第38話 死を悟る
「ヘイル・バレッツ!!」
迫り来るケルバウルフにマリリが先制攻撃を仕掛ける。
直径5センチ程の無数の氷の飛礫がケルバウルフの動きを封じる。
5匹の内の1匹は致命傷を負い、動けなくなっている。
俺はその隙に早馬車を止め、動きの止まったケルバウルフの1匹に向かって走り込んだ。
「まずは1匹目!」
マリリの放った氷の飛礫が止むと同時に俺は頭上に振りかぶった剣を振り下ろし、1匹目の片方の頭部を切り落とす。
そのまま間髪入れず手を返し、もう一方の頭部に下から切り上げ斬撃を食らわした。
頭部を切り落とすまでは行かなかったものの、首の8割を切り裂く事に成功し、血しぶきを上げながら絶命した。
「次!2匹目行くぞ!」
仲間の1匹がやられた事により、一瞬だがその隣のヤツに若干の隙が生まれたのを俺は見逃さなかった。
俺は剣を握る両手に力を籠め、腰を少し落とすと素早く剣を水平に振り抜く。
なんとも例えがたい『ジャクッッ!』という感触と共にケルバウルフの頭の上半分が分離し、その勢いでもう一方の頭部に激突する。
そこから1匹目のヤツを仕留めた時の様に手を返し、もう一度水平に剣を振るう。
『ガキガギギギギ!!』という音と共に硬い物を叩き砕く衝撃が掌に伝わる。
俺の振るった剣をケルバウルフが口で噛み受け止めようとしたのだが、僅かに剣の威力が上回っていた。
ケルバウルフの牙を砕きながら、そのまま頭部を両断。
上半分を失った頭部は、その首の根元からだらんと垂れ下がり力なく地面に突っ伏した。
俺の快進撃は止まらない!!というのは余りにも甘い考えだった。
反撃を許す間もなく2匹目を連続して倒せた事により、俺自身に僅かながらの安堵感と、愚かな自信が出来てしまったのだろう。
まだ敵は3匹居る。
それも直ぐ側に。
所詮はこの世界に来て間もない、付け焼刃の冒険者だ。
奇跡的にブロンズクラスに昇段できただけで、他の冒険者達と比べて俺には絶対的に経験値が足りないのだ。
訓練では無い、命のやり取りである『本物の戦闘』の恐ろしさを分かっていなかった。
いや、正しくは『分かっていたつもりになってしまっていた』のだ。
気が付いた時には遅かった。
残り3匹の内の2匹が、既に俺に目掛けて飛びかかって来ていた。
「しまった!!!」
俺は慌て構えを整える間も無くとにかく剣を振ろうとするが、普通の人間のましてやアラフォーのおっさんの反応速度がモンスターに勝てる筈が無い。
加えて、相手の方が先に攻撃を繰り出している。
万事休す・・・
俺は死を悟った。
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