第2章 22話 えーっと、ゴムって逃げるの?
次に俺が気になる項目は、『車輪周りの耐久性』だ。
これに関しては、先ほどまでの『振動・衝撃』問題の原因の一つでもある。
つまりサスペンションだけでは決して解決出来ない問題だ。
そもそも馬車の車輪は木製なので、タイヤとホイールの区別は無く一体になったいるものだ。
一般的な車や単車に有る様な、空気タイヤなんてものも当然存在していない。
なので地面の僅かな凹凸を拾い、ダイレクトに馬車本体へと伝達してしまっている。
木材という只でさえ脆い素材で作られた足回りに、積荷の重量と走行中の地面からの衝撃、カーブなどで旋回時に横向きに生じる荷重が加わる。
シャフトはそれなりの太さをしてはいるが、それを受ける車輪自体は非常に細い。
どう考えても耐久性に対して見合わないだけの高負荷が掛り続ければ、破損してしまうのは火を見るより明らかだ。
となれば考えられる対応策は、タイヤとホイールの制作だ。
ホイールと言えば材質はアルミが一般的だが、馬車程の径とも成ると、例えアルミ製でもそれなりに重量が増えてしままう。
動力源が馬である事を考慮すれば、出来る限り重量が増えるのは出来る限り最小限に抑えたいものだ。
となると何で作るかと言う事になるが、そこで要となる材質に心当たりが有る。
確保できる量とどれ程の加工が可能なのか、そして素材としての価格がまだ確認が出来てはいないが、それらの問題をクリア出来れば最高の素材だと思う。
あともう一つ無くてはならない素材、『ゴム』
「ありますよ、ゴム」
「え!?あるの!?」
マリリの予想外過ぎる返答にちょっと拍子抜け。
「じゃあひょっとしてタイヤとかって有ったりする?」
「えーっと、タイヤってなんですか?」
「タイヤってのは、こう車輪の回りに・・・」
絵を描いて説明してみる。
「うーん、見た事ないですね。 セリーさんは見た事ありますか?」
「残念ながら私も見た事は無いですね。」
残念。
もし有れば流用出来ないかと思ったが、少し考えが甘かったか。
天然ゴムってそもそもゴムの樹から取れる樹液だったよな。
だとしたらゴムの樹自体が珍しいとかなのか?
「ひょっとしてゴムって入手が難しかったりする?めっちゃ希少価値が高いとか?」
「ええ、難しいらしいですね。 とても素速いと聞いた事が有ります。 私は遭遇した事が無いのですが。」
「あー、僕は1回だけだけど見た事有るよ。 捕まえようとしたら逃げられちゃったけどね。 セリーはどう?」
「ギルドの資料で姿形は知っていますが、実際に見た事は無いですね。
この村の冒険者の方から目撃情報は聞いたことがありますが、目にも止まらぬ早さで逃げて行ったと聞きいた事があります。」
「大地さんの居た世界では、ゴムって珍しくは無かったのですか?」
ん???3人とも何を言っているんだ???
ゴム・・・の話だよな?
「えーっと、ゴムって逃げるの?いや、ていうか動くの??なんで???」
「え?いや、動くよ? 大地の世界ではゴムって遅かったの?」
ますます意味が分からない。
速いとか遅いとか、いったいどういう事だ?
「ごめん、出来れば絵を描いて貰っていいかな?」
セリーに鉛筆を渡す。
「え、と、私、余り絵は得意では無いのですが・・・。」
そう言いながらセリーが紙に鉛筆を走らせる。
という程でもなかった。
「はい、描けました。」
うん、どう見てもただの潰れた饅頭だ。
「こ、これ・・・?が、そのゴム? ごめん意味が分からない。
念の為、マリスの見たゴムも描いて貰っていいか?」
「!?大地さん、ひどいです・・。」
しょぼくれるセリー。
「はい、描けたよ。」
「早いな・・・ってただの潰れたまるじゃねーか。」
「だってこんなだし、大地の世界でのゴムってどんなのだったの?」
「ゴムの樹から採れるんだけど、樹皮を切って出てきた樹液が天然ゴムの原料になるんだったな確か。 普通は、色々な用途に合わせて加工された物が流通してるんだけど。」
「「「ゴムの樹???」」」
3人ともキョトンとした顔をしている。
どうやら俺の知るゴムと、この異世界のゴムは全く違うものの様だ。
いつもお読み頂きまして、ありがとうございます。