第2章 27話 あの時の大地の言葉、凄く嬉しかったよ。
船を漕いでいたマリリとセリーが軽く寝息を立てていたので、無理に起こすのも可哀想と思い2人にはブランケットをかけておいた。
食事とデザートの残りを俺とマリスとメリルで全部平らげながら、2人を起こさない様に声量に気を付けつつ色々と会話に花が咲き、気が付けば時刻は22時に差し掛かっていた。
「さて、私はそろそろおいとまするにゃ。」
「あれ?メリル帰っちゃうの? 泊まって行けば良いのに。
メリルなら私のパジャマ、サイズピッタリだよ。」
「そーしたいんだけど、明日は朝から村の外壁補修が有って、私の小隊が朝から警護に当たる予定なんだ。」
「そっかー残念。」
がっかりするマリス。
メリルが気を付かって片付けをしようとするが、マリスが「私がやるから大丈夫だよ」と、明日の朝が早いメリルを気づかう。
なんだかんだで、こう言う所もしっかりしている2人。
村の中は安全とはいってもメリルもまだ14歳の女の子。
猫科人である故に身体能力は普通の人族よりも遥かに高く、警備隊小隊長を勤めるだけの強さの持ち主だが、こんな時間に女の子を一人歩きさせるなんて俺としては論外だ。
普段は仕事で遅くなってもメリルは普通に1人で帰る事も有るらしいが、それはそれ、これはこれだ。
という事で、途中まで俺がメリルを送って行く事となった。
「じゃ、送って来るよ。帰ったら俺も片づけするから、マリスはゆっくりしてなよ。」
「うん分かった。 行ってらっしゃい。
あ、メリル大地に襲われそうになったら容赦なく倒していいからね! んじゃバイバーイ。」
「うん、アバラの2・3本圧し折っとくにゃ。」
「襲わねーよ! てかメリルもサラッと恐ろしい事言うな。」
笑顔で手を振り合う2人。
普段の何気ないこういう姿を見ると、2人共ほんとうに普通の14歳の女の子にしか見えないな。
時刻は22時を少し過ぎた所。
この間の深夜に出掛けた時とは違い、周りの家の窓からは明かりが灯っているのが確認できる。
満月では無いものの空には月が輝き、街路灯の明かりと家々の窓から漏れる明かりでそれほど暗くも無い。
「ねぇ、大地・・・。」
「ん?メリルどうした?」
「・・・。手・・・繋いでも良いかにゃ?・・・」
俺と横に並んで歩きながら、メリルが俺の顔を見上げる。
俺の顔を真っ直ぐ見つめるも、目が合うと少し恥ずかしそうに目を反らす姿に思わずドキっとする。
それに併せてその特徴的なネコミミの先端が僅かにお辞儀をしている。
「ん、いいよ。」
俺は短くそう答えると、メリルの右手を握る。
「ありがとうにゃ。
大地とこうしてると、とても落ち着くにゃ。」
そう言いながらメリルも俺の手をぎゅっと握り返す。
前に温泉街でメリルと2人で足湯に浸かった時の事を思い出す。
メリル、お兄さんを亡くしたんだよな・・・
あの時は少し俺の配慮が足りなかった。
そっと横目にメリルの様子を伺うと、とても穏やかな表情をしている。
前の事を思い出していただけに少し・・・いや、かなり心配していたがどうやら大丈夫の様だ。
先の方に中央広場が見えてきた。
まだ何件かは店じまいの途中なのか、店舗の明かりが灯り、遠目にだが片づけ作業をしている店主達の姿も見える。
噴水の淵に腰を掛け、会話を楽しむ人たちの姿もちらほら見える。
すると突然メリルに手を引っ張られる。
「ね、大地、こっち。」
「え?あぁ、どうした?」
通りの脇の街路樹の陰に突然引き込まれる。
「ん、急にどうした?何かあったか?」
俺が尋ねると俯いたまま軽く首を横に振り、少しの間をおいて再びメリルが口を開いた。
「ね、大地、少ししゃがんで、耳貸して。」
「お、おう。」
誰かに聞かれると不味い話だろうか。
それとも先に見える中央広場の辺りに、誰か不審な者でも居たのか・・・緊張が走る。
俺は街路樹の陰に隠れるように身を低くし、マリスに左耳を近づけた。
・・・・・。
え?
一瞬何が起きたのか、分からなかった。
・・・・・。
左頬に感じる僅かに暖かく、マシュマロの様に柔らかな感触。
その感触が頬から離れると、俺は思わずメリルの方を向いた。
「今日の夕食のお礼と、初依頼仕事のお祝い、それとこの間・・・ありがとうね。
あの時の大地の言葉、凄く嬉しかったよ。」
顔を赤らめながらメリルはそういうと、恥ずかしそうに両手で顔を隠す。
俺はまたあの時の様にメリルの頭を撫でると、両手でメリルをそっと抱きしめる。
それに応える様にメリルも俺を抱きしめ返す。
生き別れた兄弟が、幾年ぶりかの再会を喜び合う様にだろうか。
それとも、思い合う恋人同士の様になのか・・・。
それは分からないが暫くの間、俺達2人は静かにお互いを確かめ合う様にじっと抱き締め合った。
「ありがとう大地、今日も元気出たにゃ。
もうここで大丈夫だよ、後は1人で帰れるよ。」
ゆっくりと腕を解き立ち上る。
「ん、寂しくなったらいつでも言えよ。
じゃあ気を付けてな。」
「うん、ありがとうにゃ。」
時折振り向きながらも手を振るメリルの姿が見えなくなるまで、俺も手を振り続ける。
メリルが角を曲がった所で、姿が見えなくなる。
・・・・。
「帰るか・・・。」
俺はまた来た道をゆっくりと家に向かって歩き出した。
いつもお読み頂きまして、ありがとうございます。