第9話 偶然という名の必然の出会い
村に着いてようやく一安心・・と思いきやマリり達とおっさんの関係が・・
「へぇ、おいしい。これはオレンジ系のハーブティーですか?」
「よくわかりましたね。不安などを取り除いて気持ちを落ち着かせてくれる効果があるんです。慣れない所に来て大地さんも少しは不安を感じてるかと思いまして。」
マリリの心遣いが胸に響く。
こんな美少女に優しくしてもらった事なんて何十年ぶりだろうか、いや、そもそもここまでの美少女と接した事なんてまず無いわな。
「ねぇねぇ大地!僕の作ったクッカーはどう?」
リビングダイニングのローテーブルを挟んで、向かいのソファーに座るマリスが目を輝かせながら聞いてくる。
「あぁ、程よい甘さで凄く美味しい。マリスがこれを作ったなんてちょっと意外だな。」
「意外はよぶんー。でもやった!」
クッカーというこの焼き菓子は見た目や味、食感もクッキーそっくりで、プレーンな物からナッツやチョコチップの様な物が入ったものなど種類が有り、まさしくクッキーそのものだった。
菓子をほめられコロコロと喜ぶ、マリスの意外な一面が可愛くて思わずときめいてしまう。
村に着いた所までは『おにーさん』と呼ばれていたのだが、マリス曰く『名前の方が語呂的に呼び易い』という事で、こんな美少女二人から名前で呼ばれるってのは慣れていないせいかなんとも恥ずかしさやらくすぐったさが有る。
警備隊長のザウルと別れた俺たちは、2人に手を引かれるまま2人の住む家にやって来ていた。
マリリ達の家までの道中に村の施設や主だった店などの説明を聞いたのだが、村というよりもどう見ても街といった感じだ。
村の中央には噴水とちょっとしたステージの様な壇上が有り、それらを囲むように商店が幾つか軒を連ねている。
人通りも多く活気があり、見たところ旅人というよりは観光客のような印象の人も沢山見受けられた様に思えた。
マリスの焼いたクッキー、もといクッカーを頬張りながらマリスにハーブティーのお代わりを頼みつつ、過去にこの世界に居たという日本人について聞くべきかどうか悩んでいた。
「おーい大地、どうしたの?遠くに行っちゃってるよ?さては僕のクッカーが美味しすぎて感動してたとか?」
顔の前でひらひらと掌を振りながら問いかけるマリスにはっと我に返る。
いつの間にか、ローテーブルの上マリリが運んでくれた2杯目のハーブティーにも気が付かなかった様だ。
「えっあっごめん。ちょっと考え事してて。マリリおかわりありがとう。マリスのクッカーもとても美味しいよ。」
「いえいえいっぱいあるので、幾らでもおかわりして下さいね。」
そう言いながらマリリは、ローテーブルを挟んだ向かいマリスの隣に静かに腰を掛け、ハーブティーを一口飲みこちらを見つめ話を切り出した。
「話が途中になっていました日本の方の事ですが、その方は私たちの祖母、おばあさまなんです。」
「うーん、そうだったんで・・・・・・ん、え、今なんて?」
「僕たちのおばあちゃんだよ。」
「は???え、えええええええええ!!っていってぇ、ぇぇぇぇぇぇ!!」
突拍子もないその話に驚きの余り無意識に立ち上がり、ローテーブルの角に思いっきり右足の脛をぶつけ弁慶の泣き所を押えつつ悶絶する俺を見かねて、マリリが回復魔法ヒールを掛けてくれた。
「あ、ありがとう。で、おばあちゃんて事はつまり2人とも日本人?いや、日本人の血が混ざってるって事???」
「そういう事になりますね。」
「マジ・・・か・・・。」
「そうそう。それに、おばあちゃんはこの村を救った英雄だったんだから!」
と、どうだ!と言わんばかりのドヤ顔のマリス。
「英雄?って事は、この村を救ったとかそういう意味での英雄??」
「ほふだほ、めっひゃ、つよ・・・ごふごふっ・・」
「いや、ごめん、何言ってるか全然分からん。 取りあえずマリスはクッカー飲み込んでから言え。」
口いっぱいにクッカーを咥えながら見事に咽るマリスに取りあえずのツッコミを入れつつ、カップのハーブティーを飲み干した。
「もう、マリスったらはしたない。」
そういいながら水の入ったカップをマリスに渡しながら、マリリが話を続けた。
「まだ私達が生まれる前の事ですが、この村がモンスターの襲撃を受けた事があったんです。本来、村や街は例外なくその周囲を外壁で囲んでいて村や街の規模によって高さの違いはあれど、その外壁の6ヶ所に魔法石と護符が配置され魔法による結界が張られていて、モンスターから守られているんです。」
マリリはハーブティーを一口飲むと更に続けた。
