第39話 それは確実に死を意味する。
『ドドッ!!!』という低い音と共に、飛びかかって来ていたケルバウルフが2匹纏めて弾き飛ばされる。
俺の右側、マリス達のいる方向に7メートルほど弾き飛び、振られたサイコロの様に転がる。
だがマリス達までの距離は、こちらまでよりも確実に遠い。
攻撃の主はマリリだった。
俺が2匹目のケルバウルフをに斬りかかった時点で既に魔法の詠唱を終えており、あの距離から2匹同時に狙い当てたのだった。
マリリが使用した魔法は『ヘイル・スピア』
以前に目の前でみたアクア・スピアの上位魔法と言った所か。
ケルバウルフとほぼ同じ大きさの円錐状の氷の塊が、ケルバウルフの胴体を貫き飛ばしたのだった。
貫くと言ってもその大きさから、ケルバウルフの胴体はまるで抉り取られる様に皮一枚で繋がっている状態だ。
ヘイル・スピアによる円錐状の氷がもう少し大きければ、胴体は真っ二つだった。
改めてマリリの魔法士としての能力の凄さに驚かされる。
プラチナクラスの実力と言うヤツか・・・
だが感心している場合じゃ無い。
二の轍は踏まない。
ここは戦場だ。
踏めば、それは確実に死を意味する。
直接、命のやり取りをする様な異世界程では無いにしても、アラフォーサラリーマン、仕事においてもいつまでも同じ失敗を繰り返しているようでは、ある意味『死』と同じ事だ。
マリリやマリスにこれ以上、無様を晒すのも男として情けない。
マリリの魔法に驚いていたのは俺だけでは無かった。
残る1匹のケルバウルフは、マリリの圧倒的な力の差を見せつけられ、動物としての本能で恐怖を感じ取ったのだろう。
完全に動きが止まり、その凶暴な2つの面からは恐怖と焦りが読み取れる様だった。
俺は剣を右下方に構えながら、一気にケルバウルフに走り込む。
今度はケルバウルフが遅れた。
俺はケルバウルフが間合いに入ると同時に、剣を両手で握り右下方からケルバウルフの頭部目掛けて剣を切り上げる。
『ドシュッッッ!!』という鈍い音と共にケルバウルフの一方の頭部を斜めに両断した。
隙は与えない。
すぐさま最小限のアクションでもう残る一方の頭部に目掛けて剣を振り下ろす。
今度は真垂直に両断、脊髄反射の様に全身を痙攣させながらケルバウルフはそのまま横倒しに倒れた。
倒れた後も少し痙攣していたが、やがて動かなくなり完全に絶命した。
全匹倒した。
マリスが2匹、マリリが2匹、そして俺が3匹、合計7匹のこの場に居たケルバウルフを全て倒す事が出来た。
手が震えている。
一瞬だが自ら愚かさ故に悟った死の恐怖になのか、勝利の嬉しさになのか感情が混ざり過ぎて、まだ駆け出し冒険者の俺にははっきりと区別がつかない。
だが俺達は勝ち、取り敢えずの行商達の命を救う事に成功した。
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