第7話 微かな吐息
予定が立て込んで1日空いてしまいましたが、続きの7話目です。
「この丘を越えれば、クムリ村が見えますよ。」
幸いな事にエビルコウモリとの戦いの後はモンスターに出くわす事も無く順調に進み、小休憩を挟みつつ2時間程歩いた。
仕事は基本肉体労働とは言え、ここ5年は殆どパソコンに向かう毎日で余程なトラブルでもない限り対応は部下に任せ、自分は管理業務に追われる毎日だった。
元々体力には自信が有り若い頃は運動もそれなりに熟してはいたが、やはりここ最近の運動不足は否めない。
ましてや寄る年波にも。
「大地さん、大丈夫ですか?」
なるべく平常を装っていたつもりだったが、マリリには見抜かれている様だ。
「大丈夫、ありがとう。ちょっと最近運動不足なだけだから。」
ちょっと強がって調子の良い返事を返したものの、実際の所はなかなか足腰に堪える。
こりゃ明日は筋肉痛だな・・・
そんな事を考えていると、マリリが歩きながら呪文の詠唱を始めた。
また敵か!?と思い構えようとしたが、2人の様子を見るとどうもそうでは無いようだ。
「ヒール・ファティーグ」
横に並んで歩いていたマリリが小走りに俺の前方に移動し俺と向かい合い後ろ向きに歩きながら、俺に人差し指し向けるとその綺麗な指先がほわんと淡い青色に光った。
と同時に俺の体も3秒程うっすらと淡い光に包まれると、途端に体が軽くなり足腰の疲労が消えた様に軽くなった。
「あれ、これってひょっとして回復魔法的な?」
「はい、回復魔法にも色々種類が有って一般的なヒールは傷や怪我を治し疲労も回復するのが目的に対して、ヒール・ファティーグは肉体疲労のみの回復が目的なので、ヒール・ファティーグの方が消費する魔法力が少なくて済む利点がありますね。」
少し得意げに説明をしながらウインクをするマリリの可愛さに、思わずドギマギしてしまう。
「あ、ありが・・・」
「きゃっ!」
お礼を言いかけた時だった、俺に向いたまま後ろ向きに歩いていたマリリが足元の石に躓きバランスを崩す。
「あぶないっ!」
「っと、大丈夫ですか?」
「あ、は、ひゃい・・。」
俺は咄嗟に左腕をマリリの腰に回し右手でマリリの左腕を掴み、後ろ向きに倒れそうになるマリリを抱きかかえた。
そのままの勢いでぐっと引き寄せたものだから、体は密着し顔の距離はわずか30センチ程になっていた。
顔を真っ赤にしたマリリは舌を噛み噛みで答え、その澄んだ瞳は真っ直ぐに俺を見つめ艶やかな唇は驚きで僅かに開いていた。
やばい、綺麗だ・・・可愛い、可愛い。
可愛すぎる。
それに甘く爽やかないい匂い、このままキスしたい・・・
マリリの微かな吐息を感じる。
偶然とはいえこの状況を神に感謝しつつ、俺の頭の中はマリリでいっぱいになっていった。
このままぐっと抱きしめてしまいたい・・・
マリリを抱き寄せた腕に思わず力が入り、マリリの顔が1センチ、2センチと僅かに近づく。
「えー!コホン!!!」
夢の様なひとときはマリスによって破られた。
「ちょっとぉおにーさん!僕のおねーちゃんになーにしてるのかな?」
「「へっあっいや、これは・・」」
呆れ半分怒り半分なマリスの声に驚き、思わず俺とマリリがハモル。
「あ、あー、これは偶然的ハプニングというか、俗にいうラッキースケベ的な展開というか。」
慌ててマリリから手を離し、シドロモドロになる36歳アラフォーの俺・・・ださい。
マリリはまだ顔を真っ赤にしたまま両手を胸にあて、自分を落ち着かせようとしているその姿もまた可愛すぎて、思わずこちらも赤面してしまう。
「あー、はいはい、おねーちゃん可愛いですよね。2人で世界作っちゃってまぁ仲の宜しい事で。」
腕を組み、ふくれっ面でぷいっと顔を背けるマリス。
「も、もう!マリスったらからかわないの!」
そう言いながらも、まだ耳まで真っ赤のマリリがこれまた可愛い。
「と、ところで大地さん、先ほど言ってましたラッキースケベって何ですか?」
「そうそう、それ何なのさ、おにーさん?」
「え、えーと、それはまぁ俺が居た所でよく使われていた比喩表現の一つみたいなもんで、ま、まぁ2人とそこ突っ込まなくていいから、気にしないで。」
不意を突かれた質問に思わず焦ってしまった。
漫画やアニメとかが発祥のなんて説明をしても通じないだろうし、美少女2人に上目使いで説明を求められて真面目に答えられる内容じゃないな。
「まぁほら、先を急ごう!」
俺はごまかす様に2人を促し再び歩き出した。