第2章 28話 大地さんは優しすぎます。
「ただいまー。」
「おかえりー、大地。 意外と早かったね。」
「まぁ途中までだったからね。。」
家に着くと片付けを終えたマリスが、キッチンから戻ってきた。
一口だけどは言え久しぶりに口にしたウイスキーに寄るものか、軽い眠気を感じつつとりあえずソファーに腰を下ろす。
「じーっ・・・。」
「え、えーっと何かな?」
いつの間にか隣に座ったマリスが眉を顰め俺の顔を見つめる。
「ふーん。」
「ん???」
ため息をつきつつ俺の首元にマリスが手を伸ばす。
マリスの指先がそっと触れる。
な、なんだ・・・まさかマリスまでこの酒を飲んで酔ってるの・・・か?
俺はローテーブルの上に置かれたままの、ウイスキーに似た酒瓶を横目に確認する。
量は・・・こんなもんだったか。
それにマリスは年齢制限を守らずに酒を飲む様な子じゃ無い。
「はーっ。 目を逸らした。」
「え?いや別にそう言う訳じゃ無いんだけど、どうしたのかな、マリス?」
ぐいっと顔を近づけるマリス。
「・・・。大地って一見無害そうに見えて、そーいうところ有るよね。」
マリスがすっと体を起こすと、俺の顔の前に指先に摘んだそれを見せる。
毛だ。
綺麗な栗色をした長い一本の毛。
「メリルの毛・・・どーして大地の首元に付いてるのかなー?」
「え?あー、いやなんでかな。はは・・。」
ひょっとしてさっき抱きしめ合った時か。
流石に気が付かなかった。
「「そうですよ、なんでですか?」」
さっきまで寝息を立てていたマリリとセリーがいつの間にか目を覚まし、2人してじーっと俺を見つめる。
その目はまだ若干座っているので、少し・・・いやかなり酔いが残っているようだ。
まぁそもそもそんな短時間で、これ程の度数のアルコールが抜けるはずが無いか。
「「「ねぇねぇ、なんでですか?」」」
マリリ・マリス・セリーが、3人して俺に顔を近づけ迫る。
別に下心とか、そんなんが有った訳じゃない・・・いや、少しだけ有るかもだけど。
冗談は置いといて、メリルのお兄さんの事、俺なんかが少しでもメリルの心の傷を癒やす・・・とまでは言わない、せめて少しでも支えになれればと思ってだ。
まだ14の少女が背負うには、この異世界の現実は重すぎる。
俺は3人を手で制す様に、一旦落ち着かせる。
「3人ならメリルの生い立ちの事、当然知っていると思うが・・・実はな・・・。」
俺はこの間の深夜にたまたまメリルと会った事。
その後、温泉街にてメリルの口からメリル自身の生い立ちや、お兄さんの事とメリルが居た滅ぼされた村の事を聞いた事など。
そして先ほどの事を説明した。
一応、頬にキスされた事は敢えて伏せておいたが。
「そう・・・だったんだね。 メリルの生い立ちの事は知ってたけど・・・。
ごめん大地、僕、ちょっと大地とメリルの事を疑うというか、嫉妬しちゃって・・・う、うぇぇ。」
ぽろぽろと涙を流しながら謝るマリス。
「ごめんなひゃい、大地さん。わたひ、わたひ・・・うぅ・・。」
マリスに続いてマリリも涙を流し目を拭う。
「大地さん、優しいんですね。 ただの女好きなんだと思っていましたが、見直しました。」
そういうセリーも目に薄っすらと涙を浮かべている。
でも見直したって、しかもただの女好きとか、セリーの俺に対する印象はいったいどんなのだ?
そして、セリーは恐らく完全にまだまだ酔いきっているな。
マリリとマリスにセリーが泣きながら俺の胸に顔をうずめてくる。
「え?ちょ・・・。まぁいいか。」
どうしたものかと思いつつも、俺は両手でそっと3人を肩を少し抱きしめる。
「大地・・・大地っていつも優しいね。」
顔を起しマリスが呟く。
「そうですよ、大地さんは優しすぎます。」
マリリも体を起し俺の顔を見つめる。
続いてセリーも体を起し、自分の席に座り直す。
「余り優しすぎるのも、誤解を招きますよ。」
セリーも落ち着いたのか、いつもの口調に戻る。
いや目は座っているので、戻ってないか。
「気をつけるよ。」
3人に少し笑顔が戻る。
ふとマリリが時計を見上げる。
「あ、もうこんな時間ですね。 そろそろお風呂にしましょうか?
大地さん、お先に。 私達は少し準備をしないとですので。」
「ありがとう、じゃあお言葉に甘えて先にお風呂を頂くよ。」
俺はソファーから立ち上がり、風呂へ向かった。
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