第2章 10話 俺は無言のまま、優しく、だが強く強くメリルを抱きしめた。
深夜に出会った大地とメリル。
2人が向かったその先は・・・
今回の話は約3200文字と、いつもより少しだけ長いですが、今後の物語の展開に・・・。
宜しくお願い致します。
メリルに手を引かれるまま着いて行った先は、この村の観光名所たる由縁の温泉街だった。
ここ温泉街はこの村の西側の区画、住居区画とは噴水の有る中央広場を挟んで反対側に有る。
幾つかの外湯と呼ばれる宿泊施設とは別にある温泉や、観光客向けの宿泊施設、食事処におみやげ屋に露天等が立ち並ぶ。
この時間ともなると、食事処やおみやげ屋・露天といった店舗は軒並み閉まっている。
余り夜通し店舗が開いていて賑わいがあると、この村の住人の夜が妨げられる事を懸念して23時には店舗は閉店する事が取り決めとされている。
とは言え全ての施設が閉まっている訳では無く、何件かの外湯は開いていて入れる様になっている。
勿論、外湯は手ぶらで訪れても入浴できるように、最低限のお風呂セットが用意されている辺りなんとも親切だ。
基本的にはどこも男湯と女湯に分かれている、よく有る温泉の作りになっているが一応混浴も有ったりする。
そこに関しては、当然だが水着の着用が義務付けられている。
ぶっちゃけ少し残念だが、仕方が無い。
ちなみに水着は持ち込みオッケーで、無料レンタルも用意されている。
他にも温泉用の水着店も有り、割と人気だったりもする。
温泉街のメインストリートには、この区画の始まり出し部分の辺りから湧き出る温泉により西の方向に進む様に小川が形成されている。
横幅は大体2メートル程、石造りの柵に柳みたいな木、10メートル程の感覚で小さな橋が掛けられている。
建物や全体的な街並みはやはりこの異世界独特のファンタジー的では有るものの、元の世界にも通ずる情緒あふれる温泉街の雰囲気を醸し出していて良い感じだ。
「そういや、あんまりゆっくりとココに来たこと無かったな。」
「ほえ?そうなのにゃ?温泉は嫌いにゃ?」
メリルのネコミミとシッポがしょんぼりと垂れ下がる。
感情によって反応する辺りが、なんとも可愛らしい。
「あ、いやそんな事は無いよ。むしろ温泉は好きだよ。俺が居た世界・・・日本って国は温泉大国でも有るしね。」
「そっか!じゃぁ良かった!」
今度はピョコンとネコミミが起き上がり、シッポが左右に元気に揺れる。
うーん、面白い、見てて飽きないな。
「で、どこかの外湯にでも入るの?」
「それも良いんだけど、この時間は混浴は閉まってるにゃ。あ・・・大地ひょっとして私と混浴入りたかったにゃ?」
急に照れた様にメリルが俺を見上げる。
それに同調するようにシッポが丸く巻いている。
なんとも分かりやすい。
メリルも何気にマリリやマリスに負けず劣らずの美少女だ。
おまけにネコミミにシッポと来たもんだ。
男なら10人中10人が萌えないハズが無い。
否、萌えて当然だと、俺は心の中で断言しよう。
「大地、何ガッツポーズしてるにゃ?」
「え?あぁ、これはまぁアレだ。うん、気にするな。」
危ない危ない、ついつい態度に出てしまった。
「・・・私は大地がいいなら、また今度2人で混浴入っても良いよ?マリリおねーちゃんとマリスには悪い気もするけど・・・。」
「あー、はは、そうだね、楽しみにしておくよ。」
取り敢えず適当に流す振りをしつつも、心の中では軽くガッツポーズをする。
うん。別にロリ・・じゃ無いぞ。
「で、どこに行くんだ?」
「こっち、こっち。」
再び俺の手を引き歩き出すメリル。
「ここだよ!」
「なるほど、足湯か!」
温泉街とくれば当然有るであろう足湯も、このクムリ村の温泉街も例外ではない。
大理石の様な石で作られた足湯場は対面で10人ほどが利用できる程の大きさで、雨や日差しを凌ぐ事が出来る東屋も設けられている。
メリルと横並びに足湯に浸かる。
少しひんやりとした夜の気温に、足湯の温度が心地良い。
「「う~~~」」
メリルとおっさんの様な唸りがハモリ、お互い思わず笑みが溢れる。
この足湯の底にも夜光石が適度に散りばめられており、噴水の所と同様に幻想的な雰囲気だ。
こんな夜更けに可愛い女の子と2人で、ロマンチックにも程が有るな。
「ん?大地どうしたの?なんか嬉しそう。」
「あぁ、なんかこういうの良いな、と思ってね。」
「うん?だね。マリリおねーちゃん達とは温泉来た事は無いにゃ?」
「この村に来た頃に村の中の案内で温泉街を散策した事は有ったけど、一緒に足湯や温泉に入った事は無いな。」
そういえばこの村・・・というかこの異世界に来てからと言うものの、あんまりゆっくり休んだ事って無いな。
なんというか当然の事だがアウェー過ぎるこの世界でとにかく生き抜く為、そしてマリリとマリスを守れるだけの力を手に入れたくてひたすら走り抜いて来た毎日だった。
「たまには、こうやってゆっくり体と心を休めるのも大事な事だな。」
サラリーマンを長くやりすぎて居ると、ついつい休むのを忘れてしまいがちになる。
この異世界に来るまでのサラリーマン人生も、ただがむしゃらに駆け抜ける毎日だった。
それこそまともに休日すら無かった人生だった。
それで得た物は何か?
