case4 終了対象:岡宮夕菜/マジカルフタバ 6
翌日、夕方。静岡県X市にある小学校。
下校時間になり小学生が門からわあっと出てくる。その近くで、翔子は子どもたちをひとりひとり見ていく。
その眼はluxの力を借りておりわずかに青く光っている。
彼女が手にしたスマホには探している少女の情報が細かく書かれていた。
クラス、出席番号、ランドセルの色、通学ルート。
プライバシーの侵害も良いところだが今はその情報に頼らざるを得なかった。翔子は特別人の顔を覚えることが得意なわけではない。
やがて明るいピンク色のランドセルを見つけると少し間を置いてから翔子は追いかけていく。
ランドセルの持ち主の少女は本来決められている通学ルートを外れていく。迷っているにしては足取りは確かだ。
30分ほど歩いただろうか。電柱に記された住所から、岡宮家のいた県営団地からほど近いことに翔子は気付いた。
寂れた公園につくと、少女は一目散にブランコへ向かって行く。
ランドセルを下ろしてブランコに腰かけた。ゆらゆらと揺れているが、楽しいようには見えない。
翔子はスマホとイヤホンを繋ぐ。洸に通話をするとすぐにつながった。
『子猫は見つけた?』
「見つけたわ。住処の近く。恋しいのかしらね」
『どうだろう…』
歯切れが悪い。その理由を翔子は知っている。
――今から数十分前。
固定のメンバーとなった運転手の南村、ナビの洸、そして後部座席に翔子。トランクにはそれぞれの泊りのセットが詰め込まれている。
小学校に移動する道中で翔子は洸に問いただしていた。隠していることはないのかと、強い口調で。
借金を抱えていても子供に愛情を注ぐ家庭は存在する。
だが岡宮夕菜の場合はそうでなかったのではないかと、翔子は考えていた。
力が暴走した勢いで両親を殺したようには思えない。死体の状況を聞くに、そこに込められているのは十全な殺意だ。
ならば、彼女は――親から暴力にさらされていたのではないか。その恨みから両親を惨殺したのではないか。
しばらく苦い顔をしたあと、言いたくなかった、と洸は答えた。
「…あまり、躊躇わせるような情報を与えたくなくて」
「ありがとう。洸くんの情報の取捨選択には助かっている。だけど、知らなければならないことを隠されているのは別よ」
それが親切心だとしても。
「わたしがどう思うかをあなたが決めないで頂戴。わたしのことはわたしが決めるわ」
「そうだね…。君がどう思うのかは、君が決めるべきだ」
洸は深く息を吐いた後に話しはじめる。
「岡宮姉妹の両親は、彼女たちに身体的虐待と精神的虐待、ネグレクトを行っていた」
「…そう」
簡潔に済まそうとしているのが分かったが、翔子はそれ以上追及しない。
子供が育つ環境としては劣悪であることは理解した。
「学校へは二週間無断欠席していた。学校側から相談を受けて児相も動こうとしていた矢先に両親の失踪だ」
「洸くんは、両親を殺したのは岡宮夕菜だと思う?」
「…うん。殺したいと思うのは、分からなくもない。僕も家を追い出された時、一瞬父さんたちを…」
南村はハンドルを握る手をピクリと動かした。
窓の外を見る洸は気付かなかったようだ。「なんでもない」と苦笑いでごまかした。
「わたしもなんとなく、分かるわ。殺したいのかどうかも自分でぐちゃぐちゃだけれど…」
魔法少女になり、力を得た時、岡宮夕菜はどのような感情を抱いたのかと翔子は想像する。
虐げられてきた自分に強大な力が宿ったと知った時、彼女は何を思っただろうか。
――意識を今に戻し、翔子は声に出さずつぶやく。
「でも、わたしは魔法少女喰い。正義の味方でもヒーローでもないのよ…」
どのような事情があっても、どのような背景があっても、マジカルイーターには関係ない。
ただ、食い殺すだけ。
「洸くん。いまから子猫を撫でてくるわ」
『いってらっしゃい。何かあったらすぐ連絡を』
「ええ」
通話を切り、翔子は伊達メガネを取る。
幼い顔立ちが現れた。
指先で唇の端を持ち上げながら、翔子は少女の前に立つ。少女は不思議そうな顔をした。
「こんにちは。わたし、ここで待ち合わせをしているんだけど…こっちのブランコ使ってもいい?」
「うん、いいよー」
年が近いと思ったのだろう、それほど警戒せずに少女は頷く。
ブランコに座り、彼女に顔を向けて翔子は笑う。見る人が見れば、ぎこちない笑みだ。
「わたし、翔子。あなたは?」
「朝菜! 岡宮朝菜っていうの」
少女は――岡宮夕菜の妹は、強く地面を蹴ってブランコをこぎ始めた。
「朝菜ちゃんは、ここでなにしてるの?」
「んー? ひみつー」
「そっか」
予想は出来ている。
岡宮夕菜が、ここに来る。




