第2章 19話 うーん、女心は良くわからん・・・。
「失礼しまーす。」
「へいらっしゃい!」
店のドアを開けると恰幅の良い短髪の中年男性が奥の厨房から顔を覗かせた。
「おう、セリーちゃんにマリリちゃん、マリスちゃんじゃ無いか、らっしゃい!
ん、そちらの兄さんは初見だな。らっしゃい。
何処でも好きな所に座ってくれていいよ。」
マリリ達に親しげに声を掛けてきたこの男はこの店の店主のダップだ。
俺達4人はギルドの裏手近くに店舗を構える『食事処ダップ』にやって来ていた。
他では真似できない秘伝のタレで頂くローストボア丼が名物の、知る人ぞ知る隠れた名店と言うヤツらしい。
ローストボアに使われるのは『ビッグホーンボア』というモンスターなのだが、店主のダップが自ら狩猟を行うらしく、その獲物が捕れた時だけ店を開けるそうだ。
ボアと言う名前から猪の仲間の様だが、セリー曰く、大人に成長した個体は体長が7メートル前後有るのだとか。
例えるなら、2~3トントラック程の大きさだ。
滅多に遭遇する事は無いそうだが、もし戦いともなれば駆け出し冒険者なら生きて帰るのは不可能だろうと言われている。
ビッグホーンボアとの戦い方としては、距離を保ちつつ複数による魔法攻撃がもっとも安全かつ有効らしい。
だが、ここの店主のダップは、それを1人で狩るというのだから驚きでしかない。
しかもダップは魔法は使え無いので、巨大な両刃の斧だけで狩るのだとか。
修羅のごときその戦い方から、昔は『狂戦士』との異名まで付いていたそうだ。
そんな狂戦士が何故ここクムリ村で食事処を切り盛りしているのか気になる所だが、それはまた今度聞いてみる事にしよう。
店のテーブルは全て4人掛けの四角い良くあるテーブルだ。
余り広くは無いが窮屈でも無いその店内には、テーブルが6脚並べてある。
俺達はその1つに席を取る。
他にもメニューは幾つかあるのだが、注文は勿論、名物のローストボア丼だ。
注文後、程なくして4人分のローストボア丼が運ばれてきた。
「いらっしゃい。あらあら、そちらのお兄さんが噂のマリリちゃんとマリスちゃんの彼氏さん?
あらー、セリーちゃんまで彼女にしちゃったの?やるじゃない。」」
運んで来てくれたのはダップの奥さんのトートさんだ。
年齢はダップさんより10歳も若いらしい所謂、年の差婚らしい。
スレンダーで背が高くどこと無く気品を感じさせる姿は、淑女という言葉がしっくりと来る。
その姿からは全く想像が出来ないのだか、一部の者の話に寄るとダップよりも強いらしい。
本当なのだろうか?
それにしても、マリリ・マリスの彼氏という噂は、どれ程まで広まっているのだろうか・・・
なんだか噂だけが独り歩きしている様で、少しだけ怖い感じもする。
噂とは言え、美少女姉妹の彼氏と言われるのは嬉しいが、2人はいったいどう思っているのだろうか。
というより、セリーも彼女に・・・ってどういう事だろうか?
単に今この場に一緒に居るだけで、2人きりで行動した事とか無いと思うのだが。
「いや、そもそも彼女じゃないですし。なぁ、・・・ってあれ?」
そう言いながら3人に振りつつ視線を移すと、何故か3人共少し怒ってる???
えーっと、俺、何かまずい事言いましたっけ?
うーん、女心は良くわからん・・・。
「あらあら、まあまあ、大変ね。じゃあごゆっくり。」
そういうとトートはクスクスと笑いながら奥へ戻って行った。
大変も何も、何か良く分からないこの状況を作り出したのは、他でも無いトートさんあなたですよ?
なんとか3人を宥めつつ名物のローストボア丼を平らげ、俺達4人はダップとトートに挨拶をし店を後にした。
そして4人分の支払いは、何故だか俺持ちとなった・・・。
まぁ普段からマリリ達には、世話になりっぱなしだから良いのだけれど。
取りあえずミーティングの再開だ。
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