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case1 終了対象:家坂真依/マジカルガーネット 3

 自身の胸元にあるペンダントの感触を確かめながら、翔子はふと気づく。


「ところでこの車はどこに向かっているの?」

「今更か…」


 南村が呆れたような表情でバックミラー越しに翔子を見る。

 四十代前後の男の片眉には大きな傷跡が残されていた。当人の話によれば昔、怪人だったころに魔法少女にこっぴどくやられてしまった名残だという。そのせいか翔子およびマジカルシュガーにはどこかよそよそしい態度で接してくる。魔法少女が苦手のくせして魔法少女管理事務局に務めるのはこれいかに、と翔子は常々思っていた。

 怪人も魔法少女ほどではないにしろ傷は多少のものなら高速で修復するので、つまり傷跡が残るほどということは一般の人間なら確実に死んでいる。どれほどまでに容赦のない魔法少女だったのか、翔子や洸は何度か好奇心から訪ねてみたことがあるがすべてはぐらかされた。


「佐藤の嬢ちゃんは変なところが抜けているな。最初にそれを聞くもんだぜ」

「あらごめんなさい。で、どこ?」

「…さいたま市。最近のマジカルガーネットはさいたま市を中心に活動しているんだとよ」


 タブレットから顔を上げて洸が補足する。


「しばらく神待ちもしていないし、その近辺に泊まり込んでいるのではないかと言う話があるんだ。それでも相当気まぐれな動きだけれど」

「身を寄せる場所ができたってことかしらね。…でも、それでは動きが掴みにくくなったんじゃない?」

「時折魔法少女本来の活動はしているんだ。僕みたいな何か月もかかるタイプではなくて、数日から数週間で元に戻るような怪人を相手にしている。彼女を撮影したものがあるんだけど、見る?」


 tenebraeテネブラエの影響で突発的に怪人になることは共通しているが、短期間ショーター長期間ロンガーという期間の違いがある。

 短期間ショーターは最低数時間から二週間。怪人のうち八割はこちらだ。

 長期間ロンガーは二週間以上。平均して一年半。二年超えた者はもはや元に戻ることは絶望的だとして殺処分処理を受ける。


 弱い――と言っていいのかは不明だが――怪人はたいてい短期間ショーターのほうだ。戦い方や力の使い方が未熟だからだ。それなりに場数を踏んだ魔法少女ならすぐに制圧できてしまう。

 問題なのが長期間ロンガーだ。時間をかけて戦い方を学習し、同地区内で暴れているのならば担当している魔法少女の攻撃パターンも覚えてしまっている。そのため、魔法少女が数人がかりでないと危険が伴う。さらには長い期間の戦いとなるので、怪人が倒される前に魔法少女としての任期ちからが終わってしまうこともある。

 あまりに強く魔法少女たちではどうにもならず、そしてまだ殺処分処理命令を出されていない場合、長期間ロンガーを任されるのがマジカルシュガーだ。救援を求められれば北海道から沖縄まで翔子は派遣される。この場合、本人の意思はほとんど無視される。


「戦闘スタイルも見たいからあとでデータを送って。マジカルガーネットはどういうつもりなのかしらね」

「自己顕示欲ではないかと僕は思っている。…そうでなかったら自ら殺人をしたと言わないだろうし」


 どうやら殺した挙句に自分から公表までしたらしい。

 翔子としては結果がすべてなのでそこは流すことにした。


「その周辺に登録された魔法少女はいるの?」

「いることはいる。けど、好戦的ではなく、マジカルガーネットと接触するのが怖いみたいだ」


 接触を避けているというのは、地元ではマジカルガーネットに関する悪い噂でも流れているのだろうか。

 怪人を倒すことがノルマではないので(縄張り争いを防いでいる)マジカルガーネットの邪魔だてをせず黙って怪人が倒されているのを見ているほうがその地区の魔法少女としても最善の手というわけだ。

 なるほどね、と翔子はため息をついた。


「…今日含めて三日も時間を取るわけが分かったわ。つまりさいたま市内でマジカルガーネットが活動をするまでじっと待っていろと言うこと?」

「そうなるね。今から精神がやられそうで楽しみだよ…。僕はサポート役、南村さんは運転役アッシー

「アッシー言うな」

「駅に近いビジネスホテルを取ってある。のんびりするのが目的ではないから、そこらへんは勘弁してね」

「むしろノラ魔法少女でピリピリしている上層部がビジホ以外を取るとは思えないわ。ネットカフェじゃないだけマシね」


 翔子のような幼い容姿の少女がネットカフェに出入りすると思いもよらないトラブルを起こす、ということはさすがにノラ魔法少女の処理に躍起になる上層部でも想像できたようだ。


「それで、待機中は何していればいいの? どの範囲までなら外出できそうかしら」

「缶詰め状態だから観光できないよ」

「え?」

「遊びに行けないよ、一歩も。いつどこで呼ばれるかわかんないんだから」

「カ、カピバラぐらいは見に行けない?」

「無理だよ」

「カピバラ」

「だめ」


 翔子はふて寝した。


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