第33話 ラッキースケベは突然に
昨日仕事の都合で投稿出来ませんでした。
本日可能ならもう1話、投稿したいと考えています。
場所は隣街カーズへと続く街道の途中で、クムリ村からはざっと5キロ程歩いた所。
風の谷と呼ばれる、街道を挟むように断崖がそびえ立つ全長4キロ程の区間だ。
断崖絶壁の谷間とはいえ、谷間の横幅間の距離は30メートルほど有る為、それほど圧迫感や切迫感は感じられない。
谷の高さも目測15メートルで、上空を塞ぐ様な物は無いので陽の光で照らされており特別視界が悪いと言う事も無い。
ただ、谷間を吹き抜ける強い風が常に吹いており、まるで獣の唸り声の様に共鳴をしていて少し気味が悪い。
そもそもはクムリ村の商人が隣街から仕入れを済ませクムリ村への帰路の最中に、ちょっとした不注意から飼い犬を逃がしてしまったのだ。
風の谷に入る直前に荷車に飼い犬が乗っていたのは確認していたそうで、村に着くといつの間にか居なくなっていたという事だ。
探しに戻ろうともしたそうだが、村についた時点では既に陽も落ちていた時間帯だったので夜行性のモンスターとの遭遇を危惧し、ギルドに捜索の依頼を出したと言う訳だ。
逃げた飼い犬が風の谷にまだ居ると予測がついていたのは、複数の冒険者の目撃情報がその特徴が一致していたので、恐らく間違いは無いだろうと言う確信の元向かったのだった。
最初の発見は容易だった。
風の谷に着くなり、マリスが風の魔法を使い断崖の飛びだした部分にひょいひょいと飛び乗り高所から一面を見渡す。
ギルドで聞いていた真っ白いチワワの様な外見は、周りの色からは浮いている為にあっさりと発見できた。
だが、そう簡単には捕まえる事が出来なかった。
そう、滅茶苦茶すばしっこいのだ。
そのすばしっこさといったら、一般的な犬の比じゃない。
それ所か、猫よりもすばっしこいんじゃないだろうか?
さすが異世界と言った所か、見た目は短足なチワワでもその動きは全く持って非なるものだった。
だが、勿論なんの手立ても無しに捕まえに来た訳じゃ無い。
犬を捕まえるに当たって、それなりに役に立ちそうなアイテムを持参してきていた。
犬のえさ、おしゃぶり骨、ボール、なにか猫のしっぽみたいなふさふさした物に棒が付いたやつ。
取りあえず片っ端から試したが、結果は失敗に終わった。
ハラが減っていないのか、犬のえさとおしゃぶり骨には少しは興味を示すも寄ってこず。
この渓谷に住むリスの様な小動物の死骸が落ちていたので、どうも狩りをして腹は満たされていた様だ。
ならばと思いボールを投げるが、特に興味を持ってくれず俺が自分で取りに行く羽目になった。
結局は3人で追い掛け回す羽目になったのだが、どうも遊んでると思われたのか一向に捕まえる事は出来ず、悪戯に体力だけが消耗していった。
モンスターならマリリかマリスの魔法で一撃!といった所だが、流石にペット相手にそれは出来ない。
今まで依頼達成率100%を維持するマリリ・マリスとしても失敗に終わらせるわけにも行かず、ただひたすら追いかけ続けては犬1匹にもて遊ばれ続けていた。
すっかり陽も沈み腕時計を確認すると、既に19時を過ぎていた。
日中は余りモンスターに出くわす事の無い街道でも夜間は別だ。
特にエビルコウモリの様なモンスターとの遭遇率もぐっと上がる。
「も、もう、限界だな・・・」
俺は近場の手ごろな大きさの岩に腰を下ろした。
異世界に来てからというもの、毎日体を動かしかなりの体力が付いてきた自身は有ったが、やはり年齢には逆らえない時も有る。
流石に、まだ10代のマリリとマリスもそろそろ限界の様だ。
「ぼ、僕も~」
「残念ですが一度、村に戻って出直しましょうか?」
マリリ・マリスのみならず俺としても捕獲対象を目の前にして悔しい所だが、これ以上粘った所で状況が改善するとも思えなかった。
なにより、体力を消耗しきった時にモンスターにでも遭遇すれば、それこそ命の危機である。
ならばマリリの言う通り村に戻るのが賢明な判断である。
「仕方が無い、村に帰って明日また出直そう。」
そう言いながら立ち上った時だ。
神は俺達を・・・俺を見捨ててはいなかった。
そう、『ラッキースケベは突然に』
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