第2章 21話 この異世界の住人からすれば、革命的開発品には違い無いか・・・
作業現場となるこの倉庫の扉のスペアキーをシャオから受け取り、早速ミーティングの続きを行う事にした。
シャオの計らいで、ある程度の工具の他にも今回の荷馬車・・・もとい、スペシャルな荷馬車の製作で自由に使用しても良いという資材も幾らか用意されていた。
まずは木材、数種類の太さと長さのの角材や、ある程度表面が手入れされた丸棒。
更には、荷台やボディとして使用出来そうな板材まで有る。
これらは何の木なのかは分からないが、かなり堅そうに思われる。
ノコギリで切断するとしたら、中々骨が折れそうだ。
他には幌材として使用出来そうな、そこそこ厚みのあるキャンバス地が巻きで幾つかある。
流石に今までの仕事で幌を扱った事が無いので正確な知識が無いのだが、昔は数枚重ねたり表面に油を塗り込んだりして防水効果を持たしていたとかって、何かで聞いたことが有るな。
何かのテレビ番組だったっけか・・・世界の歴史に関するクイズ番組だったような気がする。
幌などの分からない部分は、後で調べれば良いか。
後、驚いたのが鉄材だ。
厚みや長さはバラバラだが、棒形状の物が幾つか。
厚みや形状が不均一な状態なので、フラットバー形状と呼べる程の物では無い。
金属を切断できる様なグラインダーは流石に無いので、材料として加工してくれる所に持ち込むしか無いだろうか・・・
これについては、武具店のミトンさんにでも相談を持ちかけてみるとしよう。
ボルトやナット類が有ればと期待をしたものの、残念ながら無かった。
3人に聞いてみたがボルト・ナットの存在自体を知らなかったので、そもそもこの異世界には存在しいないのかもしれない。
だが『鉄ビス』は存在しているらしいので、精度や強度の問題も有るがひょっとするとボルトとナット作り出す事が出来るかも知れない。
何気に、武具類の加工精度は高い事を考慮すると、意外と簡単に作り出せるのではないかと期待が持てる。
まずはテーブルの上に午前中に内容をまとめた紙を広げ、再度4人で確認する。
ちなみにシャオ達は仕事が有るのと、先に内容を聞いてしまっては楽しみが減るから・・・と言う理由で去って行った。
テーブルは2500mm×1500mm程あり、ちょっとした図面や大き目の地図なんかを広げても十分に対応出来るようなサイズだ。
制作にあたっての設計図を描くのにも、非常に役に立ちそうだ。
午後のミーティングも進行役は当然ながら俺が務める。
午前中に皆で挙げた項目に対しての、俺が取り敢えず考えている対策案を簡略図を書きながら3人に説明を始める事にした。
まず項目1と項目2については類似事項・・・対処すべき問題は『振動・衝撃』だ。
一般的な馬車はその構造と構成部品の材質から、走行による振動が操舵者にも荷室にもモロに伝わる。
長距離移動ともなると、慣れていない者からしたら一種の拷問みたいなものだ。
地面がコンクリートやアスファルトで舗装されているならまだマシだ。
だが、このファンタジーな世界において、街道がアスファルトで舗装されている訳も無く、地面の凹凸が突き上げる衝撃となって伝わる。
段差や大き目の石ころなんて踏んだ時には、どんなに疲れて熟睡していても一撃で目が覚める程だ。
この『振動・衝撃』に対しての対策は考えるまでも無い、『サスペンション』の導入だ。
どうやらというかやはりと言うか、サスペンションなんてものが存在しておらず、その仕組みを説明するのに一苦労した。
スプリングに関しては理解にはそれほど難しくは無かったのだが、オイルダンパーの説明に少し苦労した。
金属製の筒の中にオイルが封入されており、そこを小さな穴が空いたピストンが通る抵抗によって減衰力を発生させ、大きく速い力をゆっくりとした動きに変化させる訳だが、この異世界の住人からすれば全く未知の物なので説明に苦労した。
だが、それが逆に『人に物事を教える』という事の、俺自身の勉強にもなったので良かった面もある。
とは言え、流石はマリリ・マリスにセリーだ。
資材として転がっていた手頃な木材をそれに見立てて動かしながら説明をしたら、3人とも直ぐに理解できた。
それと同時に『革命的、開発品!!』とまで驚いていた。
ちょっと大げさな気もしないではないが、全くの新しい技術に触れればそう思うのも当然か・・・
仮に昭和の時代にスマホを持って行けば、同じ・・いや、それ以上の反応だろう。
それを考えれば、この異世界の住人からすれば、革命的開発品には違い無いか。
一概にサスペンションといってもその種類は様々だ。
リジッド式や、マルチリンク式、スイングアーム式など色々と種類はあるが、まずはサスペンションそのものの開発が可能かどうかに掛っている。
なので種類に関しては、次の問題としよう。
この時点でお昼の3時を過ぎていた。
今日は俺の思う対策案の説明だけで1日が過ぎてしまいそうだ。
いつもお読み頂きまして、ありがとうございます。