第8話 二人の手を握り返した
7話、8話は今までの話数より読み易いように短めにしてみました。
記念すべき?ラッキースケベ的イベント第1回から程なくして目的地であるクムリ村へ着いた俺たち3人は、村の入り口を前に安堵のため息を付いた。
あれ以降はモンスターに出くわす事も無かったが、過去に居た日本人についても聞けないままだった。
村の外周には石造りの高さ5~7メートル程の外壁が設けられており、正門と呼ばれる入口が南側に配置されている。
その門の上には監視台が有り、周囲を見張る為の門番が3名、ローテーションで常時待機しているらしい。
「おかえりマリリ、マリス。」
俺たちの姿を見つけた門番の内の1人が監視台から降りて、門の直ぐ横に設置されている通用口ドアから出てきた。
「ただいま、ザウルさん。」
マリリがザウルと呼んだこの男は身の丈180センチを超えているだろうか、服の上からでもはっきりと分かるほどの筋肉質で、いかにもファンタジー世界の屈強な男という印象を受ける。
金属と皮を組み合わせて作られた胸当てと肩当てを装備しているが、どちらかと言えば軽装備といった感じだろう。
「ところでこの者は?」
表情は穏やかだが鋭い目つきでザウルの視線がこちらに向けられた。
「俺の名はザウル・サラ。この村の警備隊長を務めている。お前はこの当たりじゃ見ない顔だな、服装も少し変わってるが何者だ?」
「申し遅れました、私の名前は西明寺大地36歳。西明寺が姓で、大地が名ですのでどちらで呼んでいただいても構いません。森で道に迷いゴブリンに襲われ倒れていた所を、2人に助けられました。」
「ん・・・ふむ、そうか・・・。」
名前を答えた直後、ザウルが眉をピクリと反応させたが、少し間を置き頷き何か確認でも取るかの様にマリリとマリスに目線を向けた。
「大地さんなら大丈夫ですよ。」
「右に同じくー。あ、腰の短刀は丸腰じゃなんだから僕のを貸してるだけだよ。」
「西明寺と言ったな・・・そうか。よし、村へ入る事を許可しよう。ところで西明寺大地、念の為の確認だが何処から来た?」
俺はマリリとマリスに話した時と同じ内容をザウルに説明した。
日本から来た事、気を失う前に影を見た事、奇跡的に赤褐色のゴブリンを倒した事など全てを。
日本という言葉を聞いたザウルは少し驚いていたが、俺の説明を神妙な面持ちで聞いていた。
「大体の事情は理解した。では俺は村長に報告をしてくるが、大地よ後で村長に合って貰う事になるだろうから、それまではこの村で体を休めて置くが良い。マリリにマリス頼むぞ。ああ、それと村の者と話す事が有ったとしても、ニホンから来た事はまだ伏せて置くようにな。」
「分かりました、ありがとうございます。」
礼を言いつつ軽く頭を下げると、ザウルは軽く手を振り返しその場を去って行った。
『日本人』だと言う事を伏せておけと言う程だから、余程その以前に居た日本人の英雄って人の影響は大きいって事か・・・まあ常識的に考えて、村のピンチを救ったのであれば頷ける。
そもそも異世界の常識ってのがどの程度かまだはっきりと分からないが、敢えて自ら公言するメリットは無いか。
そんな思案を巡らせていると、突然ぐいっと両手を引っ張られ我に帰る。
顔を上げるとマリりとマリスがそれぞれ俺の両手を引き、愛らしい笑顔で俺を見ていた。
「では改めまして、大地さんクムリ村へようこそ!」
「ようこそ、大地!」
こちらも思わず笑みがこぼれる。
今は無用な詮索をする必要も無さそうだし、取りあえずは安全な場所に無事行き着いた訳だし言われた通り身体を休めるべきだな。
「お世話になります!」
俺はマリりとマリスに両手を引かれ少し照れくさいながらも、ぎゅっと二人の手を握り返し歩き出した。