第52話 だとしたらとっくに殺されておる・・・
ギルドに着いた俺達一行は、併設のギルド酒場の中で一番大きな16人掛け長方形テーブル席に着く。
他の丸テーブルには、先程まで正門広場で警戒に参加してくれていた冒険者の人達が数人席に付き休んでいたので、軽く挨拶を交わしお礼を言った。
席に着いた途端緊張の糸が切れたのか、一気に疲労が押し寄せてきた。
席は長方形のテーブルを挟んで対面型。
端からマルベ、カチート、スコッパ、その隣に俺、マリリ、マリスの並び。
そして俺達と向かい側には、シャオさん含むレープ商会3名、村長スキレット、ギルド職員のセリーという席順だ。
まずは、酒場の店員が運んでくれたコップの水を一気に飲み干す。
良い位に冷えた水が、乾ききった口中に喉に体に浸み渡る。
ここまで水を上手いと感じたのは、いつぶりだろうか。
それを見た店員が、再びコップに水を注いでくれた。
「みんな、無事で本当に何より。ご苦労だった。疲れているところ申し訳無いが、今回の件について最初から説明を願えるか?」
村長のスキレットがいつになく真剣な表情で言った。
「勿論です。では、まず私の方から。私はカーズの街をベースに冒険者として活動をしています、スコッパ・ソールと申します。こっちは、仲間のマルベとカチートです。まず事の発端は・・・」
スコッパ達3人が一度立ち上がり村長に一例をしたのちに、再度席に付き説明を始めた。
カーズの街を出発した所から始まり、俺達が駆けつけるまでの経緯の説明を、要所要所でシャオの補足を交えつつ説明がなされた。
「では、ここからの続きは私がご説明致します。」
スコッパからバトンタッチを受け、引き続き俺が説明を始める。
ケルバウルフとの戦い、馬車の修理の後にクムリ村に帰還する途中で魔族に襲われた事、そしてその魔族の特徴や戦闘についてを。
先程のスコッパの説明と同様にシャオの補足説明に加えて、マリリとマリスも説明の補足を行ってくれた。
また、実際に魔族に闇属性魔法を掛けられていたスコッパ達も、その時の事を詳細に語ってくれた。
セリーは村長の横で、ギルド本部への報告の為に書記に徹している。
「と、これで以上になります。」
「ふむ。成る程良く分かった。気になるのは、その女魔族の言葉・・・あの女の血筋と言ったのは確かか?」
「はい。もしそれが祖母・清鈴を指しての事なら、最初から俺達が駆けつけるのを予測してでしょうか・・・」
もしそうだとすれば、そのせいでシャオさんやスコッパ達を危険に巻き込んだ事になる。
そう思うと申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「確かにその線も考えられなくもないかもしれんが、果たして必ずしもお主達が駆けつけるとまで予測出来るだろうか?セリーお前はどう思う?」
村長がセリーに問いかける。
「そうですね、今回は大地さん達が偶然あの時ギルド内におられ、直ぐにでも向かう事が出来そうだったので・・・そこまで予測してと言うのはちょっと無理が有るかと思います。」
「ふむ、ならば今回の荷の中に魔族に狙われるような何かが有った・・・という線は無いか?」
シャオが挙手をして応える。
「その線も無いと思われます。今回の積荷はギルドからの依頼されている品も含めて全て把握をしていますが、特に変わった品と言うのは有りませんね。・・・少し聞きにくいのですが、大地殿は何か特別な?いえ、何か特別な事情がお有りでしたら、無理には。」
シャオはそう言いながら俺の顔を伺った。
正直に答えて良いものかと村長に視線を向けると、村長は少し考えた後に口を開いた。
「今回は状況が状況なだけに仕方が無い。但し大地の素性に関してはギルド協会と一部の物にしか知らしていない状態ゆえ、他言無用という事を約束してくれ。」
シャオさんとその部下、そしてスコッパ隊がそれを約束してくれたので俺と村長からざっと説明をした。
やはり魔法が当たり前のファンタジーなこの世界は、異世界からの来訪者と言うものに割と理解があるのか、思ったよりは驚いた様子でも無く普通に受け入れた様子だった。
「なるほどね、馬車を修理する時の判断と手際の良さ、そして的確な指示の元は異世界で培われた技術と知識が有ってこそのものでしたか。」
一人妙に納得した様に腕を組み頷くシャオ。
と思えば、なんか横のシャオの部下2人まで変に納得している様に頷き合ってる。
あの程度の事ならあまり異世界とか関係ないような気がするが、取り敢えず今は流しておく事にした。
「となれば、常日頃から大地様が見張られていた・・・という可能性もあるかも知れませんね。」
セリーが言いながら、全員に分かる様に机にペンを置く。
ここから先はオフレコと言う意味だろうか。
「もしその魔族が本気で命を狙っているのだとしたらとっくに殺されておるだろう。なんにせよ大地や他の者も含め見逃し、ましてや自ら施した魔法まで解いて去って行ったのだ。油断は出来ぬが、恐らく村にまで攻め入る様な今すぐ事を起こすつもりは無いのだろう。」
村長の発言に、皆揃って頷く。
確かに実際に戦ったからこそ分かる、あの歴然とした力の差は修行や特訓なんかで適う様な領域では無かった。
なにせプラチナクラスのマリリやマリスでさえ、赤子の手を捻ると言わんばかりにあしらわれたのだ。
あの発言・・・ばーちゃんの事だとしたら・・・いや確実にそうだろう。
だとしたら何か狙いがあるハズだ。
ばーちゃんは俺の知る限りでは、この世界の事を誰にも話してはいなかった・・・ハズだ。
ともなれば、この世界であの魔族と何が有ったのかも分かりもしない。
どちらにしても元の世界に戻る方法も分からない時点で、無駄な考察か・・・。
気が付けばマリスがウトウトと船を漕ぎ出した。
無理も無い。
昨日の早朝からずっと働き戦いづくめだ。
いくら類稀な才能を持つ冒険者とはいえ、まだ14歳の女の子には厳しすぎる。
「今日はこの辺にしておこうかの。みんな取り敢えずゆっくり体を休めてくれ。」
そう言うとスキレットは席を立ち、家路に着いた。
スコッパ達もとりあえずは、このままギルドが手配した宿に向かう事にしたそうだ。
気が付けばもう朝になっていた。
俺達も一旦帰ろうかとマリリと話したのだが、マリスが寝息を立てだしたので起こすのも可哀想と思い、もう少しギルドで休んでからという事にした。
その後暫くしてから、ペティのスペシャルモーニングセットと今回の報酬金を頂き、俺達3人の家に向かった。
いつもお読み頂きましてありがとうございます。
章区切りするとしたら、この話で第一章完了と言った所でしょうか。
勿論このまま、今まで通り投稿を続けさせて頂きますので、今後とも宜しくお願い致します。