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case1 終了対象:家坂真依/マジカルガーネット 7

 砂埃の舞う中、ガーネットは慎重に瓦礫の上を歩く。

 目指すはイーターが居た箇所――といっても、そこは床が抜けて下の階に落ちてしまっていた。大穴を覗き込んで安全を確認すると飛び降りる。

 きょろきょろとイーターの姿を探すもそれらしき影はない。埋もれているのだろう。

 ガーネットが苦労しながら大きな瓦礫をどかすとその下からイーターの銀髪が現れた。肩から上が露出している。マジカルステッキで後頭部をつつくとぴくりとイーターの頭が揺れた。

 布の部分を引っ掴まれて、ずるりとイーターの身体が瓦礫の下から引きずり出される。

 手はもげ、足はつぶれ、魔力ルークスが直撃した部分は黒く炭化している。少女の身体が負うにはあまりにも酷で、目を背けたくなるようなありさまだ。


「…あははっ、ざまあないじゃない。あんな大口叩いといていざ戦ったら激弱って」


 髪を掴み顔を上げさせる。

 形の整った唇から洩れるのは、呻きではなく


「そうね」


 場にそぐわない、冷静な肯定だった。

 思わずガーネットが手を離すとイーターは床に顔から落下する。「痛いわね」とくぐもった声で彼女は言った。

 もげた手が見えない糸で引っ張られているかのように瓦礫から這いだし、切断面と融合する。潰れた足には筋肉が修復され、血管が繋ぎなおされ、皮膚が覆った。炭化した部分はまるで粘土のようにグネグネと脈打った後なにごともなかったように修復される。

 瞬きする間にイーターの身体は数分前と違わぬ姿へと戻った・・・


 立ち上がり、身体の調子を確かめるように手首と足首を回す。

 そして碧眼をガーネットに向けた。


「――ひっ」

「人質、という存在を失念していたわ。そこについては感謝しましょう。今後気を付けるべき点が見つかったのだから」


 ちらりとイーターは後ろを見る。男性は瓦礫の空間にどうにか押し込めたので軽傷ぐらいはあるだろうが無事だ。代わりにイーターがボロボロになったわけだが。

 ガーネットは震える。瀕死だったはずの相手が瞬く間に回復し、何事もなかったように話し出すこと、いったいどこに恐怖を感じない部分があるというのか。


 戦っても無駄だと悟った。なまじ戦闘を何個かこなしていたからこそ、マジカルイーターとの戦いは消耗戦であることを理解した。してしまった。そして体力を先に無くすのが自分ガーネットであることも。

 だからこそ、ガーネットは選択した。逃走を。

 くるりと踵を返して他のビルに飛び移るべく足に力を込めようとしたとき、足払いを受けて彼女は転倒する。マジカルステッキは蹴り飛ばされ遠くの方へ滑っていく。


「もうすこし距離を開けるべきよ、今のは」


 倒れたガーネットの頭上でイーターが見下ろしている。

 一切の加減もなくガーネットの胸倉をつかみ、そのまま宙に釣り上げた。


「離せっ! このっ、この化け物・・・!」


 暴れるガーネットの不意の一言にイーターは少し寂しそうな表情を見せる。


「…魔法少女よ、わたしは」


 言いながら、さきほど崩落の衝撃で割れた窓の方へ歩いていく。

 近くで止まるとイーターはガーネットの胸元についているリボンの中央部をむしり取った。

 luxルークスの結晶だ。六角柱のかたちをしたイーターのものとはちがい、ガーネットのものは歪みのない円柱だ。

 主以外が触れることを拒むようにそれはイーターの手を焼いていく。彼女の顔が苦痛に歪んだものの離すことはしない。


 無我夢中でガーネットが取り返そうと手を伸ばしたときには、すべてが遅かった。

 イーターが結晶を握り締めると、ぱきんと軽い音を立てて手の中で砕けちった。破片は床に落ちるまえに雪のように音もなく消えてしまう。


 同時に光の粒がガーネットを一瞬包み、霧散した。

 そこに残っていたのは魔法少女の力を失った少女、家坂麻依だ。


 家坂麻依は、何かを言おうとした。

 悲鳴か、懇願か、怒号か、それとももっと別の何かを。

 しかしその言葉がかけらも出ないうちにイーターは彼女から手を離す。


 ビルの十階相当の高さから、家坂麻依は落ちていった。

 少女の目には夜空と、銀色の髪と、そして感情のない青い瞳が映る。

 魔法少女と言うよりはまるで死神のような。そんな得体のしれない化け物が落下する少女を見つめている。


「…ママ」


 最後のつぶやきは肉の潰れる音にかき消された。



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