第2章 2話 すみません、本当は覗きたいです。
「お風呂準備出来ましたよ。大地さんからどうぞ。」
「ありがとう。でも俺は後でいいよ、疲れてるだろうから、2人から先に入って体を休めてよ。」
「ははーん、そんなこと言っておねーちゃんのポイント稼いだ上で、実は僕達のお風呂覗く気だなー?」
と、いつもの調子でマリスが悪い顔をする。
「どんな策略だよ!ってか、覗かねーよ!」
すいません、本当は覗きたいです。
あわよくば一緒に入りたいです・・・俺は心の中でそう答えた。
「もうマリス何言ってるのよ!大地さんがそんな事する訳無いじゃない。じゃぁお言葉に甘えて、お先にお風呂頂いちゃいますね。」
くうっ!さり気ないマリリの言葉が心に突き刺さる。
自分の煩悩を反省しつつ、心のなかでマリリに謝っておこう。
「こっちは俺が片付けておくよ。」
お風呂に向かった2人の後ろ姿を見送りつつ、床に転がしたままの3人分の武具をいつもの場所に片付ける。
「そういやあの時マリリが繰り出した技・・・あの魔族は魔法剣と言っていたな。形状は刃が長い薙刀とグレイブの中間って感じだったが、ひょっとしてマリリも薙刀が使えるのだろうか・・・」
マリリのロッドを手に取る。
見た目ほど重くはない・・・というかむしろ軽いな。
材質は間違いなく鉄では無いし、もちろんステンレスでも無い、いったい何の合金で出来てるんだ?
軽く拳で叩いてみる。
中空では無い、中身が詰まっているな。
色も塗装とは違う、素材そのものの色の様に思える。
溶接痕は見たところ無いな、魔法石が取り付けられている辺りに継ぎ目が確認出来ないという事は削り出しで製作された物なのか?
実に興味深い。
この世界にも元居たの世界に有った物と同じ材質は色々と存在している様だが、この異世界ならではの謎素材も色々と有るみたいだな。
マリスが使っている弓もそうだが、競技用アーチェリーを少しシンプルにした様な形状からして、思ったよりもこの異世界の加工精度は良いのかもしれない。
これも材質は木材では無いな。
そもそも俺は弓を扱った事が無いどころか持った事も無いから良くは分からないが、これも見た目以上に軽いな。
樹脂?カーボン?
いや、にしては丈夫過ぎるよな、マリリのロッドの素材に似ている気がするな。
そもそも樹脂やカーボンならぶつけたり落としたりしたら、確実に割れるか少なくともクラックが入るだろう。
また時間が有る時にでも、ミトンさんとシャオさんに色々とご教授願いに行ってみるか。
色々と素材や加工について聞きたいことも有るし、ひょっとするとアレが制作出来るかも知れないな。
それに他にも色々と制作してみたいものは有る。
武具を片付け終えた俺は倒れ込む様にソファーに埋もれた。
「あの女の血筋・・・」
あの魔族が言っていた言葉。
あの女って多分、いや確実にばーちゃんの事を指していたんだろうな・・・
だとしたら、あの魔族とばーちゃんの間にいったい何があったのだろうか?
まるで戦った事でも有る様な口ぶりだった。
ばーちゃんは元の世界に戻ってきていたし、あの魔族も生きている訳だし・・・戦ったというので有れば決着は付かなかったと言うことだよな。
もし対等に戦ったというので有れば、いったいどれ程の強さだったのだろうか。
一度でもあの魔族と剣を交えれば、その強さは脅威だと言うのは否が応にも知らしめられる。
いや、剣を交えるなんておこがましい。
誰が見ても力の差は歴然としていた。
あの戦いは、向こうがこちらに合わせて手加減をしていた、そうとしか思えない。
『いくら武術に長けているとは言え、人間であるばーちゃんが敵う力なのか?』
・・・ん、人間?・・・まさか・・・な・・・そんなハズ無いか。
手加減していたとなれば、それは一体何の為だ?
俺やマリリ・マリスの力を確認する為・・・か。
ばーちゃんのことを知っているのであれば、俺がこの世界から言う所の異世界から来たと言う事も分かっているハズ。
同じくマリリやマリスもばーちゃんの血族だと言うことも分かっているハズだ。
その上で力の確認を行い俺達を解放したという事は、必ず何か意味が有るのだろう。
とにかく今のままじゃ、どうにもならないな。
俺自身の力も及ばずながら、この異世界に関する知識も足無さ過ぎる。
今は考えた所で答えは出ないか・・・
何事においても焦りは禁物だし、とりあえずは体を休めるのが先決だな。
マリリとマリスがお風呂から上がるまでの間、このままソファーで一眠りするか。
ていうか、全く寝て無いし。
「あー、そういやギルドでだいぶ紅茶をおかわりしたけどトイレ行ってねーな。快適に寝る為には小便しよう。そうしよう。決して2人のお風呂覗きに行くとか、そんな事はしないからな。」
寝不足故に若干ナチュラルハイな俺は、1人で呟きながら体を起こしトイレに向かった。
そして向かった先でこれから起こりうる事を、誰が予測出来たであろうか・・・
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