第2章 16話 シャオの要望
酒場の席に移動した俺達は、8人掛けの大き目の円卓に6人で陣取った。
俺を挟む様に右側にマリリ、左側にマリスが席に着く。
そして俺の正面にシャオ、その両脇にシャオの部下であるユン・レイトとミン・レイトが並ぶ。
ちなみに、シャオの部下であるユンとミンは双子の姉妹で、ユンの方が姉だそうだ。
双子と言うだけあって見た目の区別は殆ど付かないが、目元の小さなホクロが右目の横に有るのがユン、左目の横に有るのがミンらしい。
服装も同じものを着ているので、目元を隠されると確実に俺は見分ける事が出来ない。
シャオ曰く一目瞭然との事だが、何処で見分ければいいのか全然分からない。
取りあえず全員ホイップクリームがたっぷり盛られたコーヒー、所謂ウインナーコーヒーを注文。
俺もそうなのだが、全員が甘党らしい。
ちなみにこの異世界ではウインナーコーヒーの事を『もこもこ』と言うそうで、このギルド酒場での人気メニューらしい。
実の所、シャオだけがワインを注文しようとしていたのだが、これはユンとミンの双子コンビに止められた。
本人曰く、アルコールには強いので相当量飲まないと酔わないそうだが、これから仕事の話だというのにダメだと怒られていた。
顔を合わせてまだ2日程だが、なんだか普段のこの3人のやり取りが容易に想像が出来そうだ。
「では、早速ですがご依頼の荷馬車についてですが・・・そうですね、まずは納期を教えて頂けますか?」
俺は用意しておいた鉛筆とメモ用紙の束を机の上に出し、打ち合わせの体制に入った。
本来ならば先に仕様を考える為に相手の要望を聞くべきかもしれないが、シャオ達の様な行商は街から街へ移動しながら商売をしていると言っていた。
ならば次の仕事の都合も有るだろうし、それに支障を来す訳にはいかないので、敢えて納期の確認から行う事にした。
それに先に要望を聞いてしまうとアレやコレやと想像を膨らませ過ぎて、納期に間に合わない様な発想もしかねかねない。
そうなると、結果として時間に無駄が出来てしまう恐れもある。
「そうだね、当初は1ヶ月ほどの滞在予定だったけど、予定変更して2ヶ月はこの街に滞在するよ。なのでその間に仕上げて欲しい。」
シャオの返答に相槌を打つ様に、ユンとミンが頷く。
前に1ヶ月程の滞在と聞いていたので、内心少しほっとした。
「納期に関しては分かました。では肝心な荷馬車の仕様に関してですが、シャオさんの要望をお聞かせ頂けましたら・・・。」
「ふむ・・・我がレープ商会の礎の一つとなる、この世界で他に類を見ないスペシャルな一台をお願いしたい。細かい所は全て大地殿のセンスにお任せするよ。」
「はい、スペシャルな・・・と、メモメモ・・・え?は?ええ!?」
思わず変な声が出た。
シャオの顔を伺うが、どうやら聞き間違いでは無い様だ。
「シャオさんらしいですね。」
「だね。」
そういいつつクスクスと笑うマリリと、それに相槌を打つマリス。
少し考える。
シャオは『礎の一つ』と言った。
その上で俺に全て任せると・・・幾ら俺がマリリ・マリスと繋がりが有るとは言え、シャオとは会ったばかりだ。
そんな人間に行き成り全部任せるとは・・・これは今後、仕事をやりあう相手として取るに足りる相手かを試されているな。
・・・面白い。
思ったよりもヤリ手かもしれない・・・いや、その年齢で言わば社長な訳だ、そうに違いない。
「わかりました。全力を尽くします。」
「ありがとう大地殿、期待しているよ。
ああそれと、行き成り荷馬車の製作ともなると作業場所もそうだが、資材等を揃える為の資金など色々と問題も有ると思うので、それに関しては我々レープ商会で可能な限りバックアップさせて頂くよ。
なのでそれについては、心配しないで大丈夫だよ。」
「それは凄く助かります。ありがとうございます。」
思わず頭を下げる。
「いやいやそれ位当然の事だよ。言わば今回の案件、私は大地殿の知識と技術を買いたいのだよ。」
この申し出は非常に助かる。
正直な所、依頼の案件を聞いた時に真っ先に浮かんだ懸念事項だったが、それが解消されたとあれば後は製作に専念するだけだ。
だがこれは逆に言うと、それなりに完成度の高い物を作り上げなければいけないと言う事でもある。
勿論、ハナからそのつもりだが。
それにハードルは高ければ高いほど、越え甲斐が有るって物だ。
「それと、もう一つ・・・いいかな?」
「はい、なんでしょうか?」
「うん、大地殿の夜の時間も買いたいのだが・・・今夜あたり大人同士しっぽりと・・・」
そこまで言った所で、ユンとミンの間髪入れない平手打ちがシャオの顔面に入る。
「あー、あはは・・・はぁ。はっ!?い、いたたたた!?」
ふくれっ面のマリリとマリスが、2人で俺の両頬を抓る。
「大地さんのえっち・・・。」
「大地の変態。」
「ちょ、ちょっとまって俺何もしてないし、何も言って無い・・・たたたた。」
どう考えても2人の指先への力の入れ様が、冗談では無く本気の気がしてならない。
つまり本気で痛い。
いつの間にやら俺達の円卓の所に来ていたセリーに気が付き、目で助けを求める。
「・・・スケベ。」
眼鏡を外し冷ややかな目線でそう一言だけ言い残すと、セリーは去って行った。
いや、まって、セリーさん、なんか誤解してません?
ほんと俺何もそんな事してないんですけど?
どうしたものやら、また一つ悩みの種が増えた様なそんな気がした。
いつもお読み頂きまして、ありがとうございます。