然返答はなかった。
代わりにエレベーターの到着音が鳴り、重々しく扉が開く。
その先。
真っ白な通路の真ん中で、日向洸が死んでいた。
〇
「――洸くんッ!!」
自身の叫び声で翔子は目覚める。
汗だくでキャミソールはおろかシーツも湿っていた。暴れる心臓を押さえながら目だけ動かして状況を把握する。
間接照明の僅かな光がぼんやりと部屋を照らしている。イヤホンからは消し忘れた音楽が流れ続けており、ごちゃついた部屋は白い部屋とはまったく似ていない。
間違えようもなく、夢だった。
夢のはずだ。
「コークンってなあに?」
そうでなければ、どうしてここにマジカルパーピュアがいるのか。