仕事柄による機械の知識や経験はそれなりに得たが、それと引き換えに失った物も多く有る。
たしかにその知識や経験は、この異世界に来てからも役には立っている。
だがあくまでも、それは結果論だ。
他にももっと道は有ったんじゃ無いだろうか?
道なんて幾らでも有る。
だったらたまには、寄り道や回り道をするのも、また人生の在り方だよな。
「・・・地。おーい、大地、どうしたにゃ?ぼーっとして。」
「えっ?あぁ、ごめん、ちょっと考え事してた。」
俺の顔を除き込むメリル。
メリルの澄んだ瞳に思わずドキッとする。
「そか。」
短く応えると、メリルは俺にもたれかかる。
「ん、どした?眠くなったか?」
「うーうん、ううん。大地と一緒に居ると、おにーちゃんの事思い出しちゃって・・。」
「メリルってお兄ちゃん居たのか。それは知らなかった。ひょっとしてメリルと一緒に警備隊に所属してるの?」
「・・・。」
少し寂しそうに俯くメリル。
さっきまでピンとしていたネコミミとシッポがだらんと項垂れている。
なんとなくだが俺はそこで察した。
しまった・・・湯に使っているせいも有ってか少し気が抜けて、配慮が足りなかった。
この異世界は日本の様に安全な所じゃ無い。
何時なんどき、誰に命の危機が訪れてもおかしく無い様な世界だ。
どう声を掛けたら良い物か・・・
考えていると、メリルが口を開いた。
「お兄ちゃんね、亡くなっちゃったんだ・・・。争いに巻き込まれてね。私は元々この村の出身じゃ無くてにゃ、私がまだ6歳の頃にこのクムリ村から遠く離れた所に有った猫科人の集まる小さな集落に住んで居たの。でもね、ある日突然現れた盗賊団みたいなのに村が襲撃されて、みんな殺されちゃって・・・。その集落で私だけが生き残って。だからお父さんもお母さんも、友達もみんな。」
一粒、二粒、メリルの涙が溢れ落ちる。
「そうか・・・辛い事を聞いちゃったな。ごめん。」
こんな時に気の効いた言葉の一つでも掛けてやれれば良いが、なんて語りかければ良いのかいい言葉が思い付かない。
悔しい。
俺はメリルの方に体を向け、両手でそっとメリルを抱きしめた。
「う・・・だ、大地・・・う、う、ぅぅぅ・・・。」
今まで堪えていたものが一気に溢れだすかの様に、泣き叫ぶメリル。
俺は無言のまま、優しく、だが強く強くメリルを抱きしめた。
どれ位の時間が経過しただろうか。
一頻り泣いたメリルが、そっと俺の腕を解き手で涙を拭いた。
「・・・、大地、ありがとうね。ちょっとすっきりした・・・。」
「うん、そっか。」
俺はメリルの頭をそっと撫でる。
「ねぇ大地、また・・・泣きたくなったらその時は、さっきみたいに抱きしめて貰っていいかにゃ・・・。」
「おう、俺で良ければいつでも良いよ。メリル・・・その無理すんな。泣きたい時は泣いてもいいんだぞ。」
メリルの目に再び、涙が溢れる。
だが先程までの悲しそうな表情とは違い、どことなく嬉しそうにも見える。
俺達2人はもう暫くの間ゆっくりと足湯を堪能した後、メリルを送り届け岐路についた。
いつもお読み頂きまして、ありがとうございます。




