第2章 26話 唯一の薙刀使い
気が付けば俺のグラスにもセリーが例のお酒を注いでいた。
勿論、勝手に。
まぁ最初に少し気にはなっていたし、一口味見をさせて貰おうと思っていたので有り難く頂く事にする。
「あ、大地しゃん、しゅこし(少し)冷やした方が、おいひく(おいしく)なりますよー?」
そう言いながらマリリが、魔法でグラスの中に丸い氷を出現させる。
相変わらず魔法便利だなというのと、酔っててもそこまで正確に魔法が使える事に驚きだ。
「ありがとう。」
マリリに礼を言いつつ取り敢えず一口。
口中に広がるアルコール感と、飲み込んだ時の喉が焼けるような刺激・・・そして口内に広がるピートの香り・・・間違いない、これはウイスキーだ。
実際にウイスキーと同じ物かは分からないが、かなりウイスキーに近い味わいをしている。
ちょっと雑味があるといえば語弊が有るが、ジャパニーズウイスキーというよりはバーボンウイスキーに近い味をしている。
それにアルコール度数も大凡だが40度位の計算だから、まさしくそうだろう。
気が付くと瓶の残りが半分以下になってる。
マリリもセリーも幾らなんでも、ウイスキーをこのペースで飲むのは危険すぎる。
もう一口、口に含みゆっくりと飲み込む。
喉を駆ける刺激を感じつつ、深呼吸を1回・・・久しぶりのウイスキーが体中に浸み渡る様だ。
もちろん無理はしない。
ちょっと喉をリセットする為に水を飲もうとグラスを取ろうとすると、マリスがさっと水を注いでくれた。
「ありがとう、マリス。」
「どういたしまして・・って、そうそう、思い出した、前に王都に居るお母さんに大地の事伝えたら、会いたがってたよ!」
「へえーそうなん・・・ん!?へ!?はっ!?」
思わず咳き込む。
お母さん、ご存命だったのか・・・
普段、全く話を聞かなかったので勝手に亡くなったのかと思い込んでいただけに驚いた。
と言うよりマリリとマリスの2人に申し訳なく、心の中で真剣に謝る。
「え、ええっと、2人のお母さんって王都に住んでるの?」
「うん、そうだよ。 お母さんは王宮魔法師団の師団長さんだよ!
ね、お姉ちゃん。」
「ええ、そうですよー。 私達のおかあひゃん(お母さん)しゅごい(凄い)んですよー?」
「は!?え、ええ!?師団長って、それってその魔法師団で一番位が上って事だよね???
なんかとんでもなく凄すぎるんじゃないのか???」
「ええ、本当に凄い人ですよ。」
酔っているハズのセリーが真剣な表情で答える。
その表情からは緊張感さえ伺える。
「マジ・・・か。」
ハッキリ言って驚きで言葉が出ない。
だがそんな俺に今度はメリルが追い打ちをかける。
「そうそう、一度だけ手合せお願いした事が有るけど、10秒も経たない内に負けちゃったにゃ。
流石、この村唯一の薙刀使いだよね。」
「え!?メリル、2人のお母さんと戦った事があるのか?
っていうか薙刀使い??魔法師団の師団長なのに魔法じゃ無くて?」
「そうだよ。
魔法の面でも無敵級の強さだけど、あの独特の間合いを持った薙刀には近づく事すら出来なかったにゃ。
まるでこちらの考えている事が、全て見抜かれている様だったにゃ。」
なんというか、まさかの展開に想像がついて行かない。
王宮魔法師団長でありながら、屈指のというか恐らくこの異世界唯一の薙刀使いであり、その強さは計り知れないと来た。
そういえば、前に魔族との戦いの時にマリリが薙刀形状の魔法剣を使っていたが、母親が薙刀使いだからこそか。
そしてその2人の母親は、俺のばあちゃんでありマリリ・マリスのおばあちゃんでもある清鈴から受け継いだ技だろう。
ウイスキーで酔いかけた脳が、一気に冷めた気がする。
「ふーっ・・・」
「どうしたの?大地。」
マリスが心配そうに俺の顔を除き込む。
「あぁ、ごめん、なんていうか色々と驚いただけだよ。」
「うん、なら良いけど。」
どちらにせよ、マリリとマリスの許可を得てこの家に住まわせて貰っているとは言え、2人の母親にはまだ有った事も無い訳だし、機会があればきちんと挨拶をしておくべきだな。
というよりも、その機会を作らなくてはいけないな。
さっきマリスは『この間』って言った位だから、王都にいる母親に連絡を取る手段が有るって事だな。
携帯電話が有る訳では無いし、ひょっとするとギルド間で連絡が行えるマジックアイテムが有ると以前にセリーが言っていたアレか。
何にせよ、後で聞いてみる事にしよう。
気が付くと、マリリとセリーが少しウトウトと船を漕ぎ出した。
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