第2章 45話 灯台下暗し
「光を操る魔法が有るってのは盲点だったよ。
ついつい電気を作り出すって事ばかりに、考えが行っちゃってた事に反省だな。
光だけに、灯台下暗し・・・ってヤツかな。」
「でも私達からすれば、雷撃魔法を利用してその電気というのを作りだし、それを溜めて自由に使うなんて方法の方が驚きです。」
マリリの言葉に頷くマリスとセリー。
最初俺が考えていたのは、魔法石に封じ込めた雷撃魔法をバッテリーに見立てて、それを利用し馬車のヘッドライトのエネルギー源として利用出来ないかと言う物だった。
もちろんその場合、バッテリーだけで無くハロゲンランプ球の製作まで必要になる。
夜光石を利用した灯火では、夜間の視認性が悪すぎる事への対処だ。
もちろんバッテリーの様な物が出来るならば他にも色々と利点は有るのだが、取り敢えず灯火対策としては今となっては少し壁が高すぎた様に思える。
ここは異世界だ。
何も俺の知る技術ばかりを実現しようとするのでは無く、折角魔法と言う便利な物が存在している世界なのだから、それらをもっと有効に利用すればいいだけの事。
ついつい色々と考えすぎて、視界が狭まっていたのかも知れない。
自分ひとりで色々考え込むのでは無く、みんなにもっと相談していかなくてはいけないと、反省だ。
とは言え、光を発生させると言う事については解決出来たが、それだけでは前方を明るくは照らせない。
照らす為には、効率良く前方へ光をある程度集約させるためのリフレクターが必要となる。
ヘッドライトユニットそのものだ。
だが、これについてはあっさり解決が出来た。
鏡はこの世界にも存在している。
あるモンスターの鱗なのだそうだが、鱗1枚当たりの大きさが5~10センチ程の5角形で、加工し易く装飾品に使われたりするとの事。
それでいて鏡の様に綺麗に反射し、俺の知っている鏡とは違い衝撃に強いらしい。
リフレクターの材料として、もってこいである。
少しばかり値は張るそうだが、そこまで大量に必要な訳でも無いので問題は無いだろう。
「所で大地さん、先ほどの『灯台下暗し』って何でしょうか?」
酔っている様で、割としっかりと話を聞いているセリーが質問を投げかける。
「ことわざの一種で、灯台下暗しってのは・・・」
灯台とは・・・と言う所から説明を行った。
3人とも成る程といった感じで、俺の説明に聞き入ってくれていた様だ。
どうやらこの異世界にもことわざ自体は存在しているとの事なので、割とすんなりと理解が行った様だ。
「そういや、この世界にも『海』って有るよね?」
何気に今まで海の事が話題として無かった事を思い出す。
「ありますよ。ただ、私もマリスも行った事は無いので一度この目で見てみたいですね。
セリーさんはどうですか?」
「私も海はまだ見た事が有りませんね。
以前に冒険者の方から、お話で聞いた事はありますが。」
「僕も村長の家に有る書物に書かれているのを見て知っているだけだなー。
大地は行った事有るの?」
何故か期待をされている様な視線が集まる。
車の様な長距離を手軽に移動する手段を持たないこの世界の住人からすると、遠く離れた海の存在はどうやら憧れの一種らしい。
「有るよ。というか日本は海に囲まれた島国だからね。
東西には長いけど南北なら、車で移動すればその日中に端から端まで行けるから。」
そう説明しながら鞄から紙とペンを取り出し、簡単に日本地図を描いて説明する。
どうも島国というのがピンと来ていない様だったので、もののついでに世界地図を描いてみる。
勿論、正確では無いが、まぁ大体こんな感じだろう。
人間の記憶って結構適当な物だと実感。
「はー、この部分が全て海ですか・・・広いですね・・・
というか、大きさが今一つ掴めません。」
ご最も。
全く違う世界の地図を見ても、広さや距離なんてそうはっきりと掴めるもんじゃないだろう。
とは言え、距離や時間の概念は同じなので取り合えず説明をしてみた。
それによる3人の反応は、それだけの距離を短時間で移動できる『車』の方に驚きの様だ。
まぁ当然か。
驚く3人の様子が面白いので、ついでに電車や新幹線、船舶や飛行機などの事もサラッと話してみたが、信じられないと言った様子だった。
もっと聞きたいと言った様子だったが長くなりそうなので、また今度セリーのお泊りの日を設ける事になった。
少し、心の片隅で少しだけ、前の様なラッキースケベ、プラスアルファな事を期待している自分が居る。
だって仕方無いじゃない、男の子だもん。
え?前回の反省? 勿論してますよ。
それはそれ、これはこれだ。
と、少し開き直ってみる。 心の中で。
話をしながら残りの料理を平らげた俺達は、デザートが入る余地も無い程に満腹になり店を出た。
気が付けばそこそこ夜も更けていた。
セリーは明日からまたギルドの仕事なので、今日はこの場で分かれる事になった。
皆で送って行こうか言ったのだが、セリー曰く「余り遅くなっても申し訳ないから」とセリーは手を振りながら1人帰って行った。
少し心配もあったが、あれだけ飲んでいた割には足取りも口調もしっかりしていたので問題は無いだろう。
「さて、俺達も帰ろうか。」
「ですね。」 「だね。」
俺達3人は家に向かって歩いて行く。
俺を挟むように、左側にマリリ、右側にマリス。
誰からと言う訳でも無く、自然に互いに手を繋ぎ帰路に着いた。
いつもお読み頂きまして、ありがとうございます。