第2章 46話 魔法のドライヤー
家に着いた俺達は、とりあえず鞄などの荷物を片付ける。
俺は頭の中にある構想をもう少し纏めておきたく、マリリとマリスに先にお風呂に入って貰う事にした。
紙を用意し、早速ペンを走らせる。
頭の中にぼんやりとあるイメージを、ラフスケッチの様に絵にしていく。
何度も何度も上書きをし、少しづつ形が出来上がってくる。
今絵にしているのは、あくまでも構想の一部だ。
実際にこれを実現するのはどうだろうか・・・
コンセプトが変わってしまうかもしれないが、保険は掛けて置くべきか・・・
また一人で考え込んで無駄な遠回りをする時間も無いので、後でマリリとマリスの意見を聞いてみる事にしようと思う。
「まぁこんなもんかな。」
こんなもんと言いつつも、そこそこの量を描けた気がする。
夕食の時のお酒のせいかやたらと喉が渇き、ラフスケッチを描いている間だけでも4杯も水を飲んでいたせいか少し催してきた。
「よしトイレ・・・」
ダメだ、また同じ過ちを繰り返す所だった。
マリリとマリスがお風呂に入っている事をうっかり忘れかけていた。
ここは取り敢えず我慢だ・・・ん、大丈夫・・・だろう、多分。
気を紛らわせる為に、更に加筆をする。
「お待たせしました~。」
「いいお湯だったー。」
そうこうしている内にマリリとマリスがお風呂から上がってきた。
なんとか俺の膀胱は耐える事に成功した様だ。
「お疲れ様、二人とも。
さてじゃぁ俺もお風呂の準備をするとしようかな。」
「お風呂上りに、また冷たい物を用意しておきますね。」
「いつも、ありがとうマリリ。
じゃぁお風呂頂いて来るよ。」
・・・・・。
溜まりに溜まった黄色い液体を一気に放出し終え、安堵のため息をつく。
「どう考えてもこのトイレ、配置的に問題有るよな。
もしこの間のシチュエーションで状況が逆だったら・・・。」
うーん、ヤバイな、只の変態だ。
とりあえずというか、なんとなく想像してしまう。
・・・・・。
やめておこう。
「おまたせ、いい湯だったよ。」
「お疲れ様です。
冷えてますよ、どうぞ。」
「ありがとう、マリリ。」
マリリから冷えたドリンクの入ったグラスを受け取る。
この間のウイスキーの時とは違い、グラスの中には1センチ角程の氷もぎっしりと詰まっていた。
まるで冷凍庫で作ったように、形も大きさも均一に揃っている。
「便利だな、魔法って。」
早速一口飲む。
アイスレモンティーだ。
「くーっ、染みわたる。美味い。」
一気に飲み干し、おかわりを頂く。
マリリがグラスをローテーブルの上に置き、手を翳し魔法を唱えると溶けて少し量の減った氷が粒のようになって消滅した。
続けてマリリが魔法を唱えるとグラスの中に、先程と同じ様に1センチ角の氷がぎっしりと現れる。
ティーポットのレモンティーをマリリがグラスに注ぐ。
「何度見ても魔法って不思議だな。」
グラスを手に取りマジマジと眺める。
「そう?僕達からすれば大地の世界の技術の方がよっぽど不思議だけどね。」
「ええ、スマホだって私達には全く仕組みが分からないですよ。」
「うーん、まぁ一長一短かな・・・。」
注がれたレモンティーを半分程飲み干す。
「大地、髪濡れてるね。」
「適当にしか拭いてないからな。そのうち乾くよ。」
「ダメですよ、大地さん、風邪引いちゃいますよ。
ちょっと待ってて下さいね。」
マリリがソファーに座る俺の後ろに立ち、魔法の詠唱を始める。
魔法を使う時独特の、少し回りの空気が変わる感じがする。
「おお、これは便利だな。 魔法のドライヤーか。」
心地良い緩やかな風に混じって、僅かな暖かさも感じる。
髪をわしゃわしゃするマリリの手が気持ち良い。
ヤバイな。
なんか普通にしてるけど、このシチュエーション幸せ過ぎるよな。
魔法も異世界もやっぱり最高だ。
「これって風属性の魔法?」
「当たりです。 でも、もう一捻りしてますよ。」
「ひょっとして、火属性の魔法・・・とか?」
「へぇ、大地良く分かったね。」
マリスが拍手する。
「つくづく便利だな。
俺も使ってみてえな、魔法。」
「その為には、まずは魔法のお勉強ですね!
はい、乾きましたよ。」
「ありがとう、マリリ。」
「では、初めましょうか、魔法のお勉強を。」
「宜しくお願いします、先生方。」
いつもお読み頂きまして、ありがとうございます。
ハード勤務続きで、更新が1日もしくは2日置きになってしまっていますが、今後とも宜しくお願い致します。