「ですがある日の早朝に何者かに、結界の魔法石と護符の一か所を破壊され結界が破られました。結界にはただモンスターから守るだけではなくモンスター達を遠ざける効果も有るのですが、勿論それらの効果も失われたちまち近辺のモンスターの群れが村に押し寄せたそうです。」
俺は静かに頷きつつ、話に聞き入った。
いつの間にかマリスも真剣な眼差しで、姉マリリの話に耳を傾けている。
「あっけなく門は突破され多くのモンスターの群れが村の中に侵入してきたそうです。村の警護団による必死の攻防によりなんとかモンスターの被害による死者は無くモンスターを退けたものの、住人の半数以上の重軽傷者が出てしまい、住居も3分の1が壊滅したそうです。」
俺とマリスのカップが空になっているのに気づき、マリリがポットから3杯目のハーブティーを注ぎながら、更に話を続けた。
「その後、昼夜を徹して魔法士による結界の修復と負傷者の回復が行われましたが、そもそもこの村に魔法士は5名程しかおらず、ましてや結界を修復できる程の魔法力をもった魔法士はたまたま旅でこの村に立ち寄っていた人を含めても3人しか居なかったそうです。」
真剣に話を聞いていた思ったマリスが、また口いっぱいにクッカーを頬張っていたがそこはスルーしておこう。
「襲撃を受けてから2日目の夕刻に再びモンスターの群れが押し寄せてきたそうです。 再び警護団による攻防が行われたのですが、モンスターの方が勝っており防衛線を破られそうになったその時に転機が訪れたのです。」
「モンスターの群れの後方にキラリと光る一線が走り、その度にモンスター達が次々と地面に倒れ、あっという間に50匹以上の全てのモンスターを撃退したそうです。」
「おばあちゃんの登場だね!」
「ええ、その時地面に倒れたモンスターの群れの中に『ナギナタ』と呼ばれる自身の身の丈よりも長くグレイブに良く似た武具を担いだ女性がただ1人、私達のおばあちゃん『サイミョウジ・キヨスズ』が悠然と立っていたそうです。」
俺はその最後の一言を聞いた瞬間、耳を疑った。
マリリの口から聞いたその名前『サイミョウジ・キヨスズ』それは紛れもない、俺の祖母である西明寺清鈴と同じ名前だ。
ただの同姓同名による偶然か?
いや、それにしては偶然にも程が有る共通点がある。
薙刀・・・
マリリは確かにはっきりとそう言った。
「大地さん大丈夫ですか?」
「大地、大丈夫?クッカー喉に詰まった?」
余りの衝撃に思考回路が停止し、いつの間にか俯き込んでいた俺を心配してマリリとマリスが顔を覗き込む。
「あ、ああ、ごめん、ちょっと急過ぎて頭がついて行かなかった・・・」
1つ大きく深呼吸をし息を整えもう1度、頭の中を整理する。
薙刀の件もそうだが、もう1つ、いや後2つの共通点が一緒ならば、まさかとは思うが・・・
今ここで勿体ぶっても何も前には進まないか。
なら踏み出すしか無いな。
「ん、大丈夫、ごめん2人とも心配かけて。その・・」
「いやーでもびっくりだよね!大地も名前にサイミョウジって付くんだよね? 日本人ってみんなそうなの?」
言いかけたと同時にマリスの質問が飛んできた。
「確かに俺も名前に西明寺が付くけど、日本人がみなって訳じゃないよ。つまり・・・」
俺はなるべく分かりやすく日本人の姓名について説明をした。
どうやらこの世界でも一部の例外を除いて姓と名については同じ概念らしく、説明は容易だった。
「ではやはり、大地さんと私たちのおばあちゃんが同一人物かもしれないですね。大地さんのお名前を聞いたときからそう感じていましたが。」
「ただ名前が一緒ってだけなら、たまたま同姓同名の偶然かも知れない。だから確認したい。」
「はい。」
マリリは短くそう答えると、マリスと手を握り合った。
「2人のおばあさん、キヨスズさんは薙刀を持っていたんだよね?この村に現れた時の大体の年齢って分かるかな?」
「はい、ナギナタと言う武器だと伝え聞いています。年齢は30歳位だったと聞いています。」
俺はマリリの返答を聞き、唾を飲み込んだ。
もしかすると俺がこの異世界に来たことも、マリりとマリスに出会った事も偶然では無く『必然』なのかもしれない。
だが次にマリスの口から、更に驚くべき言葉が飛び出した。
「おばあちゃんのナギナタなら、奥のおばあちゃんの部屋に保管しているよ。ね、お姉ちゃん。」
「ええ、良かったら見てみますか?」
「うん。えっ!はっ!?ええ!?っいてぇぇぇぇぇ!?」
驚きの余り立ち上がった俺は再びローテーブルの角に脛を強打し、マリリの回復魔法を受けた。