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第2章 29話 大地さん、嘘の風が吹いていますよ。

 「ふーっ、あーっ、くぅーっ。」


 毎度ながら湯船に浸かる度に、おっさんの様に声が出る。

 訂正、おっさんだから声が出る。


 分かってる、前も同じ事を考えていた。

 だが、おっさんなのを自覚しつつもどこか認めたくない、そんな俺が俺の中でせめぎ合っている。

 いや、おっさんとか若いとか関係なく、お湯に浸かれば自然とこうなんというか出るものだ。


 感嘆の声とも言うべき、心の叫びが。


 それが只の水道水を温めたお湯では無く、天然の温泉なら尚の事だろう。


 まさか、異世界で毎日こうやって天然温泉掛け流し的なお風呂に入れるなんて、転移させられた時は思いもしなかった。

 こうやって湯船に浸かる度にいつも考える。


 突然この異世界に転移させられ、死にもの狂いで見知らぬ森の中をモンスターに追われながら駆け巡り、奇跡的に生き延びたかと思えば、目の前には天使の様な美少女姉妹が現れその2人に助けて貰う。

 文字は読めないが奇跡的に言葉は通じ、多少の命の危険はあるものの日々の衣食住にも不自由なく生活出来ている。

 この不思議な異世界に来てからまだ大した間もないが、色々な人たちに出会った。

 まぁ中々個性の強い面々だけど、みんな良い人達だ。


 感謝してもしきれないな。


 いつも皆には世話に成りっぱなしだし、いつかきっと何かの形でお礼をしなきゃな。

 俺なんかにこの異世界で何が出来るかまだ分からないが、とりあえず今は出来る事を一つずつ熟して行こう。



 不思議と言えば、この村で湧き出る天然温泉・・・。

 そもそも温泉には元居た世界では、10種類だっけか?の泉質が有り、それぞれに効能があるとされている。

 この異世界の温泉に、どれ位の泉質があるのかは不明だが。


 マリリ達の話に寄れば、この異世界の温泉にも色々な泉質とそれによる効能があるそうで、この村から湧き出る温泉にも当然の様にその効能があるそうだ。

 俺が今浸かっているこの家の温泉にも勿論その効能が有り、回復系魔法のヒールに似た効果が有るらしい。


 と言っても、ヒールの魔法を掛けた時の様に、目に見えて傷が塞がりダメージが回復していく訳では無い。

 日々この温泉に浸かり続ける事でその効果を少しづつ受ける事が出来るそうだが、どう考えても俺の知る温泉の効能とやらを明らかに上回るレベルだ。


 それに気がついたのは俺の持病と化していた『腰痛』だ。

 なんだかいきなりジジ臭くなるが、日本のアラフォーの腰痛率は異常だ。

 勿論、症状の軽い重いの差は有るが、その大体が若い頃に体力任せに無理をしてきた結果だろうと思う。


 例に漏れず俺は20代の頃に一度、仕事中にぎっくり腰をやってからというものの長年腰痛と連れ添ってきた。

 だが、この異世界の温泉に浸かりだしてからは、気がついた時には腰痛のよの字すら感じなく成っていた。

 そこでマリリ達に聞いて、初めてこの温泉の効能だと確信した訳だ。


 大地から沸く天然の温泉には、魔法のエネルギーとも言えるこの異世界に存在する『マナ』が関係しているのだとか。

 いづれは魔法についても挑戦してみようとは思うので、またその時に詳しい事を聞いてみるとしよう。




 「さ・・・て、上がるか。」


 少し脱衣所で体を冷ませてから、用意しておいた寝間着に着替える。

 ついつい脱衣カゴを見る度にあの時にラッキースケベ??と言って良いのか、マリスの裸を思い出し反射的にアレに元気が入る。


 ヤバイヤバイ。


 効果の薄い素数数えを行い、なんとかアレのゲンキを沈めリビングへ向かう。

 完全には鎮まりきっていないが、そこはご愛嬌。




 「ごめんごめん、おまたせさま。

  ちょっと長湯だったな。」


 リビングに戻ると、お風呂の準備を終えた3人がソファーで寛いでいた。


 「僕達も、ちょっと前に準備終えた所だから大丈夫だよ。」


 「そっか。なら良かった。・・・ん?」


 ふとローテーブルの上の酒瓶が目に入る。

 おいおい、なんかまた量が減ってないか?・・・というか確実にさっきの半分に成って無いか?

 誰が飲んだんだか・・・なんて考えるまでも無い、セリーとマリリだ。


 マリスに視線を送ると、ヤレヤレといった感じのジェスチャーで答える。

 どうやらマリスも、この2人に呆れてる様だ。

 まぁ楽しくお酒を飲めているようなので、良いとしよう。


 ただこれからお風呂と言う時にちょっと心配ではあるが、マリスも一緒に入る様なので大丈夫だろう。

 マリスも回復魔法が使えるので、何か有った時の緊急処置は大丈夫だろう。


 心配なので俺も一緒に入りたい所だが、流石にそうはいかないしな。

 訂正、心配なのもあるけど、本音は・・・ゲフンゲフン。

 この状況でアレがゲンキに成るのも困るので、余り考えない様にしよう。

 余り・・・。


 ちょっと位は良いだろう、だって男の子だもん。




 「よいしょ。」


 俺はソファーに、マリスの横に腰を下ろした。


 「大地、座るのにも掛け声とか、おっさん臭いね。」


 くすくす笑うマリス。


 「日本じゃこれがスタンダードなんだよ。」


 マリスに確信を突かれ悔しいので、適当な事を言ってごまかしてみる。


 「大地さん、嘘の風が吹いていますよ。」


 サラッと見抜くセリー。

 さすがは毎日色々な冒険者相手に仕事を熟しているセリー、一発で見抜かれた。

 にしても、どこかで聞いたようなセリフなのは気のせいだろうか。


 4人で顔を見合わせ笑いが溢れる。


 良いなこういうの。

 ちょっと前まで、この異世界に来るまでこんなの想像も付かなかったよな。

 そう考えると、別に元の世界に戻らなくたって良いんじゃないかと思う自分が居る。


 「はい、大地さん、どうぞ。 ひゃえて(冷えて)ますよ。」


 向かい側に座るマリリがグラスを差し出す。

 グラスの中には、クラッシュした氷がつめ込まれた牛乳が注がれていた。

 氷は勿論マリリが魔法で作り出したものだ。


 若干、呂律が回って無い所からするに、まだまだ酔いは覚めていない様だ。

 まぁ当然か。


 「ありがとう。」


 マリリからグラスを受け取ると、一気にグラスの半分の牛乳を飲み干す。

 火照った湯上がりの体に、冷たい牛乳が染みわたる。


 この異世界にも牛乳は当然の様に存在しているのだが、なかなか濃いいので氷で薄められて調度良い位だ。

 日本でパッケージにして売るならば、『超特特濃』と言った所だろう。


 「じゃぁ僕達もお風呂に入ろうか。」


 「そうですね。」


 「じゃぁ大地ひゃん(さん)、私達もお風呂頂いてきまひゅね(きますね)。」


 立ち上がる3人。

 若干、マリリとセリーの足取りが気になる所だが、大丈夫か?


 「大地、覗いちゃだめだよ!」


 「覗かねーよ!・・・多分。」


 多分は聞こえるか聞こえないか位で一応言っておく。

 マリスのいつものノリに、いつものツッコミを加えておく。


 お風呂場へ向かう3人の後ろ姿を見送った後、俺は残りのキンキンに冷えた牛乳を一気に飲み干した。


いつもお読み頂きまして、ありがとうございます。

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