第51話 帰還
「大地さん!」「大地!」
マリリとマリスが俺に抱きつく。
「あ、あぁ、大丈夫か2人とも。怪我は?」
「私たちは大丈夫です。それよりも大地さんは大丈夫ですか!?」
「うん、俺は大丈夫、特に問題は無いよ。スコッパさん達とシャオさん達は?」
俺は両手でマリリとマリスを確かめる様に強く抱きしめる。
「私たちなら心配無い。」
荷馬車から降りてきたシャオが答える。
どうやらシャオさん達レープ商会の人達にはなにもされていない様だった。
脅威では無いという事で見逃されたのだろうか。
「自分達も大丈夫です。先ほどまでの苦しみも全く消えている様だ。」
スコッパ達は恐る恐る確認するように腕や体を動かしながら応えた。
とりあえず命が助かった事に安心し、大きくため息をついた。
「あれが魔族の強さ・・・桁が違うな。」
手の平にはまだ、ハルバートによる重い斬撃を受けた時の感触が残っている。
マリリとマリスが施してくれた強化魔法の甲斐あって、奇跡的に最初の一撃目を受け止める事が出来た。
いや、奇跡じゃない。
確実にあれは、手加減されていた。
あそこまで力の差があるのなら、俺の剣ごと叩き切るのはあの魔族にとっては容易な事だろう。
だがしなかった・・・
あの魔族は、アイツは最初からそのつもりだったのだろう。
自分の未熟さを思い知らされた。
もし闇属性魔法に対する耐性がなければ、確実に死んでいただろう。
またいつアイツが現れるか分からない。
1年後か、来月か、はたまた明日か・・・それとも数時間後か・・・
とにかくこのままじゃいけない。
強くならなければ、マリリとマリスを守る事が出来ない。
次は今回の様に助かる保証なんて何処にもない。
俺は強くなる事を胸に誓った。
「よし、全員無事なら先を急ごう。とにかく話は村にギルドに戻ってから。また何が現れるか分かったもんじゃない。ゆっくりしている暇は無いだろう。」
残る1枚のリモート・メッセーカードで、状況をギルドで待つセリーに伝えると、俺たちは先程までと同じ分担で馬車に乗り込み、クムリ村へ向けて帰路を急いだ。
それからというもの、警戒をしつつ無理の無い範囲内での全速力でクムリ村まで走り続け、魔族と対峙して以降は他のモンスターに遭遇する事も無く無事クムリ村に到着した。
俺達の乗る馬車の操舵は俺が行い、マリスには体を休めて貰った。
クムリ村の正門に着いた俺達がまず目にしたのは、正門の上にフルプレートメイルを装備した警備隊の姿だった。
普段は軽装備で2~3名だが、見える位置だけで10名は居た。
他にもこの村にたまたま宿泊していたであろう、魔法士も数名待機していた。
警備隊が俺達を確認すると、慌ただしく正門が開かれた。
俺達全員が門を通り入口の広場に入ると直ぐに閉門され、門上の見張り台からザウルが降りてきた。
気が付くと、村長のスキレットとギルド職員のセリーも俺達の帰りを広場でずっと待っていてくれた様だ。
見れば、門内の広場の各所にもフルプレートメイルを装備した警備隊と、数名の冒険者が戦闘態勢で警戒しており、メリル率いる獣人小隊も配置されていた。
「なんとか、無事戻りました。追手も無い様です。」
馬車から下りて、村長のスキレットに一礼をする。
リモートメッセージカードで魔族と遭遇した事を連絡していたので、万が一を考慮し、村では厳戒態勢が敷かれていたのだった。
俺達全員の無事が分かると、その場に居た全員がほっと胸を撫で下ろし緊張が解かれた。
取り敢えず門内の厳戒態勢は解かれ、警戒に協力してくれていた冒険者達はそれぞれの宿に戻って行った。
だが念の為ということで、門上の警備はフル装備の警備隊5名で継続される事となった。
「まずは一安心だな。連絡を聞いてワシは生きた心地がせんかったわい。」
スキレットが安堵のため息を付く。
「みなさんがご無事で何よりでした・・・まさかこの様な事態に発展するとは思いもせず、申し訳有りませんでした。みなさんにもし何か有ったら私は・・・」
深々と頭を下げるセリーの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「いやいや、セリーさんが謝る事では無いですよ。魔族に遭遇するなんて誰も予想なんて出来ませんし、それにこうして全員無事帰って来れたのですから、とりあえずは結果オーライと言う事で。」
「そうですよ、セリーさん、大地さんも私もマリスも、シャオさん達もみんな無事ですから、安心して下さい。」
「そうだよー、セリー頭上げなー。」
マリリとマリスも俺に続いてセリーを慰める。
するとセリーはそれまで堪えていたものが決壊したのか眼鏡を外し声を上げて泣き出し、そんなセリーをマリリとマリスが優しく抱きしめた。
「本当に無事で何よりだ、大地よ。行商殿たちとカーズの冒険者の方々もとりあえずはギルドで体を休めて下さい。荷馬車は私とメリルの部隊でギルドに移動させておこう。」
「ありがとうございます、ザウルさん。」
俺達はザウルの言葉に甘え馬車を渡すと、村長とセリーと共にギルドへと向かった。
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