第50話 流石はあの女の血筋だな
元居た世界のイメージでは魔族ってのは、大体が長寿命なイメージがある。
あくまでも漫画やアニメと言ったものが知識元ではあるが、数百年から数千歳は生きるイメージだ。
だから年齢なんてものは予測がつかないが、その見た目を人間に例えるならば、20歳前後と言った感じだ。
だがその風格や立ち振る舞いとでも言えばいいのか、それから受ける印象はとても20歳前後の女性のそれでは無かった。
背の高さは俺より少し高い位、そしてその少し切れ長の目は真っ直ぐと俺を捉えていた。
命の危機が迫るこの状況下にも関わらず、俺はその美しさに吸い込まれそうだった。
いや、ひょっとすると魔法か呪術を掛けられていたのかもしれないが、目線を反らす事は出来ず真っ直ぐ見詰め返していた。
一秒一秒が永遠にも感じる。
この状況がいつまで続くのか、目の前の美女・・・魔族は俺の頬に手を添えたまま不敵な笑みを浮かべている。
生きた心地がしない。
死の恐怖は増すばかりで普通なら発狂してしまいそうな所だが、俺の後ろにはマリリとマリスが居る。
命に代えても守らなくてはいけない。
その思い一心だった。
俺は目をそらさず、目の前のそいつを睨みつける。
こんな所で負ける訳にはいかない・・・そう心に言い聞かせる。
沈黙を破ったのは、目の前の魔族だった。
「ふ・・・ふふ・・面白い。流石はあの女の血筋だな。我の魔法を寸での所で弾くとはな・・・。」
俺の頬から離した右手を横に伸ばすと、あの大柄な武器ハルバートが再び空間から出現した。
まだ体は動かない。
再び死の恐怖がふつふつと増していく。
だがそいつは一歩後ろへ下がると、手に持ったままのハルバートの柄を地面に突き立て、左手で拳を握りゆっくりと前に突き出した。
魔族の言葉だろうか、何を言っているのかは全く分からないが突き出された拳がぼんやりと紫色の光に包まれる。
言葉は分からずともこの状況から、それは確実に魔法の詠称なのは想像に容易かった。
詠称が終わった瞬間、その場に居た全員がきっと死を悟っただろう。
握られた拳が開かれた瞬間、何かがはじけるような音が耳元で聞こえたかと思うと、体に自由が戻った。
先程まで意識を保つのがやっとだったスコッパ達3人も、苦しみが消えたらしく立ち上がる事が出来た。
俺も含め、みんな状況が飲み込めない。
ひょっとして、助かるのか?俺は少しばかりの期待を抱いた。
「お前達に掛けた術を解いた。我を楽しませてくれた礼だ。ふ、ふふ・・・これは愉快だ。次を期待しているぞ。・・と、そうだな・・」
突然そいつの姿が消えたかと思うと、まるで瞬間移動でもしたかの様に俺の左横に立っていた。
とても目で追える速度では無かった。
俺は咄嗟に反対側に飛び退こうとしたが、腕を掴まれ動きを止められた。
やはりその華奢な見た目からは想像出来ないほどの腕力と握力で、まるっきり力が及ばない。
すると突然、俺の耳元に顔を寄せる。
「また会おう・・・」
一言そう呟くと何を考えているのか、いきなり俺の耳を舌で舐めた。
「ほわっ!?」
予想外すぎる出来ごとに思わず変な声が出た。
俺の耳を突然舐めたそいつは俺の反応を見て少し笑うと、黒い渦と共に姿を消した。
